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エイプリル・フール  作者: いちい
紫の嘲笑
19/45

3章 3話




私と逸樹は今、部長の発見現場にいる。

昨日逸樹が言っていた通り、木々が左右に茂っていて、見通しの悪い小道だ。

意外にもクラブ棟からはそう遠くなかった。


この道の先は曲がっていてここからはよく見えないが、運動場に続いているのだと、九重先輩は言っていたっけ。


元々人通りがほとんどなく、死体が発見されらことで今や寄り付く人さえいなくなってしまったらしいと、逸樹が補足した。


雨のせいで血の跡すら残っておらず、現場にはおざなりに、立ち入り禁止の黄色と黒のストライプの看板が出ているだけだった。

本当に、申し訳程度の対処だということが透けて見えるようだ。


まあ、好き好んで殺人現場近づく奇特な者などいないだろうが。

証拠は雨が消してしまっているし、何より犯人はまだ捕まっていない。


「それにしても、見事に何も手がかりが残ってないな。

教員が遺体と一緒に回収したのかもしれない。」


「うん、そうだね。

雨の中に放置しておくと、せっかくの手がかりも消えちゃうし。

いったい、本当に部長はこんな人気(ひとけ)のないところをわざわざ通って、何をしようとしてたんだろう。

もっと明るくて舗装された良い道もあるのに。」


二人で周囲を観察する。

しかし、めぼしい手がかりはやはり、見当たらない。


逸樹が声をかけてくる。


「環、気はもう済んだか?」


「あっ、ちょっと待って。」


どうしても確認したいことが一つ、あったのだ。


私は立ち入り禁止の看板をすり抜けて、近くの茂みをあさった。

逸樹が制止しようと動くが、手を(かざ)して止める。

彼は物言いたげにしつつも、好きにさせてくれた。


そのまましばらく、私は記憶を頼りに辺りの茂みをあさり続ける。

すると、私の手に、何か自然物にはありえない感触の物が当たった。

引きずり出すと、それは緑色のレインコートだった。

ちょうど暗くなってきた時間帯にこの辺りで着れば、保護色になりそうな色調だ。


逸樹の息を飲む音が聞こえる。


「環、おまえどうして…。」


「逸樹、ここ見て。

このフードの付け根のあたりの紐。

部分的に、くすんだ赤に変色してる。

多分、血痕だね。犯人が着てたんだ。」


逸樹が私に近寄って来た。


悲壮な顔で私に尋ねる。


「さっき、まるで最初からそれがあるって分かってたみたいに、辺りを探してたよな。

なんで、お前がそんなこと、知ってるんだよ。」


私は一瞬ためらった。

しかし、これがここにあるということは、やはりあの夢が映すのは、現実に起きることだったのだろう。


言うべきか、言わざるべきか…。


決めかかねていると、逸樹が言った。


「環、お前が言いたくないなら、俺はきかない。

でも、何か俺に出来ることがあるなら、誰かの助けがいるなら、言ってくれ。

一人で抱え込まれるのが、一番つらい。」


それでも私の躊躇いは消えない。


傘に当たる雨の音が、一段と大きく私の耳にこだまする。


「…それが荒唐無稽な、他人が聞いたらバカにするようなことでも?」


逸樹は、それでもだ、と言った。


そこまで言うなら…。

意を決して逸樹に、あの夢のことを話すことにした。


「あのね。一昨日から、私、変な夢を見るの。」


「変って、具体的にどんな夢だよ。」


「真っ赤な空間で、白い靄が出てきてスクリーンみたいになるの。

それで、そこに次の被害者が殺される時のシーンが映るんだ。」


逸樹は真剣な顔になって聞き続ける。


「それじゃあ、あのレインコートもその夢に?」


「うん。まさか予知夢だなんて信じられなかった。

だから、確証が欲しくて…。」


逸樹は一つ、大きく頷くと、ほっとしたように息をついた。


「はぁー。安心した。万が一、お前が犯人だったらと思って焦っちまったよ。

で、犯人は分かってるのか?」


「ううん。なんだか画面から切れてて分からなかった。

でも、次に狙われる人は分かるよ。順番に、都馬、夕、逸樹、私。

都馬は寮の部屋で倒れてたけど、時間が分かってるから大丈夫。

夕方の4時43分だった。」


逸樹が、腕のデジタル式の黒い腕時計を見る

。というか、こいつは腕時計まで真っ黒なのか。

…喪服でもあるまいし。


「なるほど。

なら今は3時だし、寮に戻って津宮先輩の部屋をこれから訪ねてみるか。」


「うん。ありがとう。

私じゃ男子寮には入れないから、様子を見てさりげなく忠告しておいてくれる?

都馬の部屋にある、スポーツドリンクのペットボトルに毒が入ってるはずなの。

多分、ネットかなにかで手に入れたんだと思うんだけど…。」


逸樹は顔を引きつらせた。


「毒まで犯人は用意してんのかよ…。

マジで殺る気満々すぎるだろ。」


彼はそれでも了承してくれた。


私はもう一度小さく、ありがとう、と呟いた。


逸樹は、礼ならさっきもらったろ、と笑っていたが、私が二度目に言ったお礼は承諾してくれたことに対してではない。


信じてくれた。

ただそれだけのことが、私はたまらなく嬉しかったのだ。

そう、涙がこぼれるくらいに。


私はこっそりと、傘の影で涙を拭った。


逸樹は気付いていたようだったが、何も言わなかった。


そうして、私たちは相変わらず降り続けている雨の中、レインコートを元の場所に戻すと現場に向かって手を合わせ、寮へと帰って行ったのだった。







8月11日 後半追加しました。


あと、タイトルの数字がおかしかったので、修正しました。


それにしても、このサイトは何でスペース開けても自動的に詰められちゃうんでしょう…?


ちょっと読みにくいかもしれません。

すいません。





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