表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エイプリル・フール  作者: いちい
紫の嘲笑
18/45

3章 2話

 



 そこには既に、私たち以外の全員が揃っていた。


「あぁ〜、えっと。ごめん。」


 逸樹がそれに応える。


「いや、そう待ってないさ。

 それより、やっと全員が揃ったんだ。

 始めよう。」


 それもそうだ。

 元はと言えば、状況の整理のために皆に集まってもらったのだから。


 私は気持ちを切り替えた。


「そうだね。じゃあまず、皆、急に呼び出してごめん。

 あと、一応白石先生にもお礼を言っておきます。

 来てくれてありがとうございました。」


 私は先生に軽く一礼する。


「そう気にしなくても構わないさ、小塚君。

 こんな状態じゃあ、僕も落ち着いて読書できないしね。」


 白石先生がそう言った。


 私はすう、と一つ、息を吸い込む。


「それでは本題に入らせていただきます。

 皆もう知ってると思うけど、昨日部長が殺されたんだ。

 それに、崖崩れで道が塞がって、あと3日はキャンパスに閉じ込められたままみたい。

 さらに、携帯も通じなくなってる。」


 場を仕切りながら、いつもこういう時の取りまとめをしてくれていた部長はもういないのだということを改めて実感して、私は一抹の寂しさと、再びのやりきれない思いを感じていた。


「どうしてこんなことに…。」


 都馬が蒼白な顔で呟く。


「まあ確かにびっくりだよ。

 やっとサークルに入ったと思ったら、翌日にこれだしな。」


 逸樹が同意する。


 本当に、逸樹と千秋さん、紗枝にとっては、とんだ災難だろう。

 普通は入部早々、殺人事件に巻き込まれるなんて思わない。


「でもぉ、部長ってそんなにヒトから恨みを買うタイプじゃなくないー?

 すっごく真面目だったしー。」


 夕は首を傾げる。

 昨日はかなり取り乱していたから心配していたのだが、一晩たったらだいぶ落ち着いたようで、安心した。

 案外というか、夕はやっぱり図太い。

 いや、ここは友人としては、豪胆と言っておくべきか。


 しかし、その発言にも一理ある。

 部長はぼっち…もとい、ロンリーウルフだったため、そもそも怨まれるほど関わりのある人物がいたかどうか怪しい。

 寂しい子だったのだ。


 サークルのメンバーとはよく関わっていたが、良い関係を築けていたと、客観的に見て思う。


 夕は続ける。


「うーん。それに、奥の小道の方で見つかったって、きいたけど。

 それもなんかヘンだよねー。

 だってあのへんって、正門とか寮から逆の方向だしー。

 部長ってば、あんなとこで何するつもりだったんだろ?」


「確かに妙だな。あちらには確か、運動場ぐらいしかないんだが。」


 九重先輩も(いぶか)しんでいる。


 言われてみてばそれも妙だ。部長は自宅通学だったはず。

 最終バスは9時だから、それまで時間があるとはいえ、部長の性格からして用もないのにあんなキャンパスの奥に行くだろうか。どこか不自然だ。


 都馬が急に立ち上がった。


「ここにいても埒が明かない。

 俺は部屋に戻る。何か分かったら教えてくれ。」


 そう言うと、白いものが覘くリュックサックを背負って、逃げるようにその場を去って行った。


 続いて紗枝が、体調がすぐれないので失礼します、と言って、その場を辞していく。

 確かに顔色が悪い。


 そう言えば、朝からなんだか調子が悪そうだった。

 引き止めて、部屋で休ませるべきだったかもしれない。

 僅かに罪悪感を抱く。



 結局めぼしい情報も出ないので、それを皮切りに、他のメンバーも退室していった。


 私は続々と皆が出て行く中、逸樹を呼び止めた。


「ねえ逸樹。付き合って。」


 逸樹は何を思ったのか、そのイケてるツラを真っ赤にした。


「ちょっ、お前、他のヤツがいる前で何言ってんだ!?」


 ぼそぼそと抗議してくる。


 なんだこの純情ボーイは。

 私は思った。

 イケメンなのに純情とか、こいつの場合ギャップがありすぎて、萌えるというより気持ち悪い。


 つい、冷たい声を出してしまう。


「あんたは何を想像してるの?

 私はただ、部長の発見現場に同行してほしいっていう意味で言ったんだけど。」


「ああ、なんだ。

 うん、まあそうだよな。」


 逸樹はこころなしか残念そうにしつつも、頬を紅く染めていた。


 ここにエムがおる…!?


 っていうか私、地雷踏んだ?

 新たな世界の扉を示しちゃった?


 私は戦慄した。

 まさか幼馴染にこんな一面があったなんて…。

 知りたくなかった。

 心から自分の行いを猛省した。


「えっと、それで結局来てくれるの?」


「ああ、良いぜ。」


 逸樹は首肯する。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ