2章 7話
もう何度目になるだろう。
私は今、赤い夢の中にいる。
慣れたくないのに慣れつつある事実にも嫌気がさす。
前回と同様に、赤い世界の向こうに白い靄のスクリーンが形成されていく。
私は拳を握り締めた。
スクリーンは徐々に光景を映し出す。
今度は、誰かの寮の部屋のようだ。
景色からすると、男子寮だろうか。
映像が動き、部屋の主の姿を映し始める。
そこに現れたのは、津宮 都馬の姿だった。
彼は普段の、その体格に不似合いな温厚な人柄からは想像もできないくらいの苛立ちを、その顔に浮かべている。
付き合いの短い者なら、同一人物だとは分からないだろう。
「くそっ!」
彼はそう悪態をつくと、机の上に放ってあった白いビニール袋から乱暴にスポーツドリンクのペットボトルを取り出し、中身を一気にあおる。
しかし前回のことを考えると、このまま何も起こらないというのはありえない。
案の定、彼は突然苦しみだした。
頸に爪をたて顔を青く変色させて、もがき続ける。
彼は近くにあった私物を派手に薙ぎ倒しながら、自身もまた床に崩れ落ちた。
彼の体は痙攣を始め、いっこうにそれはおさまらない。
いてもたってもいられず、私はスクリーンに向かって走りだした。
ところが、いくら走ってもそこに近づくことさえ出来ないのだ。
都馬の顔は、もう青色を通り過ぎて紫色になってきている。
赤い無限回廊と化した世界を私は諦めずに走り続けたが、ついに転倒してしまった。
無様に床にひっくり返って、私はただじっと、友人の生命の灯火が消えていくのを見ていることしかできなかった。
…それしか私には出来なかった。
強い怒りと悲しみ、そして無力感がこみ上げる。
部長のときもそうだった。どうして私には何も出来ないのだろう?
私には視えているというのに…。
黙って歯を食いしばり、拳を強く握って、気を確かにもつ。
せめて。せめて何か手掛かりを___
そう私が祈った瞬間。
映像に一瞬だけ、ベッドサイドに置かれた無骨な銀色の目覚まし時計が映りこんだ。
16時43分を表示している。
映像がぶれたのは本当に一瞬だけで、画面は再び都馬を映す。
彼はもう動かない。
その表情は苦悶と無念に染め上げられており、かつての面影はもうどこにも見出せなかった。
スクリーンは再び靄に戻り、次第に赤に飲み込まれてフェードアウトしていった。
いつもの声が私を苛む。
「ホント、役立たずだよね。
なぁんにもできないし。
っていうか転ぶとか。あははっ、マジでうけるわ〜。
アンタにはどうせ何にも出来ないんだから、グズは大人しくしてれば良いんだよ。
あっはっはははぁ!」
私の握り込んだ拳からは血が滲んでいた。
人影の言うことを否定出来ない自分への怒りと恥ずかしさに震えながら、俯く。
_____そのまま私の意識は遠のいていった。