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エイプリル・フール  作者: いちい
踊れ踊れ白靄の中で
14/45

2章 5話

 




 翌朝。寮の食堂で、夕と待ち合わせして朝食をとる。昨日の帰り道に約束しておいたのだ。


 広い食堂はなぜか普段より騒がしく、空気もどんよりと重いように思われた。

 その上、私たちの方を何人もの人たちが、ちらちらと窺っては小声で何か話している。

 耳を澄ませると、今朝、河野、という単語が拾えた。


「部長に何かあったのかな…。」


 心配になって、思わず私はそう呟いていた。

 この前に見た夢を、まだ引きずってしまっているのかもしれない。

 なぜか無性に、胸騒ぎがした。


 夕も、気にはなっている様子だが、話の内容よりもむしろ、周囲の態度のほうに憤慨しているらしい。


 可愛らしい桜色に塗った唇をすぼめて、ぷりぷり怒っている。


「さあねぇー。

 それよりも何なのよ、じろじろ見ちゃってー。カンジわるぅっ。」


 夕は苛立たしげに、ハンバーグにぶすりとナイフを刺す。


 私も同じモーニングセットについているサラダを口に運びながら、あれこれと可能性を考える。

 しかし、またしてもあの不愉快な夢を見るかもしれないとつい思ってしまい、昨日はあまり眠れなかったのだ。

 寝不足気味の頭では、結局、妥当な予想は思い浮かべられなかった。


 いつもなら美味しく感じるはずの朝食も、なんだかもやもやして、味気なく感じてしまう。


 そのうちに、小さなざわめきの中に足音が混ざり、段々とそれが大きくなっていくのに気がついた。

 寮内で走ると管理人さんに怒られてしまうというのに、いったいどこの間抜けだろう。


 ついに音は、食堂の扉の前で止まり、私がそちらに目を向けるのとほぼ同時に、扉が開いた。


 荒い息でそこに立っていたのは、逸樹だった。

 彼はつかつかと真っ直ぐに私たちの座っている席へとやってきて、息が整うのも待たずに言った。


「河野 諒子が殺された。」と。


 私の手からナイフがゆっくりと床に滑り落ち、金属音が妙に大きくあたりに響いた。


「それはどういうことなのかな?」


 近くのテーブルについていたのか、どこからともなく九重先輩がわいてきた。


 しれを受け、険しい顔で逸樹は続ける。


「河野部長は昨日、俺たちと別れた後、一人で書類を見ていたらしい。奥のトイレを使ったヤツが、17時30分ごろ目撃したって男子寮で騒いでた。

 その後、何があったかは分からんが、今朝の6時すぎに、運動場近くの細い木立に囲まれた裏道みたいなところで、胸から血を流して倒れているのが、朝練中の野球部のヤツらに発見された。

 あいにく保険医は締め出されてて、はっきりとしたことは分かっていない。

 でも、そういうのに詳しいのが言うには、多分、心臓を一突きだそうだ。」


「え、そんなー。笑えない冗談よしてよぅ。

 だ…だって、そんな…。」


 夕はかすれた声で呟く。


 九重先輩が逸樹に、それは本当なのか、と言った。


 逸樹は静かに、本当のことだ、と答える。


 夕はそれを聞くことなく、耳を塞いで涙を流したまま、震えた声でわめいている。


「うそぉっ、だ、だってぇ…。

 あの部長が、だよ!?

 死んじゃったなんて、そんなはずないよう。

 昨日会ったとき、いつもとおんなじように、元気に毒を吐いてたじゃん…。

 ねぇ、嘘でしょ?

 …嘘って言ってよぅ…。」


 夕は泣き崩れた。


 逸樹は沈痛な面持ちで、それでも本当なんだ、と繰り返した。


 私は、夕は自分より取り乱していたせいで、ショックではあったが、幾分冷静に状況を見ることができていた。

 一つ、逸樹の言葉で気になる点があったのを指摘する。


「ねえ逸樹。保険医が『締め出されてた』って、どういう意味?」


「もう一つ悪い知らせがあって、その関連なんだが…。

 ここ最近、雨が続いただろ?いつになく強いのが。

 そのせいで、ここに通じる道で崖崩れが起きた。

 工学部の残ってたヤツらでなんとか警察に無線が通じたが、あと4日は復旧にかかるらしい。

 電波も、何か異常が生じたのか、電話やメールが使えない。」


 逸樹は、しばしの沈黙の後、さらに続けた。


「俺たちはここに、誰とも知れない殺人鬼と一緒に、閉じ込められたってことだ。

 少なくともあと4日はな。」


 今や、食堂中が重苦しい静けさに包まれていた。夕のしゃくりあげる音だけが、小さく響く。


 私はしかし、それ以上に、別のことに気を取られていた。

 逸樹はなんて言った?

 部長が胸から血を流して、木立の中の道で倒れていた?


 それでは、まるで___




 ___私の夢の通りではないか。





遅くなりました。


次は金曜になりそうです。


すいません。

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