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エイプリル・フール  作者: いちい
踊れ踊れ白靄の中で
13/45

2章 4話

 



 紆余曲折はあったものの、私たちは各自作業に入っていった。

 私の場合は、話はもう決まっているので、絵を描いていく。

 適当に、空いている机に座り作業を開始する。


 逸樹は一つ前の机に座って、興味深そうに私の作業を見ていたが、不意に話しかけてきた。


「なあ、部屋の隅にある本棚に、バックナンバーのついた厚い本があるが、あれが会誌か?

 参考に読んでみたいんだが。」


 私は目で確認する。

 確かに逸樹が指しているのは、文芸サークルの会誌だった。

 部屋の隅の、大きな木製の本棚に並んでいる。

 本棚は、重厚な茶色いニスの色が気品を醸し出す、我が部自慢の一品だ。


「うん、汚したり、折ったりしないなら良いよ。過去5年分まであそこに保管してあるから、好きに読んで。

 持ち出しも、ちゃんと返すならオッケーだよ。」


「わかった。後で借りさせてもらう。」


 しかしここで、千秋さんと作業していた夕が、右手を挙げると口を挟んだ。


「あ、待ってー。

 去年のはアタシが借りるから、持ってくのは古いやつにしてぇー。ごめんねー。」


「ああ、構わない。参考にしたいだけだからな。」


 逸樹は頷く。


「ありがとー。」


 そこで会話は切れ、私たちはまたしばらくの間、黙々と作業を続けた。


 夕方の4時頃になってから、私たちは早めに作業を切り上げて、寮への帰路につく。

 同じく寮生の夕、逸樹、千秋さん、九重先輩も一緒だ。


 さらに、紗枝まで一緒に行くといってきかず、乱入してきた。

 寮暮らしなのかときくと、昨日の遭遇の後に行った聞き込み調査で、私が寮生だと聞きつけて、即刻手続きをしたらしい。

 早すぎるだろう、行動が…。


 紗枝は、センパイと共同生活…と、うっとりと呟いていた。

 この子が道を踏み外さないか、真剣に心配になってきた。


 皆は、和やかに談笑しながら歩く。


 特に逸樹と千秋さん、紗枝は新入生なので、校舎の紹介なども織り交ぜつつ、語る。

 やはり新入生2人(私に個人的な質問ばかりする紗枝は除いて)は大学生活に興味があるようで、あれこれと質問されては、夕、九重先輩と一緒にできる限り答えていく。

 紗枝はしばらく放置だ。この子には自重というものを知って欲しい。本気で。


 意外なことに、九重先輩は気持ち悪いくらい、校舎の構造に詳しかった。それもピンポイントで。


「それからなぁ。特に体育館の更衣室のセキュリティは、この学校も気を遣っているのだよ。男子、女子ともに、たとえ窓を開けたとしても、各寮の2階と3階の中間の壁にくるようになっている。絶対に覗けない。

 漢たるもの、覗きは感心せぬからな。

 そもそも寮だって鍵はオートロックだし、夜間には定位置にカードキーを差し込んでおかないと、管理人が確認に行くのだが。まあ、内側からなら鍵なしでもあくが。あと…。」


 …きっと先輩の頭の中も春なのだろう。


 九重先輩の話を聞きながら、私の意識は別の所に飛んでいた。


 あと1週間もすれば、また講義が始まるなぁと、私は満開の桜並木を5人でくぐりながら思う。


 桜___始まりの季節を告げる花。


 願わくば、今年も穏やかに過ごせますように。

 私はそう、心から祈った。



 それが聞き届けられることはないということも知らずに。



 私の視線の先にあった桜の花が、降り注ぐ雨の勢いに負けて、花弁をひらひらと撒き散らしながら地面へと舞い落ちていった。






大変申し訳ありませんが、作者の期末試験が死滅しそうなので、更新を今週は控えます。


次回は日曜日あたりになると思います。


読んでくださっている皆様、本当にごめんなさい…。m(_ _)m

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