2章 3話
するとそこで、部室のドアが、がらっ、と開いた。
何事かと、私を含め全員の目が、ドアに釘付けになる。
そこにいたのは、笹野 紗枝だった。
「すいません、入部したいんですけど!」
ずかずかと不機嫌そうに部屋に入り込み、私の腕をとり、くっついてくる。
周りの部員はほとんどが、突然のことに目を白黒させていた。
紗枝は、逸樹を威嚇している。
「センパイ、なんですか、この黒いイケメンは。敵ですか!?敵ですね!」
私は紗枝の頭を軽く、ぺしっ、と叩く。
「紗枝、落ち着きなさい。この黒いのは、私の幼馴染。
篠宮 逸樹っていうの。」
紗枝はオーバーリアクションにとびあがって驚いている。
「え!?幼馴染?初耳です!?
じゃあライバルじゃないんですね。
すいませんでした。」
そう言うと、ぺこりと頭を軽く下げる。
逸樹は気にしない、と言ったが、おそらくあの様子では、意味がが分かっているのではなく、単に面食らって混乱しているのだろう。
紗枝といい夕といい、私の友人はなぜ揃いも揃ってこうきわどいのだろうか。
というかそもそも、彼女はなぜここに…。
そう言えばよくよく思い出してみると、昨日の夜に、自分で紗枝にメールしたんだったような気がする。
倒れた理由のところでサークルのことを少し書いたはずだから、きっとそれを頼りにたどり着いたのだろう。
なんて執念だ。彼女を突き動かすものとはいったい…。って、私か。
「笹野さん、ですね。良いでしょう。
では書類に記入を。」
唯一この場で冷静な部長はそう言って、紗枝に書類を手渡す。
「部長、良いんですか?」
紗枝は見ての通り、ちょっとめんどくs…いやいや、個性的な子だ。
迷惑をかけるかもしれない。
部長は黒縁眼鏡をキラッと輝かせる。
「飛んで火に入る夏の虫を見過ごす手はありません。」
私は部長を見て納得した。
そうでした、確かにこのメンバーならいまさらですよね…。
「ところで、笹野さんと小塚さんは、どういった関係なのですか?
ひどく慕われているようですが。」
部長が私に尋ねてきた。
「紗枝は、私の高校時代の後輩です。
えらく懐かれてしまっていて、追いかけてこられちゃったみたいで。」
部長に紗枝との関係を話す。
そのうちに、紗枝が書類を書いたと言って、部長に提出した。
部長はそれに目を走らせ、記入事項を確認すると、一つ頷く。
「不備はないようですね。
それでは笹野さん、文芸サークルにようこそ。
まずは誰か部員と組んで、活動内容を教わってください。」
「環センパイが良いです。」
紗枝は光速で答えた。
しかし、それは無理な相談だ。
「ごめん、私はもう、逸樹と組んでるの。」
「なっ…!」
紗枝が床に、膝から崩れ落ちていく。
俯いた顔にかかる前髪の隙間から、恨めしそうに逸樹を睨む。
そんじょそこらのお化け屋敷など目ではない怖さだ。
錯覚だとは思うが、何か黒くて淀んだオーラをも噴き出している。
「ふふっ、やっぱりあなたは敵です。
環センパイは渡しません…。
今回は紗枝が出遅れましたが、次回こそは…。」
そう言って、肩を震わせている。
ただ、あまりに彼女が真剣だったから、誰にも言うことができなかった。
『いやこれ、新入部員教育だから。次ないから。』とは…。
紗枝の背後をみると、部屋の隅でどんよりとしていた九重先輩が、いつのまにか復活して立っていた。
紗枝の肩を、とんとん、と叩くと、サムズアップして己を示す。
紗枝は生ゴミを見る目で、仕方ないですね、と言い、九重先輩についた。
九重先輩のドヤ顔が印象的だった。