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エイプリル・フール  作者: いちい
踊れ踊れ白靄の中で
10/45

2章 1話

翌朝、私は寮の食堂で朝食をとってから、エントランスに向かった。


この九重学生寮は、1階部分は共有スペースとして、食堂・エントランス・喫煙所、それから談話室になっており、2階以上の部分が部屋として用いられている。


基本的に部屋の並びは学籍番号順だが、入れ替わりがある場合は空いているところから詰めて使ったりするので、結構アバウトだ。


階段を降りると、エントランスには既に逸樹の姿があった。隅の上品な長椅子に座って何か熱心に、黒くて重厚な手帳を覗き込んでいる。待たせてしまったようだ。


「お待たせ。」


逸樹は顔を上げた。


「いや、そう待ってない。それより、呼び出しておいてなんだが、体調は平気なのか?」


不謹慎だが、私は逸樹が心配してくれたことが嬉しくて、少し笑ってしまった。


「大丈夫、気にしないで。ちょっと疲れてただけだから。」


「なんでここで笑うんだよ、おかしな奴だな。まあそれなら良い。そろそろ行こうか。」


逸樹は首を捻っていたが、そう言うと椅子から腰を上げる。


私たちは二人連れ立って、寮の扉をくぐり、部室に向かう。


部室のあるクラブ棟は、キャンパスの入り口から見て一番奥に位置する。中央が事務棟、正面が広場や食堂、その奥にサークル関連の施設が集まっている、というわけだ。


まったく、なぜクラブ棟は奥の方なのか。まさか、少しでも、建物に篭りがちな学生を運動させようとする、大学側の罠だろうか。


微妙な理不尽さに腹を立てつつ校門を抜けると、逸樹が不意に話しかけてきた。


「そういえば、お前のサークル、文芸サークルだったよな。どんな活動してるんだ?」


「文芸って名前の通り、小説書いて、年1で会誌を作るのが一番派手な活動かな。あとは、月に1回、近くの幼稚園に行って、自作の物語の読み聞かせをさせてもらったり、絵本を寄贈したり。


今は一箇所だけなんだけど、前は班に分かれて3箇所くらいの園をローテーション組んでまわってたくらいで、結構好評だったんだよ。」


逸樹は首をかしげる。


「ん?じゃあなんで今は、一箇所になったんだ?文芸サークルっていえば結構メジャーな部類のはずなのに。部員の数もそういえば妙に少ないし。」


私はつい、言葉に詰まってしまった。それは文芸サークルのタブーに触れてしまう話題だったから。今話しておくべきなのかもしれない。でも、入部を考えているだろう逸樹にそれを言うのも野暮だろう。


今はまだ、ぼかしておくことにした。


あまり長く沈黙しても不審に思われてしまう。私は急いで言い繕う。


「まあちょっと、去年に色々あってね。良くない噂も流れたから、退部する人が続出しちゃったの。今残ってるのは、何かしら部に思うところがある人ばっかりなんだよ。」


逸樹はまだ怪訝に思っている様子だったが、一応は納得してくれたらしい。


私にとっては都合の良いことに、そうこうしているうちに、私たちはいつの間にか部室の前にたどり着いていた。





今回はちょっと短めです。


その分、次は長めになりそうですが。

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