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赤面編

自由すぎる会話を楽しんでもらいたいです。

なんか…小説っぽくなくてすみません(´・ω・`)

「なにか辛いことでもあったの?」

 肘の裏にキスをすると彼女がそっと顔を覗き込んできた。

 無意識にやった行動が恥ずかしくて、ふいっと顔を背けると彼女は困ったようにはにかむ。

 しばらくこちらを見つめていたが、返事をする気がないらしいのを見て取ったのか、小さくため息をついて優しく頭を撫でてくれた。

「むかしむかし、あるところに…。」

 ゆっくりとした口調で彼女が喋り出す。小さい子どもに絵本を読むような優しい口調だ。

「三匹の子ブタがいました。

 彼らは太陽光パネルのついた、褐色のレンガの家に住んでいました。

 環境に優しい家作りを心掛けたので、燃やしたらダイオキシンが出そうな物は買わず、生ゴミは乾燥させて畑の肥料にしていました。お風呂のお湯も循環する仕組みになっています。

 一番上の子ブタはベム、二番目の子ブタはベラ、三番目の子ブタはベロリンガという名前でした。」

 彼女を顔をそっと見ながら黙って聞いていたが、子ブタの名前を聞いて思わず口を開いた。いや、口を開きかけたが、唇に人差し指を当てられてしまった。

 眉をピクリと動かすと彼女は悪戯っぽく笑ったが、そっと唇から指を離すと話を続ける。

「留学先での初めての共同作業で家を作り上げた子ブタ達はとても仲が良かったのですが、ある日些細なことで喧嘩をしてしまい、ベムが家を出て行きました。

 ベムは三匹の中で一番頭がよく、世渡りも上手かったので、すぐに就職先と住居を見つけてそこで過ごし始めました。

 残されたベラとベロリンガは、お節介なベムがいなくなったので自分の好きなことをやり始めました。

 ベラは絵や色彩の勉強を始め、ベロリンガは毎日ゲームに明け暮れました。」

 ブタって足がひづめだからコントローラー握れないんじゃないか。

 そういう意味を込めた視線を送ると、彼女はウィンクを返してきた。

「ベムがいなくなってから7年の月日が経ちました。

 ベラは色彩検定に落ちてからは、やけになってウィンナーを暴食したり、紐で自分の腕をきつく縛ってハムになろうとしたりと自暴自棄な日々を送るようになっていました。

 一方ベロリンガは、ゲームでの不満足な箇所からそれを改善するように考え詰めて、自分で新しいプログラムを組んでゲームを作れるほどになっていました。

 ゲームばかりやっていたのに、真っ当な人生を歩んでいた自分を追い越していったベロリンガを、ベラは憎むようになっていました。

 食事は一ヶ月ごとに二人で交代して作っていたのですが、ベロリンガがプログラマーとして職についてからは、ベラの嫌がらせは一層酷くなりました。ベロリンガの分にだけ一度床に落とした野菜が入っていたり、スープの味が濃かったり、豚汁で肉しか入っていなかったりしました。」

 …嫌がらせが可愛すぎないか?なんだか、憎んでいるというよりちょっと悔しくて意地悪しちゃえって感じなんだけど。

 それよりさっきから子ブタが、ブタとしての自覚がなさすぎるのが気になるんだけど。

「ベロリンガはベラの意地悪には気がついていましたが、何も言いませんでした。

 ただずっと変わらずに毎日話題を探してきては、食事の度にベラを笑わせ、働いていないベラのために仕事に励みました。食事代や光熱費、土地代は、ベムがいなくなってからは全てベロリンガが払っていました。

 昼間から酒を飲んで酔っぱらうベラのために、胃薬ときれいな水もベロリンガが毎日買ってきていました。

 そして夜になってベラが寝ると、ベロリンガは仕事用とは違う私用のデスクトップからニートを叩くスレを立ててストレスを発散させていました。」

 最後の一言でうっかり吹き出してしまい、彼女の膝掛けの上に唾がかかってしまった。

「わわっ!ちょ、ちょっと、何するのよ!」

「げほっげほっ、う…げほっげほっ!さぃ…げほっ……最後の一言で良い話が台無しじゃねえか!」

「うっさいわね、もう少し黙って聞いてなさいよ。それに、笑うにしても口を閉じて唾と息を出さないように笑いなさい。」

「できねーよ!!」

「この膝掛け気に入ってるんだから後でクリーニングに行ってもらうからね。もちろん自腹で。」

「ぐ…。」

 言い返そうとするとさっきのようにまた唇に人差し指を押し付けられた。

 理不尽だ…。

 不機嫌な顔で黙ったのを見て、彼女は満足そうに笑顔になり、話を再開した。

「ある日、ベラとベロリンガは些細なことで喧嘩をし、泣き叫ぶベラをベロリンガが家から追い出しました。

 ベラは最初なんとか家に入れないかと模索し、粘っていたのですが、とうとうベロリンガに警察を呼ばれて泣く泣く家を離れました。

 ベラは三匹の中で一番魅力的な身体をしていたので、精肉店へと足を運び…」

「待て。」

 ここは流石に止めるべきだと思った。そんな空気がした。

 彼女は肩に手をかけて話を止めたきた僕をむっと睨んでくる。

「話の腰を折らないでくれる?」

「でも残酷な話は気が滅入るから嫌だ。」

「私を信用しなさいよ。残酷な話にはしないわ。」

「じゃあどうゆう展開になるのか言ってみろ。」

「ベラは店のおっちゃんと喧嘩して海に飛び込むわ。」

「身投げじゃねえか!十分残酷だよ!!」

 全く、彼が喚き立てる意味がわからない。『泳げたいやき君』だって、店のおっちゃんが売り物のたいやきが一個も売れずに、たい焼きが逃亡して海を泳いでやっと人に食べてもらえたという妄想をする話なのに。こうゆう遠回しなハッピーエンドはダメだったか。

「わかったわ。ちょっと変える。」

「ああ…そうしてくれ。」

 ベラは三匹の中で一番魅力的で美味しそうな身体をしているから…。

「ベラは焼き肉店でアルバイトを始めました。」

 これなら満足でしょ?自慢げに彼の顔を見やると、非常に複雑そうな顔をしていた。

 よし、よし。

 軽く彼の髪に触ってから言葉を続ける。

「好きなこと以外に興味を持つことをしなかったベラですが、焼き肉のアルバイトをしてみると意外と楽しく、接客やフロアの掃除だけでなくキッチンも任されるようになっていきました。

 他のアルバイトの子とも仲良くなり、ベラが来てから店の売り上げも伸びていきました。

 夢が叶わないと絶望してから無駄な日々を過ごしていたベラですが、意外な場所で生き甲斐を見つけることができたのです。絵は趣味としてたまに練習をし、店の看板のデザインなどに役立てていました。

 その後、肉付きや肉としての魅力だけでなく、人柄の魅力を買われて正社員になることができました。」

 思いついたことをさらさら言ってきたけど、私の想像力もよく続くよ。

 でも暗い顔をしてた彼を呆れたような、バカバカしいような、それでいてなんだか楽しそうな顔にできたのなら、この想像力の勝利ってもんだわね。

 ふぅー、とため息をつくと、彼が身を起こして怪訝そうに尋ねてくる。

「あれ?それでおしまいか?」

「ええ、そうよ。」

「面白かったけど、ちょっと中途半端だな。ベロリンガはどうなったんだ?」

「サトシに捕まったわ。」

「ポケモンだったのかよ?!」

「あなたは気付いてないかもしれないけど、他の二匹は少年時代からブタと罵られることに快感を感じてしまっていた子どもよ。私の頭の中では年を重ねるごとに汚いおっさんになっていったわ。」

「妖怪人間じゃなかった!しかもなんかディープな設定だった!いやいや気付けるかよそんなこと。」

「ちなみにベラのベロリンガへの嫌がらせはあなたに毎回やってる嫌がらせを参考にしたわ。」

「僕は今までそんな嫌がらせされていたのか?!」

「だって気がつかないんだもの。ちなみに最近お気に入りの嫌がらせはあなたの使っているシャンプーに脱毛剤を入れることよ。」

「寝ている間に気をつけろよこの野郎!」

「ふふっ、楽しみにしておくわ。」

 売り言葉に買い言葉だった彼が口をぱくぱくさせる。

 だがいい切り返しが思いつかなかったのだろう。頬を薄紅色に染めてふてくされたように横を向いてしまった。

 拗ねる動作がまるで子どもだ。無意識にやっているのをみるとさらにからかいたくなる。

「あれ?どうしたのかな?」

「別に。くだらない発言に辟易としただけさ。」

「…ああもう!かわいいなっ!」

 目を合わせず顔を近くに寄せる度に更に顔を赤らめる彼に、とうとう我慢出来ず後ろから抱きついた。

「わわわっ!ななんだよ急に!」

「だって寝た後の悪戯って言葉で色々考えちゃって、自分で恥ずかしくなってるのがわかるんだもん。いやー、かわいいねーうぶで。」

 彼女にうぶと言われてカチンとくる。

「うぶじゃない。」

「うぶだよ。」

「うぶじゃない!」

「うーぶ、うーぶ。ムキになるのも子どもっぽいぞ?」

「ああもうやかましい!とにかくうぶじゃない!!」

「じゃあ精神的童貞。」

 やっきになって言い返したら心に突き刺さる酷い悪口をくらった。

 精神的童貞ってなんだよ…。

「…もう、うぶでいいです。」

 落ち込みながら呟くように言うと、耳にキスをされた。

 不意打ちだった。一瞬で再び顔がまるで火でも出ているように熱くなる。

 反射的に振り向くとすぐ前に彼女の顔があった。唇と唇が触れそうなくらい、近い距離に。

 彼女がゆっくりと瞼を閉じる。

 僕は目を閉じ、一呼吸置いてから、磁力に引き寄せられるように顔を近づけていった。

 心臓が高鳴り今にも毛細血管が破裂してしまいそうな錯覚さえ感じる。

 遂に僕の唇に温かく湿る柔らかいものが触れると、脳震盪にでもなってしまったように頭の先がジンと痺れた。

 グロスを塗っていたんだろうか。それもリップクリームだろうか。僕の下手なキスがわずかに滑る。

「ぷ…クククッ!ふふっ、ふ。」

 その途端に横から押し殺したような笑いが聞こえてきた。この唇でふさいでいるはずの彼女の声。

 驚いて目を開けると、僕が唇を重ねたのは美味しそうな焼き鳥だった。舌を出して舐めると味は塩味だった。

 声を上げることもできずに僕はその場に崩れ落ちた。

「キスできると思ったの?馬鹿なの?ねえ、ねえ。焼き鳥にキスした感想を教えてよ。」

「お前はチャシャ猫か!!嬉しそうに笑いやがって!ああ、美味しかったよ美味しかったです。くどすぎないさっぱりした油とほどよくしょっぱい塩が絶妙なハーモニーで僕の舌先を奏でていったよ!後味は最悪だけどな!!」

 躍起になって彼が叫ぶ。その様子からは、キスできなかったことがそんなにショックそうには見えないので私は安心する。

「じゃあアメちゃんいるかい?」

「…メロン味があったらもらえるか。」

「残念、男梅味しかないわ。」

「しょっぺえよ!!ごめん、それ口直しにならない!!」

「ぜいたくね。じゃあ私が食べようっと。」

 ポケットから出した小さな黒い袋を破ってアメを頬張る。ううん、渋いわ。

 メロン味のアメより甘美なキスはできない。それに、触れた瞬間に残念そうな顔をされたらと思うと臆病になってしまう。だって今日はリップクリームを忘れてしまったから。

 口の中に広がるしょっぱいような、乾くような複雑な味は、さっき彼が言った味に似ていた。

 少し呼吸が乱れていることは彼に気づかれていないだろうか?

 彼と味を共有している気分になることで、普通に接吻をするよりもなんだか恥ずかしくなっていた。

 感覚のディープキス…?

「うまいか?そのアメ。」

 不意に話しかけられて、口からアメが飛び出しそうになる。

「べ、別にもともと焼き鳥にキスをさせたあとに舐めさせようと勧めるために買ったアメじゃないんだから!」

「ま、まさかの計画的犯行だった…。」

「冗談よ。」

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