徳川光華(とくがわ みつか)
テスト前なのに勉強してないという……。※悪い点があれば指摘してくれると助かります
「さてと、明日から学校が始まるからな。レンもちゃんと準備しておけよ」
「うん」
僕はそう、頷いたものの、準備など既に終わらしてある。
(明日は早めに起きなくちゃ)
そう思った僕は、何度目かになる荷物の確認を済ませ、いつもより早く眠りについた。
僕が目を覚ましたのは、日がまだ出ていない未明だった。いつもなら、ランニングに出かけるのは日が出た後なのだが、学校があるので早めに起きる必要があったのだ。
(さて、行くか)
着替えを済ました僕は、海斗や拓也を起こさないように、部屋から出るのだった。いつものように、双剣を背中に担ぎ、ランニングを始める。いつもよりも薄暗く、森の中などはいつも走ってきたとは思えないほどの不気味な世界がそこにはあった。そんな森の中を走っていると、近くの茂みから人の気配を感じた。そして、いきなり、剣で切りかかられた。
【石口流双剣術守の技:光円斬】
相手の攻撃に、一瞬にして体を回転させることにより生まれる遠心力を使った重い一撃を二発放つ事により、相手を吹き飛ばし、反動で自分も身を引くと言う距離を取るための技だ。
この技により、相手は吹き飛ばされ、姿を表した。
(女の子?)
その少女は、ギリギリで受身をとり、なんとか体へのダメージを減らしていた。
「一体、誰だ?」
「くっ、ふ、不審者に名乗る名前など無い!」
え? 不審者? 流れ的に僕の事……だよな?
「僕の……事?」
「あ、あなた以外に誰がいるっていうのよ!」
やっぱり、僕なのか……。
「僕は、この学校の新入生だ!」
そう言って、僕は袖を捲り、学生の証である腕輪を彼女に見せる。
「え!? でもこんな時間に……」
「ただのランニングだよ! 今日から学校が始まるからいつもより早めにランニングをしてただけだよ!」
そう言った瞬間、彼女は焦りと罪悪感を覚えたのだろう。いきなりあたふたしだした。
「えっと、私の勘違い……?」
「うん」
「あ、あの、も、申し訳ありませんでした!」
「まぁ、謝って貰ったし、もういいよ」
相手を落ち着かせるために、僕は笑顔で言う。
「ほ、本当に? ありがとう!」
「えっと、僕は石口蓮って言うんだ。LiMACの一年だよ。君は?」
「あ、はい。私は徳川光華って言います。同じく、一年です」
「へ~、同じ学年なんだ? って事は一緒のクラスになるかもだね」
「同じ学年になれたらいいですね!」
「そういえば……」
「はい?」
「どうして、君はこんな所にいたの?」
考えてみれば、こんな薄暗い不気味な森で、光華のような少女がいると言うのもおかしな話だ。
「実は、剣の稽古をしていたんです。入学当日なんで最終確認を、と思って」
「剣って事は片手剣? 実は僕も武器は片手剣なんだよ」
「え? さっき剣が二つあったような……?」
「え"? え、えっと予備でもう一つ持ってるだけだよ。あ、あはは」
つい、癖で剣を二本抜いてしまっていた……。何のために、片手剣を教えてもらったんだよ、僕は……。
「ん~? そうだったかな? 確かに二つの剣が――」
「そ、そうだ! 一緒に練習しない?」
とりあえず、必死でごまかす。
「良いんですか?」
「勿論! 一緒に練習したほうが楽しいと思うよ」
「それじゃあ、お願いします、石口君!」
「僕の事はレンでいいよ」
「そう? なら私の事も名前で呼んで!」
「りょーかい、光華でいいかな」
名前で呼ばれて嬉しいのだろうか、えへへと言って照れていた。僕らはしばらく素振りを続けた。
「そう言えば、光華。さっき僕に攻撃してきたけど、もし僕に攻撃が当たっていたらどうするつもりだったの?」
恐らく、新入生だったら、怪我は負っていただろう。
「あ、そ、それは……その、う、うぅ、考えてなかったです」
そう言って俯いてしまった。
「まぁ、無事だったから良いけどね。でも、いきなり剣を振るうのは止めたほうが良いと思うよ」
「気をつけます」
「まぁ、その分注意を払っているとも取れるけどね」
そうフォローを入れているときに、何か違和感を感じた。
「なんだ?」
僕はその違和感を感じたほうへ振り向く。
「どうしたんですか?」
僕の目線にいるのは、魔獣だった。それも鳥形だ。
「光華、上だ! 気をつけて! 来るよ!」
こちらへ向かってきた魔獣に、僕は銃を取り出して、引き金を引いた。
バンッ!
という音と
GYAAAAAAAAAAAAAAAA
という魔獣の叫び。
どうやら魔獣に弾が当たったらしい。そして、僕は剣を構え、魔獣からの攻撃に備える。しかし魔獣は僕の後ろを見ると、そのまま突っ込んでゆく。
「しまった!」
そう、光華が狙われたのだ。
「させるか!」
僕は光華の前へ立ち、剣を振り下ろす。しかし、その攻撃を横にずれることで避けた魔獣は、僕の胸に突っ込んできた。
(まずい!)
避けなければ、最悪死亡する危険性がある。だが、避けてしまえば光華が危険な目に遭うのだ。背中から、剣を抜いている暇など無い。僕は無意識の内に光華から剣を奪っていた。
【石口流双剣術守の技:盈月】
僕らの周りに真空の盾が展開する。それに突っ込む魔獣。
「かかったな!」
魔獣は見事に真空に切り刻まれる。致命傷を負ったのがこちらからでも確認がとれた。だが、魔獣は致命傷にも関わらず動き出す。
「そ、そんな……」
僕は、魔獣からの攻撃に備えて、剣を構える。しかし、魔獣はそこで雄叫びを上げるだけだった。
GYAAAAAAAAAAAAAAAA
これは……魔力暴走か! 魔力暴走は、魔獣によってパターンが変わるが、発動させるまでに時間がかかる。速くて5秒だ。
「倒れてくれぇええええええええええ!」
僕は無意識の内に叫んでいた。
【石口流双剣術奥義攻の技:電光石火】
この技は、直線距離を一瞬に駆け抜ける事によって生じたエネルギーを剣撃に変え、敵を斬る技だ。火力と速さは申し分無いのだが、直線距離での行動なので読まれやすいのだ。だが、魔力暴走を起こした魔獣がそんな事を考えるわけもなく、その攻撃は見事に直撃する。そして魔獣は、死体へと姿を変えた。
「ふぅ……何とかなったな。光華、大丈夫?」
その言葉をかけて気づいた。光華がポカーンとした表情で僕の事を見ているのだ。そして、気づいた。僕は、双剣を見せちゃいけなかったんだ、ということに……。
「レン……君……?」
「……。あ~、剣奪っちゃってごめん」
見当はずれの謝罪をする。しかし僕の名前を呼ぶが、光華の目には光が宿っていなかった。
「光華、この事は周りに話さないでくれると助かるんだけど……」
コクリと頷く光華。だが、それ以上の反応はない。しばらくすると、段々、光華の目に輝きが戻ってきた。
「えっと、助けてくれて、あ、ありがとう」
一見元気になったようにも見えたが、そうでは無さそうだ。どこか無理をしているような……そう、無理やりに笑顔を作っているような印象を受けるのだ。
「えっと、光華、どうしたの? 急に喋らなくなったけど?」
「あの、えっと、それは……」
「別に言いづらい事だったら言わなくてもいいよ」
「いえ、その……実は、私の父親は双剣使いに殺されてしまったんです。それで双剣を使う人はみんな嫌いになってしまった。なのにその双剣を使う人に助けてもらった。それで少し昔の事を思い出してしまいました」
「…………」
「双剣を使っている人が、悪いって訳じゃ無いんですが、やっぱり……昔の事を、思い出して……しまいます……」
そう言って、光華は泣き出してしまった。僕はどうすることも出来ず、光華が泣くまで待っているしか出来なかった。
「あの、ごめんなさい。いきなり泣き出してしまって……」
「…………」
――昔、一人の女性を助けるために、双剣で多くの人々を傷つけてしまった者がいる。彼は、彼女を護るために力を使ったのだ。結果、彼女は助かったが、彼は犯罪者となってしまった。レン、お前はこんな時どうする?
――…………。
――はは、レンにはまだ早かったかな。だが、世の中、小説のように大団円では終わらない、という事は覚えておけ。
そんな、会話が脳内で再生された。もしかしたら、光華の父さんはこの事件に関係があるのかな? そう考えると、僕はよく分からなくなっていた。結局僕は何も言えないまま時間が過ぎた。
「……、寮へ戻ろう」
そんな言葉しか、僕の口から出るものは無かった。
「はい……」
僕は、光華と別れた。次会うときは、笑顔で会いますようにと祈りながら……。