強くなろうと誓った日
これでプロローグは終わりです。次回から、主人公がチートになります。
この大陸は、オタネミオ大陸。この大陸では、大きく分けて三つの国が存在している。火の国、水の国、土の国だ。
火の国では、武術が盛んに行われており、年に一度行われる武術大会では、各国、各大陸から多くの人がやってきて戦いに出たり、観戦したりする。
一方、水の国では学問や魔法と言ったものの研究を行っている。水の国では、文武両道を目指す者も多く学校が多い。その中でも群を抜いている学校がLiMACという所だ。LiMACは通称、学術都市とも呼ばれ、武器・防具から日用品までほとんど全ての道具が売り出されている。その中には、ほとんどの書物が保管されている図書館もそんざいしている。その建物全てに魔法が組み込まれていて、兵器級の魔法を連発されない限り壊れることが無い。
そして、最期に土の国。ここは火の国や水の国のような大きな事は無いが、鉱山が多くあり、さらに土が肥えていて作物が育ちやすい環境になっている。土の国の南東部では魚を釣って生計を立てている人も少なくない。ようは、資源に恵まれているのだ。
この三つの国自体の中は良好で領地を奪おうななどと言う事は今までなかったらしい。上手く均衡が保てているようだ。
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ひんやりと冷えた空気に僕は目を覚ました。
「うぅ~、さむい~」
そう呟き僕は布団に潜ろうとした。そのときに時計をチラッと見ると時刻は5時30分を指していた。季節は冬、本来ならば外はまだ真っ暗闇の外が明るく見えた。僕は窓に近づき外を見た。
「わあ~、ゆきだ!」
外は雪が積もっていた。寒くて、二度寝をしようとしていた僕の目は完全に覚め、先ほどとは打って変わり、ついついはしゃぎたくなってしまった。
朝食を取り終わった僕は、直ぐに家から飛び出した。家を出たときにはもう朝日が顔を出しており、キラキラと輝く雪が綺麗だった。そんな雪を見ながら歩いているといつのまにか林の中に入り込んでしまっていた。普段から林の中には入った事はあるので、道に迷う心配は無いと思い歩みを進めた。
「誰か! 誰か助けて!」
突如、悲鳴があがった。僕は悲鳴があがったと思われる場所へ走った。しばらくすると大人達がそれぞれ武器を持ちながら集まっていた。その先では魔獣に襲われている女の子とその間に入って応戦している大人だった。この時、少女はもう助かるだろうと誰もが思った。しかし、戦況が変わった。魔獣の周りに魔方陣が現れ、そこから氷の塊が飛び出す。大人はそれを避けることが出来ずに直撃してしまったのだ。たいした怪我では無かったが、皆、その技に怯んでしまい、魔法を食らった大人も逃げてしまった。すると、魔獣は少女をターゲットにした。
(あぶない!)
僕は右の手で雪をつかみ固め、もう片方の手は普通の固めてない雪をつかんだ。固めた雪を魔獣目掛けて投げるが、魔獣にはあたらず近くの木にあたった。だが、それだけで魔獣は僕に気を向けた。魔獣は雄叫びを上げ、魔方陣を展開させた。そこからやはり氷の塊が飛んできた。6歳の僕にはそれを避ける術など無かった。無かったはずだ。しかし、まるで体が乗っ取られたかのようにその塊を避けたのだ。びっくりしている僕だったが、魔獣がまだそこにいる事を思い出し、一気に間合いを詰めた。そして左手でつかんでいる雪を、至近距離から魔獣の目に向かって投げた。魔獣はその攻撃を受け、しばらく動けずにいた。
「きみ! はやくこっちにきて!」
奥で震えている少女に叫ぶものの、足が震えてうまく立てないようだ。僕は少女の元へ駆けつけようとしたが、魔獣がそれを許さなかった。またもや魔獣は魔方陣を展開させた。前回のように避けることは出来ず、僕は吹っ飛ばされてしまった。着地した場所が柔らかい雪だったおかげで、クッション代わりになり衝撃を抑えることが出来た。立ち上がり、魔獣を見ると、魔獣は少女に止めを指そうとしていた。僕はがむしゃらに雪をつかんでは投げた。しかし、魔獣はこちらを見向きもしなかった。
「ちくしょう!」
僕は近くに落ちていた木の棒を拾う。それを両手で握り締め魔獣を思いっきり叩いた。魔獣は悲鳴をあげた。ダメージが通ったことを確認した俺はもう一度木の棒で叩き込む。魔獣はこちらを睨み明らかな怒りを見せた。そして、一層大きな雄叫びをあげた。魔獣を中心に四方八方に氷がばらまかれる。僕はその攻撃を受けて倒れこむ。魔獣が僕に近づいてくる。
「やだ……しに……たくない……」
僕は来るであろう痛みに、思わず目をぎゅっと瞑った。するとドサッという音。俺は思わず目を開ける。目を開けると、魔獣が血を流して倒れており、その隣に剣を持った大人がいた。
「君、大丈夫かい? 今手当てをしてあげるから安心してね」
「……その……まえにあの……こを」
かすれた声で少女がいた辺りを指差した。男は今気づいたようで、慌てて少女の所へ向かった。
(これで……大丈夫だ)
そう安心すると、僕の体は急に体が重く、凄まじい眠気が僕を襲った。僕は危険と知りながらも雪の上で意識を失った。
僕が目覚めた場所は、自分の部屋の布団の上だった。あんなに、痛みがあったにも関わらず、今は完全に痛みが引いていた。僕は飛び起き、少女の安否を確認しようと、部屋を出た。部屋を出ると、ちょうど母さんが濡れたタオルを持ってこちらにやってきていた。
「レン!? もう動いて大丈夫なの? 痛みは無い?」
そう言って、母さんは僕を抱きしめてくる。ちなみに、レンというのは僕のことで、本名は石口蓮だ。
「う、うん。もうだいじょうぶだよ」
「良かった……」
泣き声混じりの声だった。僕の事を本当に心配してくれてるんだな、と思うと嬉しくて、でも少し恥ずかしさもあった。
「ねえ、かあさん。まじゅうにおそわれていた女の子は、だいじょうぶなのかな?」
「……。あの子は……お星様になったの……」
言いづらそうにそう話す母さん。その意味を幼いながら考える僕。そして、気づいた。少女は死んでしまったのだ、と。そして、僕の目から涙が零れ落ちた。一端表に出てしまった感情は抑えることが出来ず、僕は声を出して泣いた。苦しかった、悔しかった。気づいたら、僕は家から飛び出していた。駆け足で、彼女がいた場所へと向かう。
「はあ……はあ……」
その場所には少女どころか誰もいなかった。ただ、簡易的な柵が設置されているだけだった。僕は走った。行く宛など全く無いのにがむしゃらに走った。少女がまだ生きていると信じて……生きている証拠を探すために……。そして、そんな希望は絶望に変わった。葬儀が行われている場所を発見してしまったのだ。僕は周りに気づかれないように、恐る恐る近づいた。やがて、葬儀は終わり、泣き声と、怒り声が聞こえてくる。
「あの勇敢な少年がもう少し早く、来てくれていれば……」
「なに子供に頼ってんだ! 問題なのは周りで何もしなかった大人達だろうが!」
「俺らみたいな一般市民が動けないから、遊撃協会ってのがあるんだろ!? あいつらがのろまだったんだよ!」
大人達は誰が悪い、と言うことを言い散らかしていた。そして……。
「あの少年が、魔獣の怒りを煽ったのがいけないんじゃねえのか? 下手に魔力暴走なんてさせなければ、あの子は生きていたかもしれないってのに……」
「全くだ! 弱いくせにしゃしゃり出やがって!」
(!?)
そうだよ……。僕は弱いんじゃないか……。今回の件は僕の弱さが招いた事なのか……。助けようと思った無謀さが、結果として少女を殺してしまった。
その日、僕は強くなろうと誓った。
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