僕にしか出来ない戦い
祖父は晩年、何度も口にしていたことがある。
「僕は勇者様と共に魔王と戦ったことがある」
言うまでもなく、これは哀れな妄想だ。
既に世を去った勇者様には確かに何人もの仲間や支援者が居たけれど、その中に祖父の名はない。
「どうやって戦ったのさ」
そう問えば祖父は視線を外してしまう。
黙り込んでそれっきり。
それなのに口を閉じるのに飽きると、祖父はまた口を開いて語るのだ。
「僕は勇者様と共に魔王と戦ったことがある」
実に哀れな人だったと私は思う――。
*
今わの際に僕が思い出すのは。
勇者様と共に戦ったというあまりにも輝かしい思い出ばかり。
『君には君にしか出来ない戦い方がある』
かつて、僕を救った勇者様はそう言ってくれた。
だからこそ、僕は僕にしか出来ない戦いを続けている。
「北の村の人間が虐殺された」
僕の戦いは情報の流布。
「全て、魔王の手によるものだ」
平和ボケをしている者や隠れている者に協力を促す。
「あれだけしっかりとした結界を張っていたというのに」
それが真実である必要なんてないんだ。
「分かるか? 既にこの戦いは息をひそめて隠れていたら終わるというものではない」
皆が立ち上がることが大切なんだから。
「今こそ、勇者様に付き従え。それが出来ない者はせめて、勇者様の活動を支援し続けるんだ」
事実として、僕のお陰で勇者様は大きな支援を受けながら魔王を倒したのだから。
だから、僕は。
自分の手をいくら汚したって気にならない。
どれだけの人間が殺そうとも、勇者様が前に進む事こそが今は大切なのだから。
あぁ、それなのに。
勇者様は何故、僕を認めてくださらなかったのだろう。
それだけが。
それだけが、僕の心残りだった。
*
祖父は共同墓地に葬られた。
葬儀は行わなかった。
そして、私もまた二度と祖父を思い返すことはなかった。




