表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
円環都市の観測者  作者: きたみ詩亜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/8

第7話 情報屋の席

 研究区第二駅で、車内はほとんど無人になった。

 白い箱のような建物が並ぶ区画を抜けると、窓の外は暗いガラスと光る配線ばかりになる。


 座席に身を沈めたまま、天井の表示を眺める。


《次は 通信区第一駅》


 通信区。

 聞き慣れない区画名だった。


 ドアが開くと、外は無数のアンテナと光る塔に囲まれた景色だった。

 薄い霧のようなホログラムが空に浮かび、文字列が流れている。


 乗り込んできたのは、一人だけ。

 黒いパーカーを着た少女で、耳には小さな端末、指には光るリング状の機器をはめている。


 座席に座るなり、端末をいじり始めた。

 視線は画面に向けたまま。


「今、未登録区画を見た?」


 唐突だった。

 返したはずの言葉に、少女は少しだけ口角を上げる。


「やっぱり」


 端末をこちらに向ける。

 画面には、モノールの簡易路線図と、赤い点が点滅していた。


「この点。公式には存在しない駅」


 指で拡大する。


「夜になると、ここが出現する確率が上がる。……記録、全部拾ってる」


 その言い方は、誇らしげでもあり、どこか疲れてもいた。


「私は情報屋。都市のログを集めるのが仕事」


 視線を上げ、こちらを見る。


「でもね、ログは“書き換えられてる”」


 その一言で、背中が少しだけ冷える。


「人の移動記録。出生。死亡。ぜんぶ、綺麗に整えられてる」


 少女は端末を閉じた。


「整いすぎてるの。現実っぽくないくらい」


 窓の外を見れば、通信塔の列が延々と続いている。

 同じ高さ、同じ間隔。


「外って、考えたことある?」


 聞き覚えのある言葉だった。


 答えた内容は書かれない。

 でも、少女はそれを理解したように頷く。


「だよね。最近、そう思う人に会う」


 少しだけ声を落とす。


「増えてる」


《次は 娯楽区第二駅》


 表示が切り替わる。


 少女は立ち上がり、ドアの前で振り返った。


「未登録区画に行くなら、整備士の子と組むといい」


 何か返したのだと思う。

 少女は小さく笑った。


「あなた、巻き込まれやすい顔してる」


 ドアが開き、通信区の光の中へ消えていく。


 残された座席に、微かな電子音だけが残る。


 未登録区画。

 書き換えられるログ。

 増えている“気づく人”。


 モノールは、いつも通り円を描く。


 けれど、その円の内側で、

 確実に何かが、ずれ始めている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ