第6話 整備区の少女
夜のモノールは、昼よりも速度が速い気がした。
乗客が少ない分、停車時間が短く、駅と駅の間を一気に走り抜ける。
《次は 整備区第一駅》
表示が出た瞬間、車内に金属の匂いが混ざった。
油と熱と、機械のにおい。ドアが開くと、外には無数の配管と高架構造物が張り巡らされた景色が広がる。
数人の作業員が降り、その後ろから、見覚えのある後ろ姿が乗り込んできた。
昼間に会った、工具箱を持つ少女だ。
作業着の袖を肩までまくり、髪は無造作に束ねられている。
「あ」
こちらを見ると、少しだけ目を丸くした。
「また会ったね」
そう言って、当然のように隣に座る。
「やっぱりこの時間も乗ってるんだ」
返したはずの言葉に、少女はうなずいた。
「そうだよね。昼も夜も、ずっと回ってるもんね」
工具箱を膝の上に置き、ふたを少しだけ開ける。
中には細かい部品と、古い紙の地図のようなものが入っていた。
「ねえ、これ見て」
紙を広げる。
そこには円を描く線路と、いくつかの点が打たれていた。
「公式マップ。……でもさ」
指で一か所を叩く。
「ここ、存在しないはずの区画なんだ」
夜に見た《未登録区画》の文字が、頭をよぎる。
「整備してるとね、たまに行くんだよ。記録にない区間」
少女は肩をすくめた。
「線路もあるし、駅もある。でも、データ上は“空白”」
こちらの反応を確かめるように、ちらりと見る。
「変でしょ?」
きっと何か言った。
少女は苦笑した。
「だよね。普通なら気にしない。でも私は……」
工具箱を指で叩く。
「モノールが好きだから」
その言葉は、冗談めいているのに、妙に重かった。
《次は 整備区第二駅》
外には、巨大な格納庫のような建物が並ぶ。
照明が少なく、影が深い。
「ここで降りる」
少女は立ち上がり、ドアの前で振り返る。
「さっき言った場所、いつか見せてあげる」
何か答えたのだと思う。
少女は満足そうにうなずいた。
「うん。あなたなら、怖がらない気がする」
ドアが開き、整備区の暗がりに溶けていく。
車内に残るのは、機械油のにおいと、紙の地図のイメージ。
未登録区画。
記録にない線路。
好きだから、調べる。
理由は単純なのに、その先にあるものは、単純じゃない気がした。
《次は 研究区第二駅》
モノールは何事もなかったように走り続ける。
同じ円を描きながら、
少しずつ、違う場所へ向かっているような気がしてならなかった。




