第1話 円環に乗る
外郭都市を一周するモノレール――モノール。
その名を聞いたとき、ただの交通手段だと思っていた。
高架軌道は都市の外縁に沿って走り、終点は存在しない。円を描くように、同じ景色を繰り返しながら、延々と走り続ける。
初めてその車両に乗った瞬間、なぜか「ここから離れられない」という予感がした。
車内は静かだった。
無人運転のため運転席はなく、白い照明が均一に床を照らしている。窓の外には、高密度に並ぶ建物群と、その向こうに見える巨大な外壁。空は青いが、どこか作り物めいていた。
席に腰を下ろすと、ドアが閉まり、滑るように車両が動き出す。
加速はなめらかで、振動もほとんどない。音もない。あるのは、遠くで風が鳴るような低い電子音だけだった。
次の駅までの表示が、天井に浮かぶ。
《次は 居住区第七駅》
数字のついた駅名。
どこも同じ構造なのに、名前だけが違う。そう聞いていた。
視線を外に戻したとき、向かいの座席に少女が座っていることに気づいた。
いつからいたのか分からない。
短めの髪に、淡い色のワンピース。年は同じくらいだろう。膝の上に小さなバッグを抱え、じっと窓の外を見ている。
やがて、こちらの存在に気づいたらしく、ゆっくりと顔を向けてきた。
「……はじめて?」
唐突な問いだった。
どう答えたかは、自分でもはっきり覚えていない。ただ、首を縦に動かしたのだと思う。
少女は少し驚いたように目を見開き、それから、安心したように笑った。
「そっか。なら、気をつけたほうがいいよ。この電車」
その言い方が妙に重くて、理由を聞きたくなった。
視線を向けると、少女は肩をすくめた。
「終点がないんだ。ぐるぐる回るだけ。……外にも出られない」
外、という言葉に、胸の奥がざわついた。
外壁の向こうに何があるのか、考えたことはなかったはずなのに。
窓の外を見れば、同じような建物が続いている。
居住区、医療区、学園区、娯楽区――表示が変わるたびに景色は少しだけ違う。でも、根本は同じだった。
少女は座席に背中を預け、天井を見上げた。
「ここで生まれて、ここで暮らして、ここで死ぬ。みんなそう。……変だと思わない?」
何か返したはずだ。
言葉にしなかっただけで、内側では確かに動いていた。
少女はその反応を見て、少しだけ目を細めた。
「だよね。変だよね」
モノールは次の駅に滑り込む。
ドアが開き、無表情な人たちが数人乗り込んできた。誰も会話しない。ただ、指定された席に座るだけだ。
少女は立ち上がり、ドアの方へ歩いた。
「ここで降りるね」
そして、振り返る。
「また、会えるよ。この電車、ずっと回ってるから」
その言葉が、なぜか約束のように聞こえた。
ドアが閉まり、少女はホームに取り残される。
発車と同時に、彼女の姿は建物の影に溶けた。
天井の表示が切り替わる。
《次は 医療区第一駅》
円環は続く。
終わりも、外も、まだ見えない。
それでも、確かに何かが始まった気がした。
この、閉じた世界の中で。




