第3話 少年と少女の出会い
少年は、教室の一室で待っていた。
今日は土曜日。
しかも外は雨が降っている。
部活動の声もなく、廊下に人影もない。
校舎全体が眠ってしまったかのように、
教室にはただ静寂だけが落ちていた。
その静けさの中で、少年は一人、窓のそばに立っている。
御影朔也。
今年、転入生として霧ヶ峰高等学校に編入予定の生徒。
二年生になる。
彼は、外を眺めていた。
何をするでもなく、
退屈そうにしているわけでもない。
ただ――
雨の音と、窓ガラスを伝う雫の軌跡を、
じっと目で追っている。
雫が合流し、形を変え、流れ落ちていく。
その一つひとつを、楽しんでいるかのようだった。
先ほど、山原という教師に
「ここで待っているように」と言われてから、すでに三十分。
普通なら、退屈してスマートフォンを取り出すところだろう。
だが、朔也はそうしなかった。
必要がないからだ。
――いや、正確には。
彼は、スマートフォンを持っていなかった。
それでも、焦る様子も、不満を見せることもなく。
ただ静かに、雨を眺め続けていた。
「……おれ、ここで何をすればいいんだろう」
御影は、ぼそりと呟いた。
これまで、自分で何かを決めたことがない。
言われた通りに動き、与えられた場所にいただけだ。
初めての学校。
初めての環境。
慣れるはずもなく、戸惑いばかりが積み重なっていく。
不安。
居場所のなさ。
自分だけが、ここに紛れ込んだ異物のような感覚。
疎外感が、胸の奥に重くのしかかる。
――そのとき。
ガラッ、と。
乱暴な音を立てて、教室の扉が開いた。
反射的に振り返る。
そこに立っていたのは、黒髪の長い少女だった。
腰まで届く髪。
整った顔立ち。
だが、その表情は明らかに不機嫌そうで、
つまらなさそうで、
それでも――きりっとした鋭さを帯びている。
少女は、まっすぐこちらを見ていた。
値踏みするように。
睨みつけるように。
御影は、その視線の意味が分からなかった。
この少女が、なぜここに来たのかも分からない。
自分に、何を求めているのかも。
ただ、御影は黙ってその目を見返す。
雨音だけが、二人の間を満たしていた。




