第1話 夜の公園で
雨が降っている。
夜の公園は、誰もいない。
街灯の光も雨に滲み、世界は音を失ったように静まり返っていた。
その公園の中央に、少年と少女――二つの人影がある。
少女の両腕は、切り飛ばされていた。
切断された二本の腕が、少し離れた場所に転がっている。
まるで人形の部品のように、不自然な角度で。
少女は地面に倒れ伏し、
少年はその上に馬乗りになっている。
少年の手は、少女の両腕の断面を掴んでいた。
血を止めようとしているのではない。
そんなことをしても意味がないと、分かっている掴み方だった。
それは――
逃がさないという意思表示。
少女の胸に、強烈な恐怖が湧き上がる。
(……なんだ、この少年は)
こんなの、人間じゃない。
確かに、自分はこの少年を殺そうとした。
先に仕掛けたのは、自分だ。
だが、少年の目は――
その事実すら、日常の一部であるかのように受け入れていた。
殺意に対して驚きも怒りもない。
ただ、当然の反応として適応し、反撃し、
そして――自分の両腕を切り落とした。
その速度。
その精密さ。
その力。
どれを取っても、普通じゃない。
痛い。
確かに、痛い。
切り落とされた断面を、少年は強く掴んでいる。
そんな掴み方で血が止まるはずもない。
だが、少年は血止めのために掴んでいるのではなかった。
掴んだまま、
ただ、じっとこちらの目を見ている。
少女も、その視線から目を逸らせない。
雨音が、やけに大きく聞こえる。
重たい雫が瞳に当たる。
目を拭おうとして――気づく。
手が、ない。
そんなことすらできない。
距離は、近い。
吐息がかかるほどだ。
まるで恋人同士の距離のように錯覚しそうになる。
だが、状況はあまりにも、かけ離れている。
数十秒。
あるいは、それ以上。
見つめ合ったままの沈黙のあと、
少年は、唐突に口を開いた。
「また明日、学校で。
相羽。風邪、ひくなよ」
それだけ言って、少年は立ち上がる。
振り返ることもなく、そのまま歩き去っていった。
残されたのは――
人形のように、雨に打たれ、捨てられたかのように倒れ伏す少女と、
止むことのない雨音だけ。
夜の公園は、再び静寂に沈んだ。




