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第五話:戦場に響く産声、あるいは執着のその先へ

「……っ、ふぅーっ! ……はぁっ! ちょ、ちょっと、ユース! さっさと私の背中を支えなさいよ!」


氷点下の断絶の谷。

魔獣の死骸が山をなし、雪山に吹き飛ばされたカトリーヌが

「ありえないわぁぁ!」

と、叫んでいるカオスな戦場のど真ん中。  


私は、ユースの胸板を背もたれにして、雪の上に陣取っていた。


「わ、わかっている! エヴァ、呼吸を合わせろ。君の剣筋と同じだ。リズムを一定に……」

「うるさいわね! あんたに言われなくてもわかってるわよ! ……だいたい、あんたがキモいからこんなことになったんでしょうが!」


叫ぶたびに、お腹の底から凄まじい力がせり上がってくる。  

ユースは、私の叫び声を「愛の告白」か何かだと勘違いしているのか、その瞳には異常なまでの情熱が宿っていた。

彼は私の手を握りしめ、耳元で信じられないことを囁く。


「……ああ、エヴァ。苦しむ君も、戦う君も、なんて神々しいんだ。この瞬間の君を、国宝の絵画として残せないのが一生の不覚だ……」

「……今すぐ……黙れって……言ってるでしょ……ッ!!!」


私が彼の指をへし折らんばかりに握りしめた、その時。  

吹雪を切り裂くような、力強い産声が谷に響き渡った。


産まれたのは、驚くほど整った顔立ちをした、元気な男の子だった。  

ユースが震える手で赤ん坊を取り上げ、私の腕に抱かせる。  

「……見ろ、エヴァ。私達の『効率的な愛』の結晶だ。……名はシオン。ルグラン家の光だ」

「……ハァ、ハァ……。効率、とか……まだ言ってるのね。……でも、まぁ。顔だけは、あんたに似て最高にムカつくほど綺麗ね……」


私は赤ん坊の頬に触れた。  

その瞬間、今まで「毒素」だと思っていた胸の動悸が、すっと静かな熱に変わった。  


……あの日、初夜の翌朝に絶望した自分を投げ飛ばしてやりたい。

これは毒なんかじゃない。ただ、このキモすぎるほど一途な男に、私も毒されていたのだ。


――そして、十数年の月日が流れた。


「……お父様、お母様。私、明日から北方の駐屯地へ赴任します。もう荷物はまとめました」


朝食の席で、十八歳になったシオンが淡々と告げた。  

彼は父の美貌と母の怪力を完璧に継承しながら、中身だけは驚くほど冷徹で達観した青年へと成長していた。


「なっ、シオン! 早すぎる! まだ私と一緒に、エヴァがいかに尊いかを語り合う『教育』が終わっていない!」

「父上。その教育、私が三歳の時から毎日三食欠かさずやってますよね。……お母様も、父上の顔を見るたびに『キモい』と言いつつ、視線で追うのをやめてください。見てるこっちが暑苦しいんです」


シオンは呆れたように肩をすくめ、颯爽と屋敷を出ていった。  

残されたのは、初老に差し掛かってもなお、顔立ちが衰えないユースと、相変わらず剣を離さない私。


「……シオンも、行っちゃったわね」

「ああ。……エヴァ。ようやく、二人きりだ」


 ユースが、昔よりもずっと自然に、私の腰に手を回した。  

「義務は終わった。……だが、私の執着はこれからが本番だ。……もう一度、君を抱かせてもらえるか? 今度は、計算抜きで」


私は心臓が「ドクン!」と跳ねるのを感じた。  

もう、これを毒だとは言わせない。  

「……いいわよ。ただし、あんたがキモいこと言ったら、今度こそ屋敷の屋根まで投げ飛ばすから。……覚悟なさい」

「ふっ……望むところだ」


夕闇の中、私達は重なり合う。  

十八年前の「義務」ではなく、今度は、互いの魂をぶつけ合うような「本当の初夜」を迎えるために。


――後に、孫のレオンが隠し棚から私の日記を見つけて絶句することになるのだが。  

それはまた、別の物語スピンオフのお話である。

吹雪の中で産声…なのに会話は相変わらず夫婦漫才でした。

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!

エピローグでは“孫視点”で禁断の真実が開かれます。最後までぜひ!

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