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第四話:臨月の飛竜、あるいは戦場の邪魔者

ユースが北方の戦地へ向かって、三ヶ月。  

私は、丸々と膨らんだお腹を抱え、公爵邸の裏庭で素振りをしていた。

もはやドレスは前が閉まらず、父から贈られた特注の軽甲冑を腹に当てている始末だ。


「奥様! 国王陛下より至急報です! ルグラン閣下が『断絶の谷』にて孤立! 救援は……絶望的とのことです!」


執事の叫びを聞いた瞬間、私の心臓が「ドクン!」と過去最大級の衝撃を上げた。

(……っ! またこの拒絶反応! あいつ、死に際になってまで私の心拍数を乱すなんて、どこまでキモいの!?)


だが、困る。非常に困る。  

あいつが死んだら、誰が私の「離縁届」に判を突くというのだ。

未亡人になどなったら、一生ルグラン公爵家の亡霊に縛られるではないか。


「……私の飛竜を出しなさい。あと、お産婆さんと、予備の魔剣を三本」

「奥様!? 臨月ですよ!?」

「うるさいわね! 死ぬなら判を突いてからにしなさいって、あの男に叩き込んでやるんだから!」


一方、吹雪の「断絶の谷」。  


ユース・ルグランは、押し寄せる魔獣を前に、膝をついていた。  

「閣下! お怪我を拭いますわ、さあ、こちらへ!」


甲斐甲斐しく(というよりは執拗に)ユースにまとわりつく女がいた。


幼馴染の公爵令嬢、カトリーヌだ。

彼女は「ユース様の一番側で支えるのは私」と豪語し、看護師として勝手に戦場までついてきたのである。


「……下がれ、カトリーヌ。君がいると剣が振りにくい」

「まあ、照れちゃって! 死ぬ時は一緒ですわよ、ユース様!」


カトリーヌはユースの腕に抱きつこうとする。

彼女の一途さは、もはや一種の狂気だった。

ユースは冷徹な瞳で彼女を見捨てようとしたが、魔獣の群れがそれを許さない。

(……ああ。こんな、愛も執着も重苦しい女に囲まれて死ぬのか。……エヴァ。君の、あの清々しいまでの『キモい』という罵声が恋しい……)


ユースが目を閉じた、その時。


――ドォォォォォォン!!!


空から巨大な影が舞い降り、一撃で百体の魔獣を粉砕した。  

雪煙の中から現れたのは、飛竜の首を力技でねじ伏せ、大剣を肩に担いだ、お腹パンパンの妊婦だった。


「…………エヴァ?」


絶句するユース。そして、カトリーヌが金切り声を上げる。 「ちょっと! 誰よその不潔な妊婦は! ユース様に近寄らないで!」


エヴァはカトリーヌを一瞥もしなかった。ただ、ユースの胸ぐらを掴み上げると、至近距離で怒鳴りつけた。


「ユース・ルグラン! あんた、この私に『安静にしていろ』と言っておきながら、自分はこんなところで女にはべって死にかけてるなんて……効率が悪すぎてヘドが出るわよ!!」


「エヴァ……君、そのお腹で……」 「黙りなさい! ほら、離縁届よ! さっさと判を突きなさい!」


戦場のど真ん中で羊皮紙を突きつけるエヴァ。  

カトリーヌは顔を真っ赤にして叫ぶ。

「離縁!? 結構ですわ! ユース様は私と結ばれる運命……」


「うるっさいわね、この泥棒猫! あんた、さっきから見てれば腰の入れ方が甘いのよ! どきなさい!」


エヴァはカトリーヌをデコピン一発で雪山へ吹き飛ばした。  その瞬間、エヴァが「うっ」と腹を押さえる。


「……エヴァ!?」

「……ちょっと。ユース。あんたの顔を見たら、心臓だけじゃなくて、お腹まで騒ぎ出したわ。……産まれるわよ、これ」


「…………は?」


 魔獣の咆哮。吹雪の音。

そして、飛竜の唸り。  

最悪のコンディションの中、ルグラン公爵夫人は戦場での「出産」を開始した。


「……ユース。あんたが支えなさい。これは、王命よりも重い『義務』よ!!」


こうして、後に語り継がれる「断絶の谷の爆誕劇」が幕を開けたのである。

臨月で飛竜、戦場で離縁届――この夫婦はいつも極端です。

そしてカトリーヌさん、合掌(※いい意味で)。

次話、断絶の谷で“爆誕”します。覚悟してどうぞ!

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