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第三話:史上最速の懐妊と、過保護な変態の帰還

投げ飛ばされてなお、頬を染めて「抱かれたかったのか?」と宣う男。  

私はその場で、彼を二度、三度と追撃で投げ飛ばしてやりたい衝動に駆られた。


「違います! 私が言いたいのは、あんたのその失礼極まりない態度に、私の誇りが……!」


激昂した拍子に、ふらりと視界が揺れた。  

一週間、爆食と筋トレに明け暮れたツケか。あるいは、ユースから発せられる毒素キモさの致死量を超えたのか。


「エヴァ!?」


ユースが瞬時にベッドから跳ね起き、私の体を支えた。  

抱き留められた瞬間、鼻先をくすぐる彼の清潔な香りと、分厚い胸板の熱。  


――ドクン。  

心臓が、耳元で鐘を鳴らすように激しく打ち鳴らされた。

(ダメ、死ぬ。この男に触れると、心臓が爆発して死ぬわ!)


「離して! 毒、毒がうつる!」

「何を言っている。顔色が悪いぞ。……まさか、もう兆候が?」

ユースは私を強引に抱き上げると、診察のために侍医を呼びつけた。  


そして。


「……おめでとうございます。ルグラン公爵夫人。ご懐妊です」


老侍医の言葉に、寝室が静まり返った。  

私は呆然と自分の平坦なお腹を見た。


「……え、まだ一週間ですよ?」

「驚異的な効率だ。流石は私の計算通り」


隣でユースが、さも当然といった顔で頷いている。  

計算? こいつ、今、計算と言った?


「ユース・ルグラン。あんた、まさか……」

「ああ。君に二度と苦痛(義務)を味わわせないために、私は最善を尽くした。受胎効率を極限まで高めるための食事療法、魔力の調整、そして当日の……」

「黙りなさい!!!」

私は枕を彼の顔面に叩きつけた。  

何が最善だ。何が効率だ。

この男、私に触れるのを避けるために、あの一晩に全戦力を注ぎ込んだというのか。


「……やっぱり、あんたは世界一キモい男よ!」


罵声を浴びせ、布団を被って丸くなる私。  

だが、ここからが本当の地獄だった。


翌日から、ユースの「効率的な過保護」が火を噴いた。


「エヴァ。階段を自力で上る必要はない。私が抱いて運ぶ。歩行は体力の無駄な消費だ」

「下ろしなさい! 私は妊婦であって病人じゃないわ!」


「エヴァ。今日の食事だ。胎児の骨を鋼鉄のように鍛え、君の体力を削らないための特製スープだ。私が一口ずつ運ぼう」

「スプーンをよこせ! 自分で食えるわ!」


彼は執務の合間を縫って、一日に何度も私の様子を見に来るようになった。  

扉の隙間から、あるいは窓の外の木の上から(※彼は高い身体能力をストーキングに無駄遣いしている)、じっと私を見つめている。


視線を感じるたびに、私の心臓は「逃げろ!」と叫ぶ。  

それを私は、ますます深刻化する「拒絶反応」だと信じて疑わなかった。


「……ユース様。さっきから、そこで何をしているの?」


本を読んでいた私は、カーテンの陰に隠れている男に問いかけた。  

ユースはスッと現れ、真剣な眼差しで私を凝視した。


「君が本を捲る際、指を紙で切らないか監視していた」

「……紙で切るくらい、放っておきなさいよ」

「だめだ。君の血の一滴も、非効率に失われることは許さない。……それに、本を読んでいる時の君は、魔獣を狩る時と同じくらい美しい」


さらりと、吐き気がするほど甘い台詞を吐く。  

私は全身に鳥肌が立つのを感じた。


「キモい……。あんた、本当に、どこまでキモくなれば気が済むの……っ!」


私は耐えられなくなり、部屋を飛び出して林へ向かった。  

「……よし。あいつから逃げるために、今日からスクワットの回数を倍にするわ!」

お腹の子に向かって、私は力強く宣言した。    

これが、ルグラン家の「バグったマタニティライフ」の幕開けだった。  


そしてこの「逃亡」と「追跡」の日々が、後に戦場でのあの『大立ち回り』へと繋がっていくのである。

史上最速の懐妊+過保護が加速して、家庭がバグり始めました。

ユースは優しさのつもりなのに、出力が完全に変態寄り…。

次話、ついに舞台は戦場へ。臨月のエヴァ、動きます。

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