第2話「炭鉱と鎖と第一の演説」
この世界――ノウル王国において、支配構造は明確だ。
上位に君臨する貴族階級。
その下で喘ぐ農民、労働者、そして奴隷。
見事なまでの階級社会。
俺が目をつけたのは、王都から離れた辺境の炭鉱町――コールタウン。
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リサの案内で、俺はそこに足を踏み入れた。
空気は煤けており、町全体が灰色に染まっている。
肌を焼く日差しよりも、炭鉱の粉塵が人々を蝕んでいた。
「……ここが、炭鉱町……?」
「うん。毎日、男たちは朝から晩まで掘り続けてる。報酬は……ほんの少しだけ」
リサの声は沈んでいた。
坑道の入口には、鎖に繋がれた奴隷たちが列を成している。
監督官の男が鞭を振り上げ、罵声を浴びせる。
「遅いぞ、虫けらども! 石炭が止まれば、王都の暖炉が冷えるんだ!」
その言葉に、俺の中で何かがキレた。
(……これが、現実だ)
この世界でも、労働者は搾取され、上級は温室でぬくぬくと暮らしている。
ふざけるな。
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俺はスキル《搾取構造可視化》を起動した。
視界に赤と黒のネットワークが浮かび上がる。
炭鉱で採掘された石炭が、どう分配されているのか――
赤:労働者の実働80%
黒:貴族の収益85%
「……比率が壊れてやがる」
奴らは、賃金を与えているフリをして、すべてを奪っている。
まさに“労働力の商品化”だ。マルクスの言葉を思い出す。
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その日の夕刻、俺は貧民宿の酒場で人々を観察した。
誰もが疲れ切った顔をしていた。
機は熟していた。
俺は椅子の上に立ち、声を上げた。
「同志諸君、聞いてくれ!」
ざわつく酒場の中で、男たちの視線がこちらに集まる。
「お前たちは、毎日身体を削って働いている。なのになぜ、暮らしは楽にならない?」
誰かが呟いた。
「……仕方ねぇだろ、昔からこうなんだ」
「違う!」
俺は拳を振り上げる。
「それは“そうされている”んだ。貴族どもはお前たちの労働で富を築き、お前たちには“ギリギリの餌”だけを与えている!」
酒場が静まり返る。
俺は続ける。
「なぜ奴らは鞭を握り、お前たちは鎖に繋がれている? 同じ人間じゃないか!
答えはひとつ、団結していないからだ!」
誰かが立ち上がった。
「お前、何者だ……?」
「俺は転生者。別の世界から来た者だ。そしてここに誓う――
この腐った搾取構造を、俺の手で壊す!」
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翌朝、宿の前には数人の若者が集まっていた。
炭鉱で働く者、荷車を引く者、酒場の給仕――皆が、何かを感じ取ったのだ。
「……お前の話、もう少し詳しく聞かせてくれねぇか」
「いいだろう、同志。まずは“階級”という概念から教えてやる」
この日、コールタウンにて**初の“勉強会”**が開催された。
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階級意識は、火種のようなものだ。
一度着火すれば、燃え広がるのに時間はかからない。
そして、燃えるその先にあるもの――それは、革命だ。