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大切なぬいぐるみ5

 2人で一緒に出かけた翌週末のことだった。


 外科の新人が帰り支度のために更衣室に向かうと、内科の新人が焦って働いている。


外科の新人「あれ、まだいたの?あっ!ねえ、今日は遅番?夜勤?」


内科の新人「遅番。なかなか終わらなくて〜。もうすぐ終わるの。」


外科の新人「私は終わったわ。ねえ、一緒に帰る?」


内科の新人「うん。そうね!」


外科の新人「じゃあ待ってるから、終わったら外科のナースステーションに来て。」


内科の新人「分かった。また後でね。」




 ついにチャンスがやってきた。先生は今日は夜勤。今から仮眠のはず。。



 先生が仮眠室に入るのを確認した外科の新人は内科の新人を待つ。



 もー遅いなー。。。何をしてるの!仕事なんてどうでもいいから!先生が寝ちゃうじゃないの!



内科の新人「ごめんねー。遅くなっちゃって。」

外科の新人「もー遅いよ〜。早く早く!いいから急いで!」



 外科の新人は手を引っ張って連れていく。


内科の新人「えっ!方向が逆じゃない?ち、ちょっと何処に。」

外科の新人「ここよ!仮眠室。今日は、先生夜勤だからチャンスなのよ。いい?勝負よ!」



 外科の新人は扉を開き、背中を押す。


内科の新人「えっ?えっ?」


外科の新人「しっかりやりなさいよ!私は誰も入らないように外で見張ってるから。」


 外科の新人は扉を閉めた。



 内科の新人は、突然のことで頭が真っ白になったが、無意識で近づくと男の子が気づいた。



男の子「誰?。。ああ、君は内科の。。どうしたの。ああ、もしかして悩み事?」



内科の新人「えっ!ま、まあ。はい。」


男の子「いいよ。話てごらん。君はすごく綺麗だから、いじめられたり、いろいろ妬みとかあるかも知れないね。心もキレイなのは見たら分かるよ。」



 外科の新人は中が気になって仕方ない。耳を研ぎ澄ますが何も聞こえない。



 突然、肩を叩かれた。


外科の新人「えっ?」


外科部長「申し訳ない。荷物を取りたいから通してくれ。」


外科の新人「えっ!い、今はダメ〜っ!お願いです。少しだけ待って下さい!」


外科部長「ん?さては。中で何かしてるな?あのな、コンプライアンスとかうるさいんだ。問題になったら困る。言いなさい!どきなさい!」



外科の新人「いや、あのー。えーとですね。内科の新人看護師が先生のことが好きで。半年経っても未だに挨拶だけって。だから、今、無理やり中に押し込みました。どうか、もう少しだけ。」


外科部長「何だと?」


外科の新人「あの。やっぱり問題になりますかね。何とか内緒にすることは出来。。」

外科部長「あの子は半年の間、いったい何をやってたんだ?何のために看護師になってウチの病院に就職したんだよ!」


外科の新人「えっ。どういうこと?部長、何で急に怒ったんです?」


外科部長「おい、見つからないように入るぞ!いいか、大きな声出すなよ!」



外科の新人「えっ!部長。それはさすがにマズくないですか?」


外科部長「いいから。ああ、入らないならいいぞ。」

外科の新人「は、入る!」



 2人は中に入り、ロッカーの陰から様子を見守る。



男の子「いいよ。内緒にするから、悩みを言ってごらん。もしかしたら、僕では言いにくいかな?」




 内科の新人は意を決して、突然服を脱ぎ始めると上半身裸になった。



外科の新人「えっ、えーっ!」

外科部長「バカモノ!大きな声を出すな!しかし、これは見事な身体だな。」



男の子「まあ話しにくいのなら無理に。。。うわー。ち、ちょっと!ど、どうした。。。ん?。。あーっ!」




内科の新人「良かった。。やっぱり先生だけは。」




 内科の新人の腹部に見覚えのある傷跡が。



男の子「そうか!君、あの時の女の子だったのか。」




外科の新人「えっ?えっ?どういうこと?」

外科部長「いや〜。挨拶しか出来なかったわりにずいぶん大胆だな!いいぞ、その勢いだ!」

外科の新人「あのー。部長?何故そんなにノリノリなの?」




女の子「そうです。先生に助けてもらいました。」



男の子「いや〜。傷は覚えているよ。でもね、あのね。あの時と違って、あまりにも魅力的な身体で。そのー。目がそちらにしかいかないよ。」




女の子「えっ!いやっ!は、恥ずかしい!」



男の子「もう分かったから服を着なさい。」



 真っ赤になって服を着て整える女の子。



外科の新人「えっ。どういうこと?ちょっと部長。どういうことよ!知り合いってこと?ねえ!」

部長「もー。さっきから、お前はいちいちうるさいなー。いいから黙って見ろ!」




女の子「先生。私、頑張ってみんなが幸せになるように努力した。綺麗になるようにいっぱい努力した。」


男の子「それは見たら分かるよ。ずいぶん頑張ったんだね。本当に良かった。自分も力になれたのか。なんか嬉しいな。ああ、忘れてた!それで悩みは?」




女の子「あの、先生。。先生!わ、わたしと、私と結婚して下さい!」


 その瞬間に外科部長はガッツポーズしながら、すぐさま外科の新人の口をふさぐ。



男の子「えーっ!いや〜。あなたが幸せになるのかな?ねえ、何歳になったの?」


女の子「はい!もうすぐ20歳。ですから、もう結婚出来ます!」


男の子「僕はもう34歳なんだよ?君は幸せにはならないよ。」



女の子「先生。。私ね。ずっと先生のことだけを考えて頑張って、やっと会えた。なのに声もかけられなかった。私が結婚したいのは先生だけ。命を救ってくれた先生だけ。大人になったら先生のお嫁さんになるって、ずっと頑張って。私、先生でしか幸せになれないの!先生!」



男の子「いや、しかし。。。」



女の子「いろんな人が綺麗と言ってくれる。言われるように努力もしてきました。でも、内面まで見てくれた人はあまりいなかった。それに。。。」


男の子「それに?」


女の子「好きになった人は何人かいました。けど。。もし親しくなったら。。傷を。傷を見られるのがどうしても怖くて。だから、みんな断ってきたのです。」



男の子「そうか〜。それは、ずいぶん辛い思いをさせてしまったんだね。」



女の子「命を助けてもらったんですから、それはいいんです。。けど、ずっと怖かった。どうしても身体の傷を見て、嫌われたらと考えてしまう。怖くて、怖くて。心を開くことが出来ませんでした。」



男の子「そうだったのか。」



女の子「だけど、先生には抵抗なく見せられたんです!私、こんな気持ち初めてなの。私のコンプレックスは先生にはなかった。ずっと好きだった。。先生。私、先生と結婚したい!私だって幸せになりたいもん。」



男の子「いきなり結婚とは驚いたな。けど、こんな僕でいいのなら考えてみるよ。」




 煮え切らない態度に我慢出来ず、外科部長が飛び出す。


外科の新人「えっ!ち、ちょっと。」


外科部長「おいおい!考えてみるじゃないだろう!はい!だろうが。10年も想い続けた女を幸せにしないなんて君らしくない!こんないい女は滅多にいないぞ?」



男の子「ぶ、部長。いつから?」



外科部長「いつから?んー、いつかな?ああ、とりあえず彼女が裸になるのは見たぞ。」



女の子「えっ!いやだ。は、恥ずかしい!」


外科部長「いや〜、素晴らしい身体だったよ。」



外科の新人「ねえねえ先生。つまり先生は、彼女をキズモノにしたってことですよね?だったら先生が責任を取らないとダメでしょう。」



男の子「えっ、君もいたの!いや〜、あのね。それはだね。えっとー。」




外科部長「ごめん。その傷は私だ。」

 


外科の新人「えーっ。そんな〜。もー部長!どうするのよ〜。まあ、とにかく!この子が幸せになるのは先生だけ。ねえ先生!」



男の子「は、はい!あの、僕で良かったら結婚して下さい。」



外科の新人「やったー!やったわね。良かった〜。」



 外科の新人は内科の新人を抱きしめて大喜び、女の子は信じられない言葉に嬉しくて泣いている。



部長「しかし。挨拶だけから、いきなり結婚か。良くやった!」


外科の新人「ねえ。お付き合いして下さいとか言うと思ってたからびっくりしたわよ。あの時に部長が口ふさがなかったら大変だった。私、ぶち壊してたわ〜。」



部長「あのな、あの時は彼がいたから助かったんだ。私の技術だけでは助からなかった。彼女を全員の力で助けたのは彼だ。私達は彼女を苦しめていたんだな。これは全力で応援しないと後悔するな!」



外科の新人「そっか。だから、抵抗したんだ。モデルとか言っちゃた。気づかなくてごめん。」


女の子「ごめんね。私、すごくコンプレックスだったから言えなくて。けど、先生だけは傷は全く抵抗なかったの。我に返った時に裸が恥ずかしかったけど、先生にはコンプレックスじゃなかった。だから勇気を出せた。」



外科の新人「しかしさー。これって超一流の女がやる色仕掛だよね。こんな美貌で裸になって落ちない男がいる?よく考えたらさー。話せば分かることじゃないの。」


女の子「だって、必死だったんだもん。どうしたらいいか分からなくて必死だったんだもん。」



外科の新人「ねえ部長。これは完全にコンプライアンス違反というやつですね。結婚するならクビでいいんじゃないですか?」


部長「いやー。何かあったか?人がいるのに気付かず着替えしてたんだろう?それに、プロポーズを会社でしてはいけないなんて規則はないぞ?」


外科の新人「部長!ここは仮眠室です。更衣室ではありません。」


部長「何も見なかった。違うか?のぞきはコンプライアンスとしてどうかな?」


外科の新人「んー。何も見なかったことにするのが一番みたいね。」


部長「なあ、今すぐ帰れ!」


男の子「えっ!私は今から夜勤ですから。」


部長「いいから帰れ!夜勤なんか私がやる。夜勤明けで挨拶なんてダメだ。内科にも話をつける。必ず明日休みにしてみせるよ。2人で両親に挨拶だ。」



男の子「いや、待って下さいよ。部長に夜勤をさせたなんて知られたら。」


部長「部長命令だ。今すぐ帰れ!3人でな。ああ、外科は休めないからな。」


外科の新人「分かってますよ。でも部長素敵だわ〜。私、乗り換えようかな。」



部長「あのー。申し訳ないが妻子ある身だからなー。そうだな、2番目としてなら。」


外科の新人「もー。余計なこと言わなかったら最高だったのに!。。ん?。。そうか!。。ねえねえ部長、私も結婚したら2番目としてなら考えておきます。さっき後ろから抱きしめられたら、体が熱くなっちゃったし。」


部長「お前、事実をねじ曲げるな!私は口をふさいだだけだ。」



外科の新人「部長さん?反対の手は私の胸にあったわよね?コンプライアンス。」



部長「えっ!いや〜。よく覚えてないなー。」



外科の新人「私の身体がしっかり覚えてますよ!それに、間違いなく覚えている反応ですね〜。まあ、抱きしめられてドキっとしたのは事実だし。そうね!結婚したら相談しまーす。」



女の子「えーっ。冗談よね?」



外科の新人「本気よ。私、部長タイプなの。それに友人の愛を手助けして、命も救ったんでしょう?2番目、必ず立候補しまーす!まあ、男と女はいろいろよ。あなた達はまず2人で愛を育くむことね。」



部長「そうだ!2番目というかだな。実は、来月病院に話すつもりなんだが、退職して開業医をやることに決めたんだ。君は結婚したら勤務的に大学病院は厳しいだろう?良かったらウチに来てもいいぞ。今の君の仕事ぶりなら文句ない。」


外科の新人「本当ですか!部長。私の仕事が合格なんですか!」



男の子「いや、待って下さいよ。確か、部長は実家に戻るって。」


部長「ん?この町だぞ。実家は歩いてすぐだ。」


外科の新人「うわー。それ、是非お願いします!」


部長「あのな。引き抜きはバレたらマズい。内密にな。また改めてな。」



外科の新人「もちろん分かってますよ〜。大人の関係と同じで2人だけのヒミツってことですよね!大丈夫でーす。」


部長「なんか。本当に大丈夫か?仕事ぶりは文句ないが、ちょっと不安になってきたぞ?でもまあ、最高の1日になったよ。さあ、早く帰れ。明日は大変な1日になるぞ。」




 再会して半年以上かかったが、即結婚することになった2人。かなりの急展開だが、幸せにならないはずはないと部長は思ったのだった。


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