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6 宗介の仲間たち

 宗介は私とジョンに集合場所を伝えて、1時間程経ったら来てくださいと言っていた。街中に散らばっている仲間を集めるのは時間がかかるらしい。

 私たちは彼に一旦別れを告げて、家の敷地から出ていった。

 

 しばらく私とジョンが出会った公園で過ごした。そして、約束した時間が近くなると、私とジョンは宗介が指定した集合場所へと向かった。もう時刻は正午を過ぎて、午後1時過ぎになっていた。

 宗介のお使いでコンビニに行ったが、私も昼ご飯を食べて正解だった。お腹が空いたままだと、歩けなくなってしまうところだった。


「本当はコンビニじゃなく、家に帰って、ご飯を作りたかったけどね」


 家に入ることができれば、冷蔵庫に食材があるから、それで何か料理を作ればいい。

 しかし、私は鍵を家に忘れてきてしまった。ジョンから教えてもらったが、両親は仕事に行ってしまい家にはいないらしい。だから、私は家に入ることができない。


「あれ? 莉渚は料理ができたのか?」


 ジョンは不思議そうな顔をしていた。


「最近、お母さんから料理を習っているんだよ。まあ、まだ簡単なものしか作れないけどね」

「そうなのか。ワタシも莉渚の料理を食べてみたいな」

「ありがとう。それじゃあ、お母さんに教えてもらおうかな」


 ジョンは私に力を貸してくれた。そのお礼に彼に何かしてあげたいと思っていた。

 そういえば、犬用のご飯はどうやって作るのだろうか。後で調べればいいか。

 

「えーと、確か瀬葉(せは)神社だったよね?」

「ああ、そうだな」


 宗介が集合場所に選んだのは、私が住んでいる街の中で1番と言ってもいいぐらい古い神社だった。

 どんな神様を祀っているのかは知らないが、とても古くからある神社らしい。

 私もジョンとの散歩で何度も神社の前を通ったことがあるから場所は分かる。

 私たちが目的地を目指して歩いていると、突如それは現れた。街の中で一際目立つ森林だ。

 その森の中にあるのが瀬葉神社だ。私たちは森の中へ足を踏み入れた。

 森は厳か雰囲気が漂っていた。風に吹かれて木の葉がサラサラと揺れる音以外何も聞こえなかった。

 森を少し歩くと、広場が見えた。広場には神社らしく鳥居や石造りの道があり、その道の先に本殿が見えた。

 神社の本殿は木造で、そこまで大きくなく、一般的な家と同じくらいだ。しかし、その身に纏う気配は民家とは全く違っていた。


「先にお参りしようか」

「そうだね。神様にお邪魔しますと挨拶するのも大事だろう」


 私とジョンは本殿の前にある賽銭箱の前に立った。生憎、今は財布を持っていないため、お賽銭は無しだ。神様、ごめんなさい。

 私は本殿の屋根から垂れている紐を上下に揺らした。紐の先には大きな鈴が取り付けられ、シャラシャラとどこか気品ある音が鳴った。


「えっと、ここからどうするんだっけ? 両手を合わせればいいの?」

 

 私は紐から手を離して、隣にいる相棒に尋ねた。神社にお参りするなんて初詣以来だから覚えていない。ジョンに聞くのはどうかと自分でも思うけど。


「莉渚、両手を合わせるのはお寺だよ。ここは神社だから二礼二拍手一礼だ」

「え? 何それ?」


 ジョンの言葉を思わず聞き返してしまった。ニレイニハクシュイチレイ。何かの呪文にしか聞こえなかった。


「最初に2回お辞儀をして、次に柏手、まあ拍手を2回する。最後にもう1回お辞儀をする。これが一般的な神社の参拝方法だ」

「へえー、そうだったんだ」


 私は感心していた。神社にお参りの仕方があったこともそうだが、それをジョンが知っていたことにも驚いていた。


「ジョンはそんなことをどこで知ったの? まさかお母さんたちから?」


 私は頭の中でお母さんがジョンにお参りのやり方を教えている場面が思い浮かんだ。どう考えても異常な躾だ。そんな飼い主がいるわけがない。


「いや、宗介に教えてもらったんだ」

 

 ジョンは笑いながら言った。彼曰く宗介は色々なことを知っていて、よくジョンに教えてくれることがあるそうだ。


「ジョンと宗介さんって、本当に仲が良いんだね」

「まあ、そうだな。たまには喧嘩をしたりするが、あいつは大切な友人だ」


 喧嘩しても仲が良い友達。それを聞いて、私は少しジョンのことが羨ましくなった。

 その後、私はジョンに教えてもらった通り、神様にお参りした。


 

 神様にお参りを済ませた私とジョンは、宗介とその仲間たちを探した。この神社の境内を見渡してみたが、見当たらない。

 

「いないね? 約束の時間を間違えたのかな?」

「いいや、合っているよ。ちょっと待ってくれ」


 ジョンは地面に鼻を近づけた。フンフンと鼻を地面にくっつけて私の周りを歩いた。


「いた」

「え?」

「こっちだ。ワタシについてきてくれ」


 ジョンはどこかへと歩き出した。どうやらその自慢の鼻で宗介の匂いを辿ったらしい。私は悠然と歩く彼の後を追った。

 ジョンは本殿から離れ、境内の外れにある本殿を小さくしたような建物の前に立った。本殿が親とするなら、その建物は赤ちゃんみたいに小さかった。

 

「ここにいるの?」


 私はジョンに尋ねた。目の前にある建物はどう見ても猫が1匹入るかどうかぐらいの大きさだ。とても宗介やその仲間たちが入れる大きさではない。


「いいや、この社の裏だよ」


 ジョンはそう言うと、社の右側へと足を踏み入れた。この建物は社と言うらしい。

 社の裏手は森になっていた。ジョンはその森を目指しているようだ。

 私もジョンの後ろをついていった。私たちは森の中へと入っていった。


 

 森の中は神社の境内と違い、道が整備されていなくて、歩きにくい。落ち葉が絨毯のように敷き詰められ、木の根があちらこちらの地面から顔を出していた。

 少し歩くと、やがて森の出口が見えた。私たちは森を抜けた。


「わあ」


 私は思わず声を漏らした。森を抜けた先は草原になっていた。神社の境内と違い、私の足元ぐらいに伸びている草が生い茂っている。

 草原は周りを木々に囲まれている。そのため、空を見上げると空が丸く切り取られたように見えた。

 草原の中央に何やら集まっているのが見えた。私とジョンは中央へと向かった。

 近づいていくと、複数の声が聞こえる。今の私には人間の言葉が分からないため、恐らくこの声の主たちは動物だろう。

 やがて集まったいる者たちの正体が分かった。それはたくさんの猫だった。私の両手足の指を足しても足りないほどの猫の集団がいた。

 三毛猫、キジトラ、サバトラ等の様々な種類の猫がいた。その集団の先頭に約1時間振りに会った茶トラがいた。


「ようこそ、おいでくださいました」


 そう言って、宗介は私たちに向かって頭を下げた。後ろの猫たちも「ようこそ」と声を揃えていった。



「わあ、人間だ!」

「本当だ! 人間がオレたちの言葉を喋ってる!」

「ねえねえ、人間さん、何か食べ物ちょうだい!」

「ちょ、ちょっと待って。あんまり一斉に喋らないで」


 私は猫に取り囲まれていた。というか、猫に埋もれそうになっていた。宗介は仲間たちに私のこと、つまり動物の言葉が分かる人間だということが紹介した。

 宗介の仲間たちも私が動物と話せることが分かると、飛び上がらんばかりに驚いていた。

 そして、驚きが静まると、今度は私に向けて矢継ぎ早に質問が来た。みんな、私に興味津々らしい。私はふと好奇心は猫をということわざを思い出した。

 

「ねえ、どうしてアタシたちの言葉が分かるの?」

「一緒に遊ぼう! 人間の遊びを教えて!」

「ご飯、ちょうだい!」


 本当に質問が止まらない。めちゃくちゃやる気のあるクラスを受け持った小学校の先生の気分だ。あと、さっきから食べ物が欲しいと言ってくるのはどの子なんだろう。


「お前たち、落ち着け。莉渚お嬢さんが困っているだろう」


 猫たちから質問攻めに遭っている私に助け舟を出してくれたのはボスである宗介だった。彼は私たちと話す時とは雰囲気が少し違って見えた。

 彼の一声によって、私への質問がピタリと止んだ。流石この街のボス猫だ。


「今日、お嬢さんがここに来てもらったのはお前たちの質問に答えるためじゃない。オイラたちに聞きたいことがあって来たんだ」


 宗介の言葉に集まっていた猫たちは興味深そうな顔で私を見た。


「聞きたいことって?」

「美味しいご飯の場所なら知っているよ!」

「ごめん、ご飯は別に良いんだけど」


 私は改めて草原に集まっている猫たちを見渡した。彼らの視線を浴びて、私は深呼吸した。


「莉渚、大丈夫かい?」


 隣にいるジョンが心配そうな顔をしていた。


「うん。大丈夫だよ。ありがとう」


 そう言って、私は彼の頭を撫でた。ジョンはクゥーンと鳴き声を上げた。


「みんな、集まってくれてありがとう。聞きたいことって言うのは私に起きたことについてなんだけど」


 私は猫たちに説明した。朝起きたら人間の言葉が分からなくなっていたこと。ジョンを始めとした動物たちの言葉は分かるようになっていたことを話した。

 猫たちは私の話を黙って聞いてくれた。


「それで、私に起こった異変の原因とかに心当たりがあったら教えて欲しいんだけど」


 私は話し終えると、再び猫たちを見回した。


「聞いたことある?」

「いや、オレは知らないな」

「人間の言葉が分からないなんて可哀想だね」


 猫たちはガヤガヤと話し始めた。皆、隣にいる子と何やら話し合っている。しかし、どの猫も私に何かを教えてくれそうにない。

 みんな、心当たりがないのかな。ふとそんな考えが頭に浮かんだ。

 街中を歩き回る猫なら何か知っているかもしれない。そう期待を抱いてここに来たが、空振りに終わるかもしれない。

 そうなったら始めからやり直しだ。私はそれが怖くなった。希望へと繋がる道が断たれた気分になるからだ。


「ボク、分かるかも!」


 突然、幼さを感じさせる声が響いた。動物の言葉が通じるようになって分かったことだが、猫はどんな子も声が高く聞こえる。それでも、今、広場に響いた声は一層高く聞こえた。


「聞いたことがあるよ!」


 再び同じ声が聞こえた。すると猫たちの集団から1つの小さい黒い塊が私たちの前に飛び出した。最初、黒い毛玉か何かに見えた。

 いや、違う。それは小さな黒猫だった。

 その子は他の子よりも小さく恐らくまだ生後1年未満といったところだ。全身真っ黒の子猫は好奇心いっぱいで目を輝かせていた。


小雲(こくも)おばあちゃんから聞いたことがあるよ! お姉さんみたいに不思議なことが起こるって!」


 元気いっぱいに子猫はそう言った。希望が繋がった気がした。

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