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最後の手紙

作者: ひかるげんじ

僕の大切な人へ



この手紙を読んでほしいのは、僕にとって大切な人達です。生憎、僕にはそのような存在が片手ほどしかいません。そんな、我儘で弱気な僕を愛してくれた貴女たちに、言葉を送りたいのです。どうかお許しください。



まず、僕を産んでくださった2人へ。

僕は、とんだ不孝者です。そのことをまず謝らなければなりません。僕は、ずっと貴方達から逃げていました。最後に会ったのは何年前でしょう。僕には勇気がありませんでした。家族愛というものを軽蔑していたのかもしれません。

昔、小学生の頃もこんな手紙を書きましたね。授業の一環だったのでしょうか。その時僕が書いたのは、感謝でも謝辞でもなく、ただの文句でした。それを読んで、お母さんはムスッとしていましたね。言い訳をすると、恥づかしかったんです。僕は愛を表現するのが苦手なようでした。そのような行為が、少し気持ち悪く感じてしまうようなのです。本当に、手のかかる息子でしょう。今書いていても、恥づかしいのです。

ただ、今の僕をかたどったのは、紛れもなく貴方達の愛情です。それへの感謝を伝えられなかったことをお許しください。心の底ではわかっていたんです。二人の笑顔を忘れたことなど、ひと時もありません。

僕は、恵まれていました。しかし、そのことに気づくのが遅すぎました。気づいても、気付かぬふりをしていました。自分のことを、二人のせいにしていたんです。ああ、なんて馬鹿なんでしょう。貴女達はどうして、こんな馬鹿息子を抱きしめてくれたのでしょう。

母は優しく、父は温かく。時に甘く、時に厳しく。ていねいに、ていねいに。僕という存在を育ててくれました。

僕は、寂しがり屋でしたね。お母さんのトイレにまで着いていきました。貴女の膝の上に座るのが好きでした。大人しい子だね、と色んな人に褒められました。僕は貴女の傍に居たかっただけです。その温もりが、大好きでした。

お父さんに頭を撫でられるのが好きでした。褒められるように頑張っていたんですよ。貴女の後ろ姿が好きでした。実は、将来の夢はずっとお医者さんだったんです。もしそのことを貴女に言ったら、喜んでくれたでしょうか。それと、幾つになっても、お母さんの料理が好きでした。一人暮らしをして、気づきました。僕は、貴方達のことが大好きでした。

これは僕の我儘です。最後まで迷惑をかけてごめんなさい。生まれた時から、貴女達を愛しています。



次に、翔太へ。

もし親友なんて存在がいるとしたら、僕にとってのそれは貴女でしょう。貴女にとっても、そうであると願っています。

正直、君に対して書くことはあまりありません。なにせ、隠し事など一切ないのですから。

伝えたいのは、感謝です。貴女にあえて、本当に良かった。僕は運がいい。生涯で真の友を見つけられたのだから。いいえ、悪友と言った方が正しいでしょうか。一緒にイタズラもしましたね。君が隣にいると、なんでも出来る気がしたんです。全てが楽しかった。ありがとう、翔太。君と出会って、僕の世界が色づいたんだ。

貴女は、何度も僕を救ってくれました。君は気づいていないかもしれませんが、僕は君に生かされていたんです。君の太陽のような性格は、僕の深く閉ざされた心にまで染み込んできました。そんなことは、生まれて初めてでした。気が合うと思ったのも、一緒に遊びたいと思ったのも、君が初めてでした。僕は、根暗なんです。本来ならば対極な位置にいたでしょう。こうして出会えたのは、本当に運命だと思うし、僕はその運命に心から感謝をしています。翔太と出会わなかったら、きっと僕はもっと早くに死んでいました。

ところで、僕が1番好きだった時間を知っていますか。これは少し恥ずかしくて、君には言ってなかったんです。それはね、帰りの電車の待ち時間ですよ。二人でたくさん遊んだ後の帰り道。疲れ果ててベンチに座って、電車を待つ時間。田舎だから、誰もいないし、なかなか電車も来なくて。その時に二人でゆっくりと話すのが、僕は大好きだったんです。疲れて脳みそが回ってなくて、でも帰りたくなくて。そんな薄暗い場所での会話は、なんだか儚く感じました。でも、君の笑顔は綺麗に輝いていました。

僕は、君を忘れません。だから、君も僕を忘れないでほしいんです。一生のお願いをここで発動します。そういえば、まだ使ってなかったよね。

ありがとう、翔太。君は僕の太陽だ。



そして、敬一さんへ。

貴女は、僕に色んなことを教えてくれました。働き方、お酒の飲み方、女性の誘い方。少しワルいことも教わりましたが、その度に僕の世界は広がっていきました。

貴女は、僕をどん底から引き上げてくれたんです。そして、地上での歩き方を教えてくれました。僕が1歩歩けるようになる度に、貴女は自分のことのように喜んでくれましたね。貴女の周りにいる人も同じでした。兄のように、僕の頭をくしゃくしゃと撫でてくれました。初めて、仲間というものができた気がしました。みんなとのどんちゃん騒ぎが、僕は大好きでした。僕は、みんなのおかげで、ちゃんと生きることができるようになりました。

僕は、貴女にまだ何もお返し出来ていません。与えてもらうばかりです。それでも貴女は、決して僕を見捨てようなどとしませんでした。無償の愛を、与え続けてくれました。どれだけ感謝をしても足りません。

貴女に救われた人はたくさんいます。仲間内では、貴女のことを「オヤジ」と呼び慕っていました。それを聞いて、僕も真似するようになりました。

オヤジの良いところは優しいこと、悪いところは優しすぎることです。僕が道を誤ったときも、優しくさとしてくれました。その度に、僕はボロボロと泣きました。ごめんなさい、ごめんなさいと泣きじゃくりました。その時の僕は、それしか許される方法を知らなかったんです。そんな僕を、オヤジはそっと撫でてくれました。何も言わずに撫でてくれました。僕は涙が枯れるまで泣きました。

子供のような僕を、貴女は「大人」にしてくれました。生きる希望のなかった僕に、地上の光を見せてくれました。無知だった僕に、「社会」を、「仲間」を教えてくれました。

貴女のことは、第二の父だと思っています。だから、長生きしてほしいんです。貴女には、しわくちゃになっても笑っていてほしいんです。どうかお身体に気をつけて。タバコの吸いすぎは、よくありませんよ。



最後に、望美へ

貴女は、僕のことを愛してくれました。僕に、愛してると言ってくれました。ちゃんとした返事ができていませんでしたね。ここに、僕の思いを綴ります。

僕は、貴女のことを愛していました。間違いなく、僕にとっての大切な人でした。でもそれは、貴女の望む愛とは少し違っていたんです。だから僕は、貴女を突っぱねてしまいました。そのことを謝りたいんです。僕は、ずっと後悔していました。大切な貴女を、傷つけてしまいました。本当にごめんなさい。貴女の気持ちに応えることは出来ないかもしれないけれど、僕は貴女をずっと愛しています。

残念ながら、もう会うことは叶いません。君は、もっと素敵な人を見つけて幸せになってください。きっと、貴女には僕なんかよりもいい男がお似合いです。君は魅力的なのだから、もっと自信を持ってください。僕は、貴女の良いところをたくさん知っていますから。

まず、とっても可愛いです。お世辞ではありませんよ。次に、頑張りやさんなところです。苦手な料理も、自分なりに研究していましたよね。僕は肉じゃがが1番好きでした。あと、少し我儘なところ。良く言えば、自分に芯があるということ。そして、よく笑うところ。その笑顔が素敵なところ。場を明るくしてくれるところ。少しおっちょこちょいなところ。よくありがとうと言うところ。素直なところ。責任感があるところ。美味しそうにご飯を食べるところ。あとは......、書き出すときりがありませんね。

僕は、君に幸せなってほしいんです。だって、僕の大切な人だから。

ちゃんと食べて、寝て、起きて、日を浴びて、働いて、お風呂に入って、歯を磨いて。貴女のおかげで、僕は今日まで生きていけました。世話焼きな君のおかげで、僕は人間らしくなりました。

ありがとう。貴女のあの言葉も、声も、笑顔も、タッパーに入ったボロボロのハンバーグの味も、全部、絶対に忘れません。愛してる。どうかお幸せに。



親愛なる貴女へ、愛をこめて。

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