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スターライト王国

そのヒロインはめちゃくちゃ可愛いのに、攻略対象に容赦ない・ミランダ編

作者: 倉本たかみ

「ワインハイマー伯爵令息様」

「やだなぁ、エリカ。そんな他人行儀な呼び方をせず、アンディ、と呼んでくれと言ったじゃないか」

 エリカは、モルガナイトのような美しいピンクの瞳で、アンドリュー・ワインハイマー様を見る。

 そして、

「……ワインハイマー伯爵令息様。そろそろ授業が始まりますので、席にお戻りください。はっきり言って、邪魔なのです」

 にこりと微笑んで、言った。

 私、ミランダ・トバスは、頭を抱えたくなる。

 笑顔なのに笑ってないよ、エリカ。

 なんて言うのかしら、ブリザード? 吹いてるわよね?

 しかし。

 ……すごいわ。平民のエリカにあれだけ冷たくあしらわれながらも、全くお怒りにならず、エリカを見つめ続けている。

 どれだけ好きなのよ。

 さすがヒロイン。

「……アンドリュー様、そろそろ先生がいらっしゃいますわ。さ、ホーリー先生は礼儀にも厳しい先生でいらっしゃいますから、お急ぎになって」

 背中に冷や汗をかきながら、令嬢スマイルで促すと、アンドリュー様は捨てられた子犬のような眼差しで私を見てから、もう一度エリカを見て……すごすごと席へ戻って行った。

 私はそれを見届けると、ふうっと大きく息を吐いた。

 ……つっかれる〜!

 ちなみに私は男爵の一人娘。伯爵令息と話す機会など、本来ならほとんどない。

 私の実家は貧乏男爵家故に、私にはまだ婚約者がいない。跡取りになってくれる有望な次男三男を探すため、この王立学園に通っているのに、有望な方々は、一部を除きほとんど婚約してしまった。

 そんなに不細工ではないはずなんだけどなぁ。お金をかけていない割には艶々の金髪に、菫色の瞳。ただちょっと、可もなく不可もない地味顔なだけで。

 とにかくだ。後に残っているのは、平民にも関わらず、優秀故に特待生として学院に通っているエリカにぞっこんの、しつこ……いえ、一途な方々ばかり。

 私は実は、転生者である。しかも、ここが乙女ゲームの世界で、エリカはヒロインだということも知っている。だけど単なるモブでしかなかった私なので、正直乙女ゲームの世界なんてどうでも良かった。

 なのにだ。

 なぜこうなったのか。

 私達は、スイーツ作りが趣味という共通点ゆえ気が合い、いつのまにか仲良くなっていたのだ。

 これが噂のバグっていうものかしら?


 結局親友になった私達は、一緒にいることが多い。そのために、望まずとも彼らと遭遇してしまうのだ。

 面倒くさ……あ、いえ、身分の高い優秀な方々と。

 できれば悪目立ちせず、しっかり地に足をつけて学園生活を送りたかったのだけど、いまさら後の祭りで。

 四六時中癖の強いご令息達につきまとわれているエリカのそばにいる私に、普通の真面目で地味な次男三男など、近づいて来るわけないわよね。ええ、そうよね。

 でもね、エリカはちっとも悪くない。

 悪いのはあのストーカ……いえ、自称エリカと運命の糸で結ばれていると仰る方々。

 もちろん、わたしは、最悪のことも考えてはいる。

 それは、婿が見つからず、私が跡取りになることだ。

 スターライト王国は、直径の子孫であれば、女性が爵位を引き継ぐことが認められている。恋はともかく結婚に多少の夢を見たかった乙女としては、できれば! 考えたくないけれど! 婚約できなかったら、私がトバス家の跡を一旦継がなければならない。そして、従兄弟たちの子供から養子をもらうなどしないといけないのだ。

 ホーリー先生が教室に入って来る。顔だけはインテリ系イケメンだ。

 入った瞬間の視線の先にいるのは、安定のエリカ。

「授業を始める」

 先生、だれに宣言しているの?

 生徒はたーっくさん教室にいますよ〜。大丈夫か〜? 周り見えてます? あ、授業始めちゃいましたね。

 

 さっきから、特待生レベルじゃなけりゃ解けないような問題を例題にして説明してますけど〜? 顔が良いけど、教師としてはポンコツだよね。


 意味不明で眠くなりそう……。

 ……。


 はっ! ぼーっとしてる場合じゃなかったわ。

「では、この問いを、エ」

「先生!」

 私が急いで手を挙げると、ホーリー先生は、

「なんだ?」

 すごい不機嫌そうな顔で私を見る。

「先ほどの説明(4)のところが、わかりづらいので、もう一度教えていただきたいです」

 すると、

「私も」

「俺も」

 なんて言う声がぽつぽつ出始める。

 ホーリー先生は不機嫌な表情のまま、

「またきみか。ミランダ・トバス。そもそもきみは質問が多すぎる! 復習が足りないのではないか? 授業終了後すぐの復習をおすすめするね」

 先生への復讐かしら? 考えておきますわ。

 その時だ。

「先生、私も先生の説明では全くわからなかったので、いっそのことグループで教え合う時間を作ったらいかがでしょう? 仲間の意見を聞きたいです」

 エリカがはっきりきっぱり言う。

「全く……? わからない? え?」

 動揺するホーリー先生。

 本当はエリカ、解けるのよね。でも、クラスメートは全く理解できないから、わからなかったふりをしてくれてる。現にエリカったら、私と目が合うと、花が開くように微笑む。あ、今周囲にバラが咲いたかも。見えないけど。マジ天使。すごい可愛い。先生相手にかっこいい。結婚して。

 でもエリカ、怒ってるわ。すっごいわかる〜。

 ホーリー先生は、捨てられた子猫のような目をしてこちらを見た。

 なんでこっちを見るのよ?

 ワタシワルクナイ。


 そろそろ私の脳もオーバードライブよ。もう本気でホーリー先生いらん。


 昼食時にも注意が必要だ。なぜなら、先輩後輩入り乱れる場だから。

「エリカ。今日こそ一緒にランチといこうじゃないか」

 そう言って近づいてきたのは、メガネのイケメン。先輩の生徒会長。

「え〜! 今日は僕とでしょう?」

 横から入ってきたのは後輩の可愛いわんこ系書記。もう家名とかめんどくさいので、会長、書記で良いよね?

「いえ、どちらとも食べません。先約がありますので」

 あっさり言われ、2人は私をギロリと睨む。

 え〜? 冤罪よ?

 その時だ。

 私達の背後から、品の良い、落ち着いた声。

「今日は僕と約束しているので、2人は遠慮してもらえるかな? 少し、プライベートな話があるのでね」

 スラリとした長身の、王子様だ。

 いえ、比喩ではなく。

 この国の第三王子様。本物です。

 もう平民系貴族の私にとっては、見ただけで目が潰れそうな存在の人である。

 2人は情けない顔をして私を見る。知らん。さっきはよくも睨んだわね。

 次回の生徒会選挙、会長はもう引退だろうけど、書記の坊ちゃんには絶対票をいれてあげない!

「さぁ、エリカ嬢……ミランダ嬢も」

 エリカは微笑んで、王子の手にその白く美しい手を預けた。

 少しだけ頬を赤らめて。

 はぁ……お似合いの2人だわ……。



 だけど。

 実はこの2人に、恋愛感情はゼロだった。

 現にエリカは、王子の護衛をしている騎士様と、いちゃらぶご飯中だ。

「は〜目の毒だねぇ」

 王子殿下はニコニコしながら、王族専用ルームのソファで、ベタベタしながらお弁当をあ〜んとやっている2人を見ている。

 くうっ! 羨ましい!

 青春してるじゃない‼︎

 一方で、私と殿下は、殿下のどでかいデスクで、向かい合ってランチだ。

 殿下は豪華な御重。私は普通のお弁当。

 殿下があまりに眩しく目が潰れそうなので、私は少し視線をそらしてサンドイッチにかぶりついている。

 エリカは護衛騎士の彼と幼馴染で、2人は一昨日婚約の儀を済ませ、先程受理されたそうだ。これで、ヒロインの相手が確定した。

 ……モブだ。

 ヒロイン、攻略対象者じゃない人を選んじゃったよ……。

 まぁ、攻略対象者も彼らはちょっと、性格がねぇ……。ゲホゲホ。

 とにかくエリカは本日王子よりその話を聞いて、幸せいっぱい。殿下のイケメン顔なんてどうでも良い。見惚れることさえしないのだ。

 婚約の通知についてだが普通はそれぞれの家に通知がいくものだけど、殿下からのサプライズ、らしい。

 そこは婚約してない私に気をつかえ……るわけないですよねぇ。私、所詮モブだし。身分も低いし。

「いいなぁ……」

 思わず声がこぼれたけれど、

「何か言った?」

 殿下の問いに、

「いえ何も」と答えた。あ〜んが羨ましいなんて言えません。不敬罪ものよ。

 私がこっそりため息をついたところ。

 目の前に、スッと卵焼きが。

 フォークに刺さった、ツヤッツヤの、美味しそうな……。

「あ、あの?」

 私は驚いて殿下を見てしまい、眩しさに、また倒れそうになった。

 こらえたのはすごくない? 誰でもいいから褒めてくれないかなぁ。

「あ〜ん」

 殿下が邪気のない、爽やかな笑顔でそう言った。


 これ、私はどうしたら良いの?





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