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 進んだ先で更に角を曲がり、たぶん、元いた部屋の反対側の通路までやって来た。

 探索を続けながら私なりに考えた結果。



「つまりキミは、付喪神的な存在ってことなのかな?」



 そのような結論に達した。

 勾玉のネックレスが本体で、かつ、もふもふな零体? 的なものもある。私が知り得る知識を総動員したところ、一番近い存在が付喪神ではないかと思ったのだ。



『ツクモ、ガミ?』

「うん、器物に宿る精霊を付喪神って呼ぶの。キミはそういう存在なのかなって」



 私のように大学で民俗学を取っていなくても、大抵の人は漫画や小説、映画などでその名を耳にしたことがあるだろう。


 付喪神とは、長い年月を経た器物に宿る精霊のことだ。


 一般的には人を化かしたり害する妖怪としてのイメージが強いかもしれないが、それは主に創作物の影響であって、本来付喪神は邪悪な存在というわけではない。

 善き精霊もいれば、悪き精霊もいる。どちらもいるというよりかは、付喪神の場合、環境によって在り方が変わると言えばいいだろうか。


 大事に扱われれば善いものに、粗末に扱えば悪きものに、といった具合に。



『ツクモガミ、呼ビ方、知ラナイ。デモ、精霊、ソウ』

「あ、やっぱりそうなんだ」



 私が精霊と認識したところ、子犬改め付喪神は嬉しそうに尻尾を振った。

 この子はどう見ても悪い存在には見えないので、きっといい精霊なのだろう。それに勾玉自体が魔除けやお守り的な装身具であるため、それに宿る精霊となれば実は結構高尚な存在なのかもしれない。



「しかし精霊かぁ……そっかぁ……」



 とりあえず、ここに来てからというもの増えるばかりの疑問を一つでも解決したくて推測してみたのだけれど。


 ――そもそも、付喪神を見て触れるってどういうこと? どういう事態?


 言っておくが、私は極々普通の女子大生であって、霊感など一切持ち合わせていない。幽霊を見たこともなければUFOを見たこともないし、ファンシーなちっこいおっさんを見たこともない。

 おっさんに関してはちょっと見てみたいけれど。


 まさか、先日二十歳になったこともあって実は何かの力に目覚めていたのだろうか。

 そう言えば母方の祖母は神主の家系で、結婚するまでは巫女をしていたらしい。そんなおばあちゃんは、たまに()()()と言っていた。もちろん、何が、とは聞かなかったけれど。


 怖いから。

 変なフラグを立てたくなかったから。


 まさかその血が目覚めてしまったのだろうか。


 鎮まれ、俺の右腕――じゃなくて血よ! 突然付喪神が見えても困ります!

 いや、想像と違ってめっちゃ可愛いけどさ。割と役得感があるけどさ!



「あ、ねえ。付喪神なら何か特別な力はないの? ここから出られる……とまではいかなくても、出口が分かるような」

『キュ〜ン……ココ、力、出ナイ。普段、ボク、凄イ……』

「そ、そうなんだ。何かごめん……」



 幼気な付喪神を凹ませてしまった。

 どうやら小説の読みすぎだったらしい。


 悲壮な感じにヒンヒン鼻を鳴らすので、慌てて話題を変えてみる。



「あ〜、そうそう! 私の名前は言葉っていうんだけど、キミの名前はあるかな? 何て呼んだらいい?」



 子犬や付喪神呼びでは味気ないしね。

 というか、うっかり考えに耽って聞きそびれていた。出会ってからかれこれ一時間以上は経過しているというのに。



『ボク、ヤサカ、呼バレル』

「ヤサカ?」

『ソウ。ヤサカニノマガタマ、ダカラ、ヤサカ』

「そうなんだ。ヤサカニノマガタマかぁ、何だか見た目にそぐわぬ厳つい名前――ん?」



 ヤサカニノマガタマ。

 ――八尺瓊勾玉?


 って、聞いたことあるのですが。


 かの有名な三種の神器と同名なのですが。

 何なら勾玉という共通点まであるのですが。

 ウソでしょ?



「え、神器……?」

『コトハ、神器、知ッテル? ナンデ?』

「? そりゃあ、日本人なら誰でも知ってるよ。習うもの」

『ニホン、ジン? 習ウ???』



 付喪神改めヤサカ様は、こてんと首を傾げた。


 どうやら本当に神器の八尺瓊勾玉だったらしい。

 まあ、神器と言われるくらいの代物だから、付喪神化していてもおかしくはないよなぁ……とか思っちゃう私はファンタジーに毒されている。


 そもそも、八尺瓊勾玉といえば宮中にあるはずなのだけれど、なぜこんな訳の分からない場所にあるのだろうか。そんなことを考えていた時だった。



「ねえ、ヤサカさ、」

『コトハ! 伏セルッ!!』

「えっ、――きゃあああ!?」



 ヤサカ様が吠えるとほぼ同時。

 屋敷全体がグラグラと大きく揺れて、私はその場にしゃがみ込んだ。



「なっ、何なの今の揺れ!? めちゃめちゃ大きかったけど!」

『コトハ、走ル!』

「ど、どこに向かって!?」

『出口、近イ! 真ッ直グ!』

「ええっ!?」

『早ク!』

「は、はいっ!」



 ヤサカ様の勢いに押し切られる形で、私は慌てて駆け出した。

 え、本当に出口が近いの? そもそもヤサカ様、出口とか分からないんじゃなかったの? それに出口を見つけても一人で出るわけには……。


 色々考えながらも一先ず廊下をひた走る。

 未だにヤサカ様が『早ク!早ク!』と急かすので、調べていない部屋は漏れなく総スルーだ。ここまでやって来たからには最後まで一つ一つ確認したかったのだけれど、それどころではないらしい。


 ――というか、走りながらでも分かる。

 まだ地面が揺れている。いや、地震が収まっていないのだ。


 この屋敷は結構年代物のようなので、耐震性に問題があるのかもしれない。だからヤサカ様も慌てているのかも。確かに、こんなところで生き埋めは勘弁だ。

 最悪、私だけでも一旦外に出て助けを呼びに行った方がいいかもしれないと考えつつ走っていると、



『コトハ、前!』

「! あれは……新田くん!?」



 まだまだ距離はあるものの、前方で「おーい! おーい!」と手を振る新田くんを見つけた。

 どうやら新田くんの方も順調に探索が進んでいたらしい。つまり、この辺が中間地点なのだろう。

 こちらも「新田くーん!」と手を振り返しながら駆けて行くと、つられたのか新田くんも駆け出して、あっという間に距離が縮まっていく。



『コトハ、急グ! ヤバイ!』

「ええっ!? 感動? の再会なのに!」



 流石に息が切れてきたこともあって新田くんと合流したら一度止まりたかったのに、そんな余裕すらないらしい。

 とはいえ、ヤサカ様の尻尾がボワっ! と膨らんでいるので、何だか本当にヤバそうだ。


 仕方ない。「倭さーん!」と手を振りながら走って来た新田くんと合流した瞬間、流れるように新田くんの手を掴み問答無用で回れ右。

 不意に現れた――いや、近付くまで見えなかっただけの横道(つうろ)へ突入した。ヤサカ様の指示を信じて。


 新田くんもこちらに気を取られて通路に気付いていなかったらしく、突如女子らしからぬ力強さで引っ張られこともあって「ええっ!!?」と驚きの声を上げている。

 しかし、構っている暇はない。この先が出口だというヤサカ様の言葉は本当なようで、横道(つうろ)の先には玄関らしき磨りガラスの引き戸があった。



「新田くん! あそこから一度外へ出るよ!」

「えっ! あそこ外への出口なの!?」

「そうみたい!」

「で、でも、二人だけで出るわけには……!」

「私もそう思うんだけど! ヤバいから一旦出ろって!」

「誰が!?」

「後で説明する!」



 私は大っぴらにヤサカ様を腕に抱えているのだけれど、新田くんから突っ込まれる様子はない。つまり、視えていないのだろう。

 こんな状況でヤサカ様を紹介したところで、新田くんが益々混乱するだけだ。一先ず外に出れば落ち着けると信じて横道を駆け抜けると、まるで旅館の玄関のような大きな引き戸へ二人で手をかける。



「早く外へ!」

「うん!」



 駆け寄った勢いのまま、それぞれが引き戸を左右へ開け放ち、外への一歩踏み出した。



「――え?」



 瞬間、



「うわあああああああああッ!!?」

「いやあああああああああっ!?」



 私達の体は宙に投げ出された。

 当然あると思っていた地面は何故か遥かとおくで、私達は物凄い速度で風を切って落ちて行く。


 なんで!? どうしてこんな高いところに!?


 パニックになりつつ、必死に周囲へ目を向ける。

 そうして分かった。私達は()()()()()()()のだ。中庭に見えていた、あの巨大な樹の天辺? から。

 どういう理屈かはサッパリ分からないけれど!



「〜〜〜〜〜っ!!」



 打開策を見出そうにも、自力でどうこう出来る域を超えている。スカイダイビングでパラシュートなしに放り出されたようなものだ。どうしようもない。

 縋る思いで新田くんに手を伸ばしてみたものの、新田くんの方が体重があることもあって私より落ちる速度が速い。


 しかも風の影響で徐々に離れていってしまっている。

 その間にもみるみる地面が近づいてくる。


 なす術がなかった。


 もうダメ――今度こそ本当に死ぬ!

 もう他に何も考えられなくて、せめて地面に激突するところは見たくないとヤサカ様をぎゅっと抱き締め、硬く目を瞑った。

 すると、



『コトハ、大丈夫だよ!』

「え?」



 不意に腕の中から聞こえた流暢な言葉に、閉じたばかりの目を開ける。それと同時にふわりと温かな何かに包まれ、浮遊感が消えた。



「――よう。無事か?」



 不意に頭上から降ってきた、低い声。

 力強くも優しいそれにつられて恐る恐る顔を上げたところ、極至近距離に見知らぬ顔があった。


 無造作ながら何処か色気の滲む黒髪と、美しい黄金色の瞳が印象的な男前。

 まるで乙女ゲームのキャラか何かかと錯覚してしまうほど、整った顔立ちの男性だった。


 突如浮遊感が消えたのは、どうやらこの男性が私のことを見事にキャッチしてくれたから、らしい。よくよく見ると私はこの男性に横抱き――つまりお姫様抱っこをされていて、言うまでもなく私は固まった。



「…………」

「ん? 何処か痛むか?」

「いっ、いいえ!」



 呆けたように見つめていたからだろう。

 えらく心配そうに見つめ返されてしまって、私は慌てて首を横に振り答えた。そうしてハッとする。


 ――もしかしなくても、これは死んだのでは?


 きっとそうだ、うん。

 だって文字通り絶体絶命のピンチに、何処からともなく現れた超絶男前に救われるだなんて話が出来過ぎている。そんな奇跡はラノベか少女漫画の中でしか起こらない。


 ああ、無念。

 死ぬならせめて京都を満喫してから死にたかった。いや、欲を言えばこんな若さで死にたくはなかったのだけれど、パリピと組まされたあの日から私の運命は決まっていたに違いない。



「なら良い」

「っ!!」



 不意にフッと優しく微笑まれ、その破壊力の凄まじさに危うく二度目の死を迎えそうになった。もちろん死因はトキメキによる心臓破裂である。

 高所からの落下死よりかはよほどいい。

 まあ、途轍もなくアホっぽい死因だけども……。


 しかし、現実逃避を止めて考えると。痛いほど心臓が高鳴っているということは、それ即ち生きているということでもある。

 この状況が現実? 高いところから命綱もなく落ちて生きていた上に、助けてくれたらしい人が二次元並みの男前である、この状況が?


 …………。


 もう何が何だかサッパリだ。

 つい頭を抱えそうになったところで、



『コトハ〜! 外に連れ出してくれてありがとう!!』

「! ヤサカ様も無事だったんだね、良かった!」



 腕の中からもそもそと這い出たヤサカ様が、喜びを表すかのように私の頬をペロペロと舐めた。

 守るつもりで抱き締めていたのだが、恐怖のあまりぎゅうぎゅうに抱き締めていたのでヤサカ様が圧死していなくて良かった。

 本体が勾玉である付喪神が圧死するのかは謎だけれど。


 二人で互いの無事にキャッキャしていると、男性が私を抱き抱えたままヤサカ様に頭を下げた。



「八尺様、ご無事で何よりです。長きに渡り救出が敵わず、申し訳ありませんでした」

『うんうん、全くね〜。()()も薄情だよ!』



 ヤサカ様が不満気にガウガウと吠える。


 この男前よりヤサカ様の方が偉いのか……一体どういう関係性なんだろう。

 なんて成り行きを見守っていると、男性の肩からひょっこりと顔を出した者がいた。


 その姿を見て、私は思わず息を飲む。



『仕方ないでしょう。我々神器は三つ揃ってこそ真価を発揮するのです。前回の浄化に失敗して貴方が怠樹たいじゅの中に取り残されたままでは、出せる力も出せません』

『それにほら、ちゃんと占っておったでの。こうして再会することも出来たじゃろ? まさかお嬢ちゃんが運び出してくれるとは思わなんだが、儂の占いは当たっておったの』



 左肩に真っ白な蛇が。右肩に真っ黒な亀が現れ、ヤサカ様同様、流暢な日本語で話した。

 蛇の方は涼やかな女性の声で、亀はおじいちゃんのような声なので、決して男性がアテレコしているわけではない。


 というか、十中八九ヤサカ様と同じ付喪神なのだろう。

 今日はもう色んなことがありすぎて、付喪神くらいでは驚かなくなってしまっている。慣れって凄い。


 ――って、あれ? ヤサカ様の言葉はたどたどしかったはずなのだけれど、いつの間にやら普通に話せている。何でだろう?

 ……ダメだ、分からないことが多すぎて。



「そうですね。彼女への礼は都へ戻ったら考えるとして、先ずは――予測より随分と早く目覚めてしまった災厄を浄化しなければ」

『我々の見立てでは、あと百年前後は保つ筈だったのですが……ふむ、この娘らが原因でしょうか?』

「え、」



 不意に話を振られ、白蛇様にじっと見つめられて体が強張る。

 白蛇って神聖なイメージがあるから、何も悪いことなどしていないのに何だか咎められている気分だ。


 いや、自覚がないだけで何かやらかしてしまっているのかもしれない。

 シロと言い切れないだけに居た堪れず、一人おろおろしている私に代わって、ヤサカ様がガウ! と吠えた。



『失礼だなあ、コトハじゃないよ! そもそも僕らを視て話せてる時点でコトハが清廉潔白だって分かってるでしょ! 原因はたぶん、コトハのドーキューセー? ってヤツだよ!』

「え?」

『コトハと合流した後に怠樹へ膨大な穢れが流れ込むのを感じたからね! たぶん怠樹の核に触れたんじゃない?』

『ほうほう。怠樹を目覚めさせるほどの邪気を秘めた者か、恐ろしいのう。一体腹の中にどんな闇を抱えておるのやら』



 訳知り顔の黒亀様が、ふぉっふぉっふぉと朗らかに笑う。


 が、今の話の流れから笑い事ではないであろうことだけは分かる。何せめちゃくちゃ不穏な単語のオンパレードだったからね。

 しかし、お願いだからそろそろ誰か説明して。次から次へと出てくる情報で流石に頭がパンクしそうです。


 そんな時、少し遠くからよく通る二つの声が乱入した。



「伊吹! のんびりしている場合ですか! 怠樹が完全に目覚めますよ!」

「おおーい、倭さーーーん! 無事ぃーーー!?」

「! 新田くん!?」



 男前男性に抱えられたまま、どうにかこうにか後ろを振り返る。すると、青い短髪に忍び装束のような格好の男性に担がれた新田くんが、こちらに向かって大きく手を振っていた。


 どうやら新田くんのことはあの人がキャッチしてくれていたらしい。驚きの連続ですっかり忘れていたが、新田くんも無事で良かった。


 手を振り返したら新田くんがホッとしたように微笑んだ。

 本当に新田くんはパリピにしてはマシな人だ。岬さんや男子Bが酷すぎて、天使に見えるほどに。


 しかし、あの人の格好は一体……?

 もしかしてここは忍者の里か何かなの? 忍者って現代に存在するの? 民俗学を嗜む者としては非常に興味深い存在だけれど。


 何はともあれ、後はこの人達に事情を説明して岬さん達を回収。帰り道を教えてもらって一先ず先生達と合流――といけば良かったのだけれど、そうは問屋が卸さなかった。



『来ます!』

「チッ……!」



 突如、私達の直ぐ横から巨大な根が地面を割って現れた。

 その太さたるや、樹齢が数百年はある木の幹ほどもあって、しかも意思でもあるのかウネウネと蠢いている。



「いっ……!?」



 周囲を見渡せばその根があちこちに姿を現していて、その異様な光景に私は思わず悲鳴を漏らした。

 端的に言って見た目が気持ち悪かったのだ。まるでタコの足のようで。


 つい反射的にヤサカ様をぎゅっと抱き締めてしまい、『ぐえっ』と言わせてしまった。ごめんね、こればっかりは不可抗力だわ。

 そんな中、伊吹と呼ばれた私を抱える男性が次々に指示を飛ばす。



左紺さこん、それを連れて退がれ! 指揮は任せた!」

「はっ!」

朱嶺あけみね、好きなだけ暴れて構わん!」

「よっしゃーッ!!」

紫野しの、援護しろ!」

「御意」



 全く気付いていなかったが、どうやら伊吹さんの背後には多数の人々が控えていたらしい。指示を受けてそれぞれが動き出す。

 左紺と呼ばれた青髪の男性に担がれた新田くんも、瞬く間に後方へ消えて行った。


 どうやら皆さんは、この根っこ――ひいてはその本体である大樹と戦うらしい。

 見上げても天辺が見えないほど巨大なそれが意思を持って敵対してくるとか、しかも倒さなきゃいけないとか、どう考えても無理ゲーじゃない? ほぼラスボス並みの大きさなんですけど。


 現実とは思えない光景を前に唖然としていると、空中で獲物を物色するかのようにウネウネと揺蕩っていた根の一本が、不意にこちらを目掛けて振り下ろされる。



「! 危な、」



 瞬間、その速度と範囲からの回避は不可能だと悟って私は身を固くした。

 しかし、赤い短髪に大きな体躯の男性が、人間離れした跳躍で根へ突っ込んで行く。



「っしゃオラァアアアアーーーッ!!!!」



 かと思うと、その拳一つで根の三分の一ほどを粉砕した。



「ぇええええっ!?」



 鼓膜に痛みを覚えるほどの爆発音が轟き、粉々に砕けた根の欠片が辺りに降り注ぐ。木に痛覚なんてものがあるのか分からないが、根の先端を粉砕された大樹はもがき苦しむように、怒りを表すように他の根を振り回した。


 そんなことなどお構いなしに、赤髪の男性は私達の側へ無事に着地をすると、獲物を前にした肉食獣のごとく爛々と目を輝かせながら、次の獲物へ向かって再び跳躍した。


 それが合図となったのか、男前男性の背後から次々に人々が大樹へ向かって飛び出して行く。その数は数十――いや、百はいるかもしれなかった。

 それぞれが手に武器を携え、蠢く根との交戦を始める。辺り一帯は瞬く間に怒号の飛び交う戦場と化した。



「こ、これ、現実……?」



 思わず乾いた笑いが溢れる。

 やっぱり私は夢を見ているんだろうか。こんな化け物染みたものや戦闘集団など、日本に存在するはずがない。


 だとしたら、一体どこからが夢だったのか。

 戦場を呆然と眺めるしかない私の――私達の上に、再び根が襲いかかる。反射的に身を強ばらせたけれど、今回もそれが私達を打つことはなかった。


 まるで瞬間移動でもしたかのように突如目の前に現れた、紫がかった黒い長髪の男性。書生のような格好をした彼が、僅かに腰を落として構えたかと思うと、上空へ向かって抜刀した。


 ――いや、していた。いつの間にか。



「……無駄だ」



 一体何を、と思った次の瞬間には、中程からスッパリと切れた根が私達の遥か後方へ飛んで行き、落下して轟音と共に土煙を上げた。


 …………。

 もう驚かない。何なら拳の方がインパクト強々つよつよだったし。



『伊吹、いつまでのんびりしているつもりですか。神器が揃ったのです。さっさと片をつけますよ』

「……仕方ありません。彼女を避難させたかったのですが、下手に退がらせるより俺と共に居る方が安全そうだ」

「え」

『それで問題ないじゃろ。八尺もおるし、間違っても落とさんよ』

『へっへー! 任せてよ!』

「ちょっ、」



 待って、勝手に話を進めないで欲しい。

長かったので分けました。

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