王子はやらかす12歳
王子、12歳。
ネーネと王子はすこぶる順調だったのだが、ネーネが学園に入学して2年経つと、少しだけ事情が変わってきた。
「どうしたらいいんだろう、このままではネーネが取られてしまう」
占い師は悲壮感漂う王子を眺めた。
王子はやっと12歳だがネーネはもう16歳。彼女はすでに社交界デビューできる年齢になった。デビューは王子と合わせる為に20歳までお預けなので安心だが、学園内の行事には出席してしまう。彼女はとても美しく成長し、とても人気だ。学園の行事を見学に行くといつも男にチヤホヤされていて、王子は気が狂いそうだった。
ネーネは現在王子の婚約者だが、二人の年齢差を見て婚約がいつかは解消されるだろうと読んでいるものはいくらでもいた。その時のために今のうちに親しくしておこうとしている男は多い。もし婚約破棄されたとしても宰相の娘で、持参金は大半の男がよだれを垂らすほど多い。
王子はひどく不安だった。自分は誰がどう見ても子供なのだ。何か対処しておきたいが何も思いつかない。
「ネーネが遠い。なんで私は4歳も年下なんだろう。……私が前世で何をしたって言うんだ」
王子は頭を抱え込んで落ち込んでいる。占い師は気軽に慰めた。
「まあまあ、そんなに落ち込まないで。未来の予定には寝取られは入ってないから安心してください」
「寝取られとはなんだ」
「その知識は王子にはまだ早いです」
「占い師、何かいい方法はないのか?」
王子は必殺の子供目線で占い師を見上げる。これをするとおねだりが成功することが多いのだ。
「どういう結果をお望みかによりますね」
「ネーネに男が寄ってこないようにするんだ。みんなに絶対私と結婚するんだと知らしめたい」
願いを口にし、じっと占い師を見る。想いの強さが伝わるように。
占い師はうーんと迷って、王子をチラチラみて、また悩んだ。
王子は今が推しどきと見て、「頼む」と懇願すると、占い師が諦めて息を吐いた。
「王子、精通は来ておりますか?」
「精通とは何だ?」
知らない単語の出現に王子は眉を寄せた。ノートを開いてその単語を書き写す。
「王子の棒からおしっこ以外の白いネバネバしたのが出ることです」
棒と聞いてすぐにどこかわかった。確かにあれはたまに棒みたいになる。朝とか。でも白いもの?
「そんなものは出たことないぞ、病気か?」
「大人になったら出るんです」
王子はビックリして自分のズボンをずらして股間を眺めた。一体どこにそんな機能があるというのか。
占い師は一人で納得した。
「ふむ、じゃあ妊娠する心配はないって事ですね、それじゃあ私が悪い方法を教えてあげましょう」
占い師は王子の耳に手を添え、小さな声で説明しだした。
そして王子は、この城の中で誰に相談しても出てこないであろう稀有なアドバイスを受けたのだった。
そして王子は素直にそれを実行した。
12歳にしてネーネの純潔を散らし、18禁の仲間入りをしたのだ。
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王子は騒動の一週間後に占い師の前に現れた。
「父上や宰相にしこたま怒られて、一週間反省させられた」
占い師は笑った。
「それで済んでよかったですね。いかがでした?」
「なんだかすごかった。でもネーネは痛そうで、かわいそうなことをした……血も出てたし」
「女が痛いのはだいたい最初の時だけですから、気にしすぎないことですよ」
「またしたいけど、お前のようなやつとは結婚するまでは二人っきりにはさせられないと父上に言われてしまった」
図書館で孤独に過ごす占い師の耳にも入るくらいの騒動を起こしたにも関わらず、王子はまだまだ子供らしい様子でしょんぼりした。
「成功するためには苦難が付き物です。しかしこれで他の男が婚約者様に付き纏うことは減るでしょう。ただし、貴方が執着している限りですが」
「父上にも言われた。ネーネが純潔で無くなってしまったから、結婚するしかないって言われて嬉しかった。でも、もしも私が彼女と一緒にいたく無くなったら、彼女はふしだらで、軽く扱っていい女性ということになるらしい……」
「貴方は彼女をそんな目に合わせないでしょう?」占い師の声は信頼している音色があった。
王子は強く肯定した。
「当たり前だ! 私はネーネ以外の女などいらない! 今はますますそうだ。私のあそこを入れたいのはネーネだけなんだ」
あまりに露骨な宣言だったが、占い師は面白いので放っておいた。いずれ王妃が聞いて大目玉を食らわすだろう。
そして王子に大事な忠告をしておく。
「これから貴方たちには見張りがつくようですし、したくなってもできませんから、そうなったら自分で処理して過ごしてくださいね。くれぐれも乳母やメイド、女性使用人に手を出したりしてはいけませんよ。婚約者様にバレたら嫌われてしまいますからね。恋は一途でいてくださいよ、絶対に」
「絶対だ。で、自分で処理するってどうするんだ」
ということで王子は以降、全くネーネと二人きりになれなくなった。人が見ているから、これまでしていた口に触れるキスもできないが我慢だ。
悶々とした日々が続き、夜はネーネを思い出しながら手で慰めた。まだ白いのは出なかったが。
そしてある日思った。
別にキスくらい、人に見られても構わないではないか。
二人きりになれなくなってから半年が経っていたある日、王妃のいる場所で王子はネーネにキスをした。見ていた王妃は驚愕して止めるように声をかけたが、王子には全く届かなかった。
あまりに久しぶりの触れ合いに、ネーネの柔らかい唇に、王子は脳が焼き切れそうに感じた。触れている唇が心地よく、何度もその柔らかさを味わい、熱中した。
唇の内側の柔らかいところに触れたくて舌を伸ばすと、ネーネの口が開き、気づいたら口内でネーネの舌の上を探検していた。
初めてのディープキスだった。
その探検を頭が真っ白になったまま続けていたが、ついに体が引き離された。普段上品で力仕事などしない王妃がメイドと一緒になって王子を引き離したのだ。
「こんなところで何ということをするんです!」
王妃の怒声が聞こえたが、王子は頭がぼーっとしていてよくわからなかった。王子の視界には、顔を真っ赤に染めて目を潤ませ、ぼんやりとしたネーネの顔しか映らなかった。唇は赤く腫れ、唾液でつややかに濡れている。
すぐにもう一度キスしたい。頭の中にはそれしかなかったがどんなにもがいても体は動かなかった。必死のメイド二人によって羽交締めにされていたからだ。
「王子よ……」
王子の前で国王が頭を抱えて唸る。キスをしたその後、王妃に呼ばれた兵士によって国王の間に強制連行されていた。国王の隣にはネーネの父親である宰相も並んでいる。
王子はブスくれていた。
「うちの息子がすまんな宰相」
「まあ、王子も男の子ですからな……」
宰相は同情的だった。この王子が何年も前から熱心に娘のことを思って努力しているのは知っている。自分にとっても息子と変わりない存在で、思春期の衝動も理解できた。あれほど美しい娘がそばにいれば仕方のないことかもしれない。
「しかし、こやつ色気付くのが早すぎんか? 12歳だぞ? ワシらもこんなだったか?」
昔から理性的な国王にはあまり理解できない感覚だった。そして王子は父親よりも母親似だった。
「まあ、実際やるかどうかは別としても、頭の中は似たようなものだったんでは?」
なぜか宰相がフォローする。
二人の内輪のやりとりに、欲求不満だった王子はイライラした。絶対もう一回キスしたかったのに。何でこんなところで怒られなければいけないのか。
「ネーネは私の婚約者です。キスくらいします」
王子が言い放つと、国王がカッとした。
「人前でするなら、もっと大人しいものにしろ! 母親の前では涎が垂れるほど濃厚なものはダメだ!」
その一言には王子も流石に頬を染めた。
反省して謝る。
「久しぶりの触れ合いだったので、訳がわからなくなりました。何だか頭が働かなくて。母上を驚かせたことには謝ります」
怒鳴ったことを恥じて国王も気まずくなった。
「……うむまあ、下半身に血が溜まると、頭が働かんからな。仕方ない……」
親子でするには気まずい話題なだけに、どうにも会話が盛り上がらない。何とも言えない空気が漂っているだけの不毛な時間が続いた。
「……もう行っていいですか」
父は頷いて、行けと手を振ってから付け足した。
「アルクス、次からは口づけしたい時は周りのものに一言かけなさい。顔を逸らすように言っておくから」
「……わかりました」
王子は恭しく頭を下げてから部屋を辞したが、廊下に出るとガッツポーズした。ネーネにまたキスが出来る。このまま部屋までスキップして帰りたいくらいだった。