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30分で小説を書く  作者: 雪宮紫月
4/4

黄色の甘味と初老の男性

四日目


黄色の甘味と初老の男性


19:21→19:50まで


ぷりん。牛乳、卵、砂糖という少ない材料でも完成する甘味。黄色で柔らかな見た目と口に入れた瞬間広がる優しい甘さと舌触り。筆者である私はぷりんが大好きだ。

本日の昼食はファミリーレストランで頂いてきたが、その際、食事を終えて伝票を手に取り顔を上げると通路向かいの席、綺麗な白髪をこさえた初老の男性が座って居るではないか。何処楽しそうに待っている様子が気になり私は上げた腰を据えていた。

程なくして男性の元にイマドキな猫の顔をした店員がゆっくりとぷりんの乗ったパフェを持ってくるではないか。

ぷりん好きの私からすればぷりんという甘味をホイップクリームやチョコソースで飾り付けたそれはとても美しく映った。私は卓上のタブレットに手を伸ばしデザートまで急いで向かった。チョコソースのかかったプリンパフェをひとつ注文し、タブレットを静かに戻した。

ぷりんが来るまでの間、私は初老の男性を観察していた。

まずはホイップクリーム、小さめの匙ですくい上げ口へと運ぶ。口と目を閉じて顔を上げる。

ぷりんをすくい上げ口へと運ぶ。また口と目を閉じ顔を上げる。その表情、その仕草、その全てで美味しさを伝えようとしているようだった。だが、時間が昼より少し早かったこともあり店内には私と男性を除いて二人組のサラリーマンが早めの昼食を取っているだけだった。

男性のパフェが三割ほど無くなったところで私の分も運ばれてきた。白い山と黄色の大地に茶黒の地割れが走りひとつの国を体現していた。

山の先端を削ることに特別な力は必要なくあっさりと標高が一センチほど下がってしまった。

口に入れると山は静かに溶けてなくなり脳に甘さの余韻を響かせた。

珈琲を啜り、口内を落ち着かせる。黄色の大地に銀色の制裁が加えられ瞬く間に地は抉れてしまった。

その様子を見ながら軽く咀嚼すると再び脳に甘い幸せが流れていく。喉をするりとすり抜けあまりにも早い幸せが終わった。

気がつけば初老の男性は会計を済ませ外の喫煙所で一服しており、私の前にあったはずの甘味の王国は残り二口三口程となっている。

周りに人が居ないことを確認し、私は残りを一回ですくい上げると大きく口を開きそのまま食べてしまった。

最後の一口はとても甘く切ない味がした。

私は甘味を楽しんだ後は少しの間だけ一切動かずにただ静かに時の流れを楽しむようにしている。時刻は昼。入店音が何度も鳴り、店員は忙しなく動き回っている。入ってくる客もどこか急いでいるようだ。私はこの時、この空間で唯一時間に追われる事なく静かに時の流れを楽しんでいたと言っても過言ではない。

店の席がかなり埋まってきた様子を見て私は二枚に増えた伝票を手に取りレジへと向かう。

静かに優雅に……だが、人の目が気になってしまい途中から少し歩みが早くなった。

レジで会計を済ませ外へと出ると一服終えたようで初老の男性と目が合った。私が横を抜ける時、男性は小さく嗄れた、だが確かに生気の籠った声で

「美味かったか?」

と聞いてきた。

「貴方のおかげで良い時間でした」

と私は答え、去っていった。

男性の顔が気になったが振り返って見る程のことでは無い。今日寝て明日起きたらその男性のことも忘れてしまい思い出すこともないような一瞬の話なのだから。それなそのまま歩いてしまおう。まだ、時間が続いているのだから。

私は薄曇りの空の元、行先も考えずに足を進めた。

このシリーズは雪宮が小説を書きまくりたいという考えから生まれたものです。

イラストを30秒で描くドローイングを元に行っています。

次回はまた突然始まり突然終わらせてもらいます。(予定)

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