合宿の8月 その1
「合宿参加の新参者は精々、良い所いって30レベルそこそこだろ?」
「まず、20レベル以下は30人以上、21レベル以上は十数人程度、40レベル手前は僅か数名……」
「何だ?50人前後って所かぁ……」
「あくまでアキバの許容範囲内だからな。これでも多いほうだと言えるだろう」
「かーっ!!! 教えがいがあるねぇ。久々に教鞭ふるうかね」
〈記憶の地平線〉、〈三日月同盟〉、そして五大戦闘ギルドの中から、一人か二人が選抜される夏季訓練合宿。その合宿に〈ホネスティ〉の副官である俺、シゲルが選抜されることになった。
どうして俺だけが選抜されたのかと言うと、〈ホネスティ〉にも色々と事情があるのだ……と言うのも、大した理由ではない。要は他の奴らは野暮用があるって訳さ。
菜穂美はサロンの方が忙しくて無理と言うし、TOSHIとはるはるは〈妖精の輪〉の調査で忙しい。葉桜も調理師としては上々だが、戦闘の指導に関してはあまり上手ではないし、十条は仲間二人とクエストに行ってて居ない。
ロマノフやフェラクはアインスがアキバに残ると決めたら断固として動かないし、クールジェットと吉介に至ってはボイコットしやがった。部長とセーシリアも〈モンスター調査隊〉の件で忙しそうだし、若者から毛嫌いされているシモンなんかでは確実に務まらない。
結局、俺一人だけが選抜される事となったのだ。残念ながら他に頼れるメンバーも居ないし、仕方がない事なのだが。夜櫻や早苗、ゲルダやロビンがいればこんな事にならなくて済んだ筈なんだが、居ない人間の話をしても仕方が無い。兎に角、〈ホネスティ〉の中で指導役に相応しい人間は俺しかいないのだ。
「アンタ大学教授だったな、羨ましいぜ。俺なんて教導隊長ってだけで決めさせられたんだからさ……」
昨日のわんこ……〈猫人族〉の〈武士〉であり〈黒剣騎士団〉の教導部隊の隊長を務めている男だ。アイザックから新人教育から打ってつけだと判断されたのであろう。
「ったく、俺も良い迷惑だぜ。アイザック隊長ったら『ウチの教導隊長はお前しかいないからお前が行け!』なんて言うもんだから……何で俺ばっかり新人なんかの教育をしなきゃいけないんだよ……」
「そう言うなって、お前の指導は中々だって聞いたぞ?」
「そうだけどさ……今回の引率組に比べたら俺なんてショボいもんさ。直継殿に、にゃん太殿……それに黒剣からはレザリックの旦那が来たもんだ」
直継とにゃん太は元〈茶会〉メンバーだ。とても頼りになる。安定性と防御力を兼ねた名盾役の直継と、並外れた機敏性と素早い攻撃を繰り出すにゃん太は〈冒険者〉の中ではトップレベルの強さを持つ。
そして、レザリックは縁の下の力持ちだ。〈黒剣〉のサブマス、ドン・マスティよりも断然頼りになるだろう。奴は、前衛にも後衛にも付ける万能型で、オマケに指導能力も高い。この三人はまず戦力になるだろう。
中規模互助系ギルドの〈キール〉からは、〈エルフ〉の女子大生〈森呪遣い〉ルキセアと、〈猫人族〉の〈妖術師〉ロナールが参加している。二人共、後衛職だが頼りになれる存在だ。
「ところでよ。ありゃあ…新人じゃなくて引率のほう…なんだよな?」
俺は〈施療神官〉の女性と〈武闘家〉の少女のステータス画面を見る。レベルは90か。
〈施療神官〉の女性、マリエールは回復職だし、引率組にとってのムードメーカー的存在だし必要枠だ。まだ良い。問題はさっきからマリエールと騒いでるあの小娘だ。
「何か、他のメンツと比べて………いまいち頼りねぇんだよなぁ…」
「確かカワラと言ったな。〈西風〉に所属している子だろう?レベルも90あるし、大丈夫ではないのか?」
「いやまぁ、それは分かってんだけどさぁ……」
「シゲル殿は心配し過ぎだ」
〈西風の旅団〉に、ソウジロウ……嫌な記憶しかない。ゲーム時代では何度か会った事があるが、
俺が〈ホネスティ〉に所属してからはあまり顔を合わせていないし、正直に言って苦手な部類だ。
幸い、俺が一番苦手とする毒舌お嬢の沙姫ヒメはログインしていなかったのか、現状この世界にはいないらしいものの、〈西風〉には厄介な連中が山ほど居る。
(正直、関わりたくねぇが……この引率組に選抜される程だ。きっと実力者に違いねぇ)
◆
「おうっ、アインス。滞りなく現地到着だ」
『はい、ああ、シゲルくん』
「今日は設営やらで潰れるな。本腰を入れるのは明日からだろう」
『そうですか、新人の〈冒険者〉さん達と仲良く出来ると良いですねぇ』
「んじゃ、何かあったらまた連絡入れる」
『分かりました。此方からも何かあったら連絡を入れておきます』
―― ピッ
「さってと……」
念話を切ると、俺は早速、一番気になる〈冒険者〉に話しかけてみた。
「よぉ、〈西風〉の」
「ちわっす、カワラだよ!」
「おぅ俺は<ホネスティ>のシゲルってんだ。俺ぁリアルじゃ大学教授でなぁ、普段から人に物教えてんのに慣れてっからまわされたんだが――――お前は?」
「ん――――っとねぇ―――……修行!!」
―――………………は?
「……あ、あれか?学校の部活でキャプテンとかやってるとか?」
「?んーん、やってない。そもそも私、帰宅部だし!」
「……あっ、〈エルダーテイル〉でパーティーの指揮を担当してんだな?俺も指揮官やってんだよ」
「全然」
「じゃあ、得意分野は何だ?」
「そうだなぁ、前衛特攻と肉弾戦!」
「じゃあなんでお前が引率なんだよっ!!つーか、どうゆう人選!?」
「んなっ!?失礼だなぁ!」
失礼なのはお前の頭の中身だ。
「カワラちゃんは〈クレッセントムーン〉を手伝って貰って以来、ウチと親しいんよ。〈西風〉はあまり大きくないギルドやろ?人選が少ないんよぉ~。それに、ギルドの女の子達みんなギルマスのソウジロウくんから離れとうないって娘が多くて……ちゅーわけでソウジ君に頼まれてカワラちゃんが……」
「そう言う事ーっ!」
「じゃあ、ウチラは〈チョウシの街〉行くからー!」
「そじゃね!シゲルさーん!」
「おうおう、とっとと言って来い」
幻滅した。まさかこれ程までだとは……。同じ盾職だから結構まともな奴かもしれないと思っていたが……。
勿論、これは予想通りだったがやはりお気楽娘でしかなかった。
「何だ何だぁ、浮かれない顔なんてしちゃってよ?」
「……直継か」
「元気出せよ、合宿は始まった祭りなんだぜ?」
「なぁ、彼奴大丈夫なのか?どう考えても物を教える立場じゃねぇだろ?」
「アンタも理屈っぽい所、変わんねぇなぁ?」
「優柔不断な性格なんだよ、しょうがねぇだろ。それに俺は、ああ言う能天気な性格の奴が苦手なんだよ……。んで、どうなんだよこの人選」
「そうだなぁ。昨日のわんこは教導隊長だし、参謀長としての役割も持っているレザも班長も年長者として十分事足りているし、〈キール〉は若者の戦闘系ギルドで、初心者持って来いのギルドだから大丈夫だろう。何より、一番この合宿に適しているアンタもいるしな!」
「……マリエールは?」
「あの人はムードメーカー担当」
「んなもん知っとるわっ!」
マリエール、〈大災害〉前でも何度か交流が会ったが、余りのハイテンションぶりに苦手になっちまったが、決して悪い奴ではないと思う。悪い奴では……。
直継から渡された冷たいお茶を飲むと俺はある程度は落ち着きを取り戻した。
「……ったく、大丈夫なのか?今回の合宿」
「大丈夫大丈夫祭り! カワラの事は良く知らねぇけどよ、〈西風の旅団〉に籍置いてレベル90までやり込んでいる強者だ。なんも問題ねぇさ」
「だと良いがな……」
「―――それに、必要だと思うぜ。ああいう目線の『先輩』はさ」
「『先輩』ねぇ……」
――― 俺達よりも年下の癖して……
――― 何であんな奴が教授なんかやってんだよ
――― 偉そうにっ
――― ガキが出しゃばるんじゃねぇよ
「ん?どうかしたか?」
「……いや、昔の事を思い出した」
「ボーっとしてねぇ、これチャッチャと運んでくれよ?」
そう言うと、直継は木材を俺に手渡した。
「おっと」
「この中じゃアンタが一番の年長者だからな、お互いに引っ張って行こうぜ!」
直継、こいつもゲーム時代からの知り合いだが、あの頃はシロエの様にあまり仲は良くなかった。多分、口論が多い印象の方が残っている。今現在ではそれほど仲が悪くはないが……。そもそも、此奴には結構謎が多い。あんまり過去を騙る事が無いし、はぐらかされる事が多い。シロエ曰く「直継は過去を語りたがらない」らしいのだが……。
「あ、あの…シゲルさんって言いましたよね……?」
俺が直継を見送っている間に、いつの間にか〈狼牙族〉の少年が背後に立っていた。確か、小竜と言ったか。〈三日月同盟〉に所属している〈冒険者〉だ。
「あぁ、確か〈三日月同盟〉の……」
「この前の地図、ありがとうございました!」
地図? そう言えば、此奴……どっかで見た事がある様な……。
「貴方が渡してくれた、〈カエルムの薔薇〉が生息しているヤツガタケ山頂までの地図を提供してくれたお陰で、マリエさんの命が救われました!本当に感謝しています!」
あぁ、思い出した。確か……マリエールが昏睡状態に陥ったとか何とかで騒ぎになったあの事件……あの時、ウチの〈ホネスティ〉のギルドホールに駆け込んできた少年だった。
「いやいや、俺は当然の事をしたまでだよ」
「でも、そのお陰でマリエさんは助かったんだし……それにホラ、この地図とても分かり易くてシロエさんも直ぐに〈カエルムの薔薇〉を見つけることが出来たって言ってました!」
細密に書かれた地図は山の麓から山頂まで、隅々と細かく描かれている。まぁ、俺がゲーム時代に行った場所ばかりなんだけどな。改めてみると、自分でも此処まで綺麗に描けるとは思いもしなかった。やっぱりサブ職業はスゲェーな。
「これって、シゲルさんが描いた物なんですよね?」
「……ま、まぁ…な」
「凄いです!こんなに綺麗で隅々まで描かれるなんて!」
「確かに、ウチではこんなに細かい所まで描ける奴は殆どいないからな」
まさか、地図如きでそこまで言われると嬉しくなる。
「いやいや、流石は〈ホネスティ〉は情報蓄積に特化したギルド。凄いですよ!」
「……昔の話だよ」
俺は、俺達は其処まで凄い人間じゃない。並外れた頭脳明晰な連中ばかりが集まるただの石頭集団なだけだっつーの。
これが互助系だったならば、どれだけ肩身が軽かったのか……。どっかの誰かの思い違いによって、俺達は戦闘系ギルドとして成り上がってしまったのも事実なのだから……。
「さてと、訓練合宿が始まったら俺も張り切って教鞭を振るわないとな!」




