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Testament of king   作者: ふくろう
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第二話『友人からの王命と出で立ち』

今回は長めです。

出来れば毎回これくらいの文章量を継続していきたいです。

「長過ぎる」などの意見があれば感想欄にてよろしくお願いします。

その日、夕日が沈みかけ空が濃いオレンジ色に染まった頃、ハフィリエルト・ラート・ルトラスは騎士としての仕事を終え、騎士団から貸し出されている寮の机の上で今日の早朝に伝書鳩によって届けられた国王陛下からの手紙の封を開けていた。


ルトラスは国の中でも数少ない国王陛下とプライベートで接することのできる友人のような関係だ。


国王陛下は公務の時には魔術。そしてプライベートの時には今回のように伝書鳩を使う。


国王陛下はしっかりと現実を見据える方だが、それと同様にとてもロマンを尊重している。だから最近はあまり使われなくなった伝書鳩を使っているらしい。今は亡き、王妃にもそれはそれは本に示されるほどにロマンチックなプロポーズを行ったらしい。


ルトラスはそんなことを思い、頬を緩めながら近くに置いてあったナイフで封を開ける。砥石でしっかりと砥がれたナイフは封筒の端を撫でるだけでするりと落ちていく。


ルトラスは封筒の口を歪め、中から便箋を取り出す。そしてその便箋を開くと同時にルトラスを大きく目を見開いた。


”親愛なる我友、ルトラスへ


久しいな。一ヶ月ぶりくらいか?最近は仕事が机の上に積まれていて会えなかったんだ。全く困ったものだ。


さぁ、ここからが本題だ。ここから先は信用できる友人だからこそ頼めることだ。


私はきっと今日の夕暮れに殺されるだろう。きっとではないな。私の勘がそういっている。


きっと私の愛娘“ティラーン”も殺されてしまうだろう。だからルトラスはティラーンを国外へ逃げてほしい。できればラリカルトという地に行って欲しい。その土地には私の友がたくさんいるものだ。まぁ、世界最北端の地で海を一回超えなければいけないのだがな。なんなら海を渡り終えれば山もある。きっと大変だろう。君にこのことを押し付けてしまうのは心が痛む。


それでもルトラス。君に頼みたい。


なぁに、安心しろ。船は時間がなくて用意することはできなかったが、港までは歩きではなく馬車で行けるように用意してある。


荷物も積んであるぞ。王城の離宮の食糧庫に馬車は置いてある。ティラーンも離宮にいる。


それから朗報だ。仲間も用意しておいた。


二人は現役を退役したものだが、現役には見劣りしない連中だ。もう一人はバリバリの現役だ。なお、名前をここで書いてしまうのは面白くないから、待ち合わせ場所だけ記しておく。


場所は『ソーエダファ山』の麓にある小屋だ。ちょっと遠いが、ウォーミングアップだと思って頑張ってくれ。


こういうことになってしまって本当に申し訳ない。それと絶対に俺のところには来ないでくれ。これとティラーンの護衛は私が発する最期の王命だ。


ルトラスが来てしまってはティラーンを守り抜くことができないからな。


では頼んだ。


我、騎士ルトラスの友、そしてティラーンの父、クァーレントより“


この手紙を読み始めた時、ルトラスは腰を浮かしていた。砥石で研ぎ終わりベッドに立てかけていたロングソードを手に取って。


しかし、手紙の後半をドアノブを捻りながら読み、進んでいた足が止まった。


悔しさに歯を強み噛みしめながらも考える。騎士にとって王命とは名誉なことであり、必ず遂行しなければいけない任務だ。優先度は最優先。


そして身分は違えど友の頼みだ。ティラーン殿下とはお会いしたことはないが話には聞いている。とても素直な方だとか。


ルトラスは深呼吸をし、ロングソードを下ろし、荷物をまとめ始める。きっとここにはもう戻ってこないだろう。


必要なもの。あるとすればロングソードとお金と防具と……師匠に作ってもらったナイフをロングソードをさしている逆側にさす。


手紙を丁寧に折りたたみ、懐に入れる。


お金を腰についている小さいバッグにいれ、結局何も入ることのなかったバッグは今後のためにと持っていく。


扉を内側から釘を打ち、入られても困ることはないが、気分的に開かないようにしておく。


これに気づいた騎士の明日の顔を今のこの気分を紛らわせるためにも、楽しみにしながら、窓から飛び降りる。部屋が二階にあるとは言っても高さがあることには変わりがないので、しっかりと受け身をとり、衝撃を分散させる。それでも多少が痛くはあるのだが。


ルトラスは周りを見て、できるだけ人の少ない道を選びながら、王城の離宮を目指す。


途中の騎士団の基地で、愛馬のヴィラールに乗り、さらに急ぐ。


「なっ」


近道をするために路地裏を何本も通り、大通りに着くと、そこには大きく燃え盛る王城があった。


ルトラスは大きく目を見開き、次第に手綱を握る手の力が強くなり、プルプルと震えてくる。


王城に向かわせそうになるヴィラールを国王からの手紙を思い出し、今にも王城に向かいたくなる荒ぶる感情を必死に堪え、離宮に向かわせる。


ヴィラールを走らせ、走らせ、ようやく離宮の門が見えてくる。


そこには地獄のような光景が広がっていた。ティラーン王女の近衛騎士と反乱軍であろう者たちが戦っていた。


俺は腰に下げていたロングソードを抜き、いつでも攻撃に耐えられるようにしながらその群衆に突っ込む。近衛騎士はほぼ全てが血に塗れ、殺されており、騎士と騎士の戦いより、狼と獲物のような戦いになっていた。


ルトラスは生きている近衛騎士に心の中で謝りつつも、前へと突き進む。綺麗だったであろう庭園を抜け、奥にある食糧庫へと走る。


食糧庫の重い扉を開けると、見た目は普通だが、車軸などが他の馬車とは明らかに違うものがあった。繋いである馬もクァーレント陛下の愛馬でさすが国王とでもいうべきだろうか。しかし、ティラーン王女の姿は見つからない。


俺は焦る気持ちを押さえつけ、とりあえずヴィラールの手綱を馬車の御者台の前に括り付けてから、ティラーン王女を探しに行こうとする。


ガシャンッ


大きく金属が床に落ちる音が食糧庫の中に響き渡り、思わずルトラスは顔をしかめる。


今さっき、鞘に収めたロングソードを抜き、中段の構えで大きな音をした方へと興奮して上がった息を、鎮めながら近く。


食糧庫の端の方に人影が見え、反逆軍の伏兵なのではと身構える。


しかしそこにはガクガクと震えながらも包丁を手に取り、必死に抵抗の姿勢を見せるメイド姿のまだ十五にも満たなそうな女性とを女性の後ろで必死精霊術の準備をしようとしている今度は十五かそれくらいの年齢らしき女性がいた。


「来ないで下さい。来たら刺しますからねっ!」


メイドの服を着るメイドであろう女性は必死に声を張り、ルトラスに向かって威嚇をしてくる。体はガクガクと震えきっているが覚悟は決まっているらしく目が座っている。


「……精霊術……もしかして後ろにいるのはティラーン王女か?」


ルトラスは後ろにいる少女をもう一度確認し、メイドにそう尋ねる。するとメイドは、目を一層見開いた。


「そうだったらどうするんですか?あなたは王女を殺すんですかっ?」


「違う。俺はルトラス。クァーレント殿下に頼まれてティラーン王女を護衛しにきた」


ルトラスは奥にいる少女がティラーン王女だと確認できた時点でホッと息をつき、ロングソードを収めた。


しかし、ティラーン王女のメイドから見ればルトラスは明らかに怪しさの漂う人間であり、そう易々とルトラスのことを信じれくれるはずもない。メイドはさらにルトラスに対する警戒心を高めてしまった。


ルトラスは何とか信じてもらおうと色々な話をして説得を試みる。が、逆に警戒心を高めてしまうだけだった。


「だから俺はクァーレント陛下に頼まれたと、何度も言っているだろう」


「馬鹿なことを言わないで下さいっ!あなたたちはいっつも寄って集ってティラーン王女様のことをいじめて、楽しいですか⁉︎王女様は確かに珍しい精霊使いです。だからって虐める必要はないでしょう?民の心を想って、自分のことなど二の次三の次、ひどい時は四の次なんですよ⁉︎あなたたちもそんな王女様のことを見習って行動しっ」


メイドの言葉は途中で終わった。途中で終わらせたという方が正しいかもしれない。ルトラスがメイドの口を手で封じたのだ。


包丁が腹に触れ、少し血が出てしまっているが気にしない。これくらい怪我ら訓練中にもしたことがある。だが、どうやらメイドは人を傷つけたことがなかったらしく、顔を真っ青に染めて、ガチガチと歯を鳴らしていたが……。


まぁ、そんなことは気にしていられない。食糧庫の外から人の声が聞こえてきたのだ。それがティラーン王女の近衛騎士であれば万々歳だったのだが、現実そう上手くいくはずもなく、会話の内容がどう考えても反逆軍の会話内容だった。


俺は間に合わなかったことへの悔しさから唇を噛むが、瞬時に思考を切り替え、ここからどうティラーン王女とまぁ、王命には書かれていなかったが連れて行った方がこの先色々と役に立ちそうなメイドを連れて逃げるかを考える。


食糧庫の扉は開いている。きっと時間の経たない内に食糧庫に侵入してくることだろう。そうなれば終わり。王命であり遺言である友人からの頼みを遂行できないことになってしまう。


ルトラスはとりあえず二人を馬車の後ろから投げ込むようにして乗せ、近くに落ちている、もしくは置いてある重そうで小さいものも馬車に投げ入れる。


フライパン、寸胴、鍋の蓋、たらい、料理をあまりしないルトラスには理解できないほど長い包丁、パン切り包丁など。


少しばかり軽いものもあったができるだけ金属製のものを選んで、馬車の中に投げ入れた。もちろん既になかにいる二人には当たらないようにして。


馬車の御者台に乗り込むついでに近くにあった酒の入った箱も投げ入れる。


手綱を握り、ヴィラールとクァーレント陛下の愛馬クァーベットを走らせる。


普通の馬なら鈍く動くであろう馬車は王国内でも有数の名馬によりスムーズに素早く動き始めた。


食糧庫を抜け、大きな裏庭を馬車で駆ける。しかし流石は離宮の大きな裏庭、すぐに反逆軍に見つかり追いかけられる。そして、最後にのせた重いものたちによって速度はあまり上がらず反逆軍に差を縮められる。


ルトラスは裏庭を抜け、林に入る。ここからがルトラスの正念場だった。


「メイドさんっ。そのうち反逆軍の騎士たちに追いつかれますっ。とりあえずフライパンやら何やら重そうなものを相手に向かって投げてくださいっ!箱のなかに入ってるのは投げないで下さいっ。酒も投げちゃっていいです。何なら火を付けちゃってください」


ルトラスはメイドに指示を出す。これが食糧庫を出る寸前にいろんな重そうなものを載せた意味である。


メイドは真っ青な顔をしつつも、今のこの状況を理解したようで、ガチガチに固まった腰を上げて近くにあったものを拾い始めた。だが、いろいろな恐怖によって固まった体はそう易々と解れるものではなく、何度も物を落としていた。


ルトラスはその状況を見て、顔をしかめ、一気に御者台を離れた。二頭の馬はもちろんルトラスの操作から離れてしまうが、流石はヴィラールとクァーべットである。二頭は操作を離れても迷うことなく足並み、速度を揃えて林の中を疾走する。


メイドを抱え、無理やり御者台に乗せ手綱を握らせる。


「ひっ」


驚いてはいるが今は気にすることはできない。ルトラスは再び馬車の後ろに走り、近くにあった寸胴を両手を使って、ついてきている騎馬隊に投げた。


もちろん騎士に対する直接的なダメージはほぼない。しかし、寸胴が馬にあたり落馬したり、足を引っ掛け馬がこけたり、間接的には寸胴ひとつで騎馬隊に大きな爪痕をつけた。


ルトラスはその後もフライパンやらたらいやらをどんどん投げる。


反逆軍の騎馬隊もルトラスに負けず、弓を携える者はどんどん矢を射ってくる。馬車の後方の床、壁、雨除けの布製の屋根に刺さる、もしくは貫通していく。ルトラスは不安になり、ティラーン王女の方に振り返るが、そこには祈りを捧げるティラーン王女がいた。怪我はしていないようだ。


ルトラスはそろそろ林が抜けると踏んで、近くにあったたくさんの酒瓶と松明を投げた。


地面に叩きつけられることで割れた瓶から酒精の高い酒が飛び散り、松明の火が目を見開くほどの速度で広がっていく。


馬は急な足元の熱さに驚き、いきなり前足を大きく上げて、いななきを上げたり、熱さのあまりにこけ、燃えていってしまう馬もいる。もちろんその馬の上に乗っていた騎士が無事なはずもなく落馬した衝撃で頭を強くうち絶命した者、火に巻かれ馬と同じ運命を辿る者、命は何とか失わずに済んだが、足が折れ、その場から動けない者。全てのものがこの炎で足止めを喰らった。


「ふぅ」


ルトラスは流石の猛攻に何とかなったと安堵の息をする。


とりあえずルトラスはこの場を抜けることを最優先とし、未だにガチガチに固まっているのメイドを御者台から下ろし、未だに祈りを捧げているティラーン王女の隣に座らせておく。


ティラーン王女に一度、戦闘が終わったことを伝えるべきか否か迷ったが、随分と集中している様子だったので、ルトラスはそのままにしておくことにしておいた。


御者台に座り、手綱を握る。二頭の馬の速度を先程の半分ほどにさせ、ゆっくりと道を駆ける。


既に空に浮かぶ、太陽は四つの月と入れ替わり始めた。


「不吉な夜にならなければいいが……」


ルトラスはそんな独り言を発した。どちらにせよ、ようやく旅が始まるのだ。


最初の行き先は『ソーエダファ山』の麓にある小屋だ。まだ誰がくるのかはわからないし、何ならきた人が王命といえどこの危険な旅に協力してくれるかはわからないのだ。


ルトラスは不安になりつつも、きっと大丈夫だと自分を勇気付ける。


「最悪、土下座でもして頼むか……」


そしてここでルトラスはもう一つの大きな課題を思い出す。


「……結局二人に旅に連れていくこと了承されてないじゃん」


ルトラスはさらに不安になりつつも、とりあえず離宮を離れられたことでひとまずはその考えに出来るだけ触れないようにし、一人と二頭と旅に連れていくことを了承されていない二人で旅を始めるのであった。


『友人からの王命と出で立ち』はどうだったでしょうか?

楽しんでいただけたのであれば是非、感想、評価、ブックマーク登録をよろしくお願いします。

意見もどしどしお待ちしているので、よろしくお願いします。

では、また来週、ここでお会いできることを楽しみにしています。

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