1.私のお兄ちゃん
想像の中の彼は、いつも私に優しくて、私の欲しい言葉をくれる。
彼氏でも、友達でも、兄弟でもない。
私のいとこの八歳年上のお兄ちゃん。
一緒に居て仲良くしてても、他からは怪しまれないし、今は互いにそういう気持ちもない。
でも、互いにそういう気持ちになれば、世間からは咎められない関係。それがいとこ。
万が一、恋に発展してしまっても許されるお兄ちゃんだ。
私が泣いていたら、何も聞かずにそっと抱き締めて、落ち着いてからゆっくり話を聞いてくれる。
温もりは欲しいけど、男はいらない。そんな私の気持ちを理解してくれる人。
私が心の底から望まない限り、絶対に一線を越えない理性を持って接してくれる彼。
私は彼のことが好きだ。
異性としてなのか、いとことしてなのか、それはまだわからない。
無条件で甘えられる彼の存在は、私にとっては神がそこに居てくれるようで、とても心が落ち着いた。
私の神はいつも私に優しく、時に厳しく、でも甘えさせてくれる。
ある日。
傷ついた私の肩を寄せながら、彼はいつものように慰めてくれた。でも、私の心はそんなんじゃ満たされないくらい傷ついていた。
「キスしたい」
彼は私の言葉に唇で答えてくれた。
それは、思ったより固く冷たい唇だった。
それでも、私はもう一度その感触を味わいたくて、彼の唇に唇を重ねた。
何度もキスしても、私が望まない限り、それ以上に発展することはない。安心してキスできるそんな関係。
さっきまで冷たかった彼の唇が、熱を持ってくるのを感じながら、私は彼にしがみつくように抱きついた。
でも、抱かれたい訳じゃない。
「ゆり、大丈夫だよ」
優しい彼の言葉が私の心をそっと抱き締める。
「俺がずっとそばにいるから」
私はその優しい言葉に抱かれながら、泣きながら彼の腕の中で安心して眠る。
私の大好きないとこ。
なんにもなく朝まで一緒に居てくれる人。
私は今日もそんな彼の腕に包まれて眠る。