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私は、昔からお転婆娘、と言われて育ちました。
家は元々王家の血筋である公爵家の出で、精霊と呼ばれるものに精通している亜人という種族と共存している国、として有名な国でした。
そうはいっても私の周りに亜人の方などおらず、ほとんど見たことも無い状態だったので、どんな方が亜人なのかは見たこともなかったけれど。
公爵家という貴族としても恵まれたと言っても良い立場に生まれた私は、何不自由なく育ち暇を見つけては庭に駆け出て、遊びに来ていた貴族の子供たちや新人メイドを連れだしてはささやかな冒険と称して屋敷の中を歩き回っていたことも記憶に新しい。
その度に怒られていたのだが、淑女らしくあれと言われたのはここ数年の事だった。
冒険と言えば、ひとつ、とても記憶に残っている出来事がある。
それは、私がまだ六つのころだっただろうか。それこそ、先ほどのように、冒険と称してまだ庭を駆けずり回っていたころのお話しだ。
公爵家というのは王家の血筋というのもあって人付き合いが多い。
その日も、お父様に連れられて別の領地にあるお屋敷に足を運んでいた。
当時、長男が居なかった、というのもあって、長女である私が顔見世のために別領地のおじ様たちに挨拶回りをしていたのだ。
走り回りたい衝動に駆られながらもお父様たちの退屈な会話を横で聞いていると、部屋を覗いてくる一人の少年に気が付いた。
きっと息子か何かだったのだろうその子は、小さく蹲って部屋の隅っこで本を読んでいるような子だった、というのを覚えている。
お父様とおじ様の許可をいただいた私は、その子と友達になるために館の中を必死に歩いてこそこそと移動する彼の後をついて行った。
私が声をかけると、よほど引っ込み思案だったのか「いい」とだけ答えられて、本の世界へと逃げられてしまったのを覚えている。
それでも無理やりくっついているうちに心を開いてくれて、一緒に遊ぶようになったのだ。
それから私は大人たちが話す中、その子を連れまわして、彼の家を遊び回った。
実際に年を聞いたら一つ下だったことに驚き、そして遊んでいるさなか彼の方が俊敏に動いていたのを見てさらに驚いたのを覚えている。
しかし、お別れというものはすぐにやってくるもので、数日の間にお父様と私は、自分の領地へ帰ることになってしまったのだ。
その時は、また会う約束をして別れた。
それから一年程、彼と会う機会がたくさんあった。
会うたびに本を読んだり、庭を駆け回って遊んでいたのだが、私が忙しくなってしまい、長男が生まれたということもあって私が彼と会う機会はほとんどなくなってしまっていた。
忙しくなった、というのもそれもそのはずで、幼いころの冒険心が許されるのは、社交デビュー前までだったのだ。
お転婆なお嬢様をそのまま社交デビューさせるわけにはいかないと、お父様とお母様は二人して私の淑女らしい勉強に、より一層力を入れ始めたからだ。
私の前例もあって、妹がお転婆にならないように育てるという目的もあったから、ちょうどよかったのだろうと、今にして思う。
そのおかげもあって、妹は私と血がつながっているとは思えないほど綺麗になってしまった。
私も私でお母様たちのおかげで、なんとか身なりを整え、所作こそ覚えたものの、いまだにあの頃の好奇心は抑えられず、新しい場所に来れば、ほんの少しの冒険のつもりで使用人たちの隙をついては抜け出して散策をしていた。
今日という日も、私は貴族の集まりである王子様の邸宅で、舞踏会が催され、王子様の婚約者をお決めになるという浮ついた噂が飛び交っていた。
私はそんなことを気にも留めず、こうして邸宅の中を歩き、どんな場所があるのかとわくわくしながらも散策を進めていった。
そしてちょうどよい場所を見つけて、私は休憩のために木陰に入ると、どこからか涼しい風が入ってきて、視界が段々と狭まっていった。