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第五節「冷たい暗室の中で」


 窓から入って来る光が眩しくて、目を開けた。

 最近知ったことだったけれど、万年雪が降る地方でもあるこの国では、朝目が覚めてからすぐに起きると、体が冷えてしまうので、早めに起きてベッドの中で体を温めると起きやすいとみんなに教えてもらった。

 ぼうっとしながら木で作られている天井を眺めて体を温めていると、ふと違和感を覚えてしまう。

 いつもなら隣のカレンが起きてきて、私がぼうっとしている間に準備を終えるはずなのだが、いつまでたっても当のカレンが起き上がってる気配がなかったのだ。

 おかしいと思い体を起こしてカレンのベッドの方に視線を移すと、そこにはもうカレンの姿はなくなっていた。


「カレン?」


 声をかけてみるが、部屋のどこかに隠れていると言った様子でもなく、すでにどこかに行ってしまったと、と言った様子だった。

 しかし、カレンが居ないとなればいつものようにゆっくりとしているわけにはいかないだろう。朝の準備自体はそれほどすることも多くなく、ここ一月、メリッサやカレンのおかげで自分で髪を結ぶのも着替えることもできるようになった私はできるだけ急いで身支度を済ませる。

 身支度を終えて部屋を出るころになっても、カレンはどこかへ行ったままだった。

 このままカレンを待ってみてもいいのだけど、割り振られている仕事をしないことになってしまう。ここに置いてもらっている身分で、仕事をさぼってまで彼女を待つわけにはいかないし、なにより先に出て行っただけという可能性もある。

 まっているより、仕事の受け取りをして確認しに行った方がいいかもしれない。

 そう思い、仕事を受け取るためにメリッサのもとへ向かうことにした。

 途中、カレンが待っているかもしれないと思っていたが、どこにもカレンの姿はなくあっという間にメリッサの部屋についてしまった。

 久しぶりにメリッサの部屋のドアを一人でノックする。

 私のノックに合わせて軽い音が響いて、部屋の中に居るはずのメリッサに音を伝える。少しすると「入りなさい」と声が聞こえた。ドアを開けて中に入ると、メリッサが机に座り、何か書き物をしているのが見えた。

 この館で文字を書くことが出来るのは彼女と旦那様であるジャンと私だけなので、記録等の書き仕事に追われているのかもしれない。


「失礼します、メリッサ。お仕事の木札を受け取りに」

「もっと早く来るように。あなたはいつも遅いですよ」

「ご、ごめんなさい。できるだけ早くするようにはしているのですが」

「あなたはそればかりですね。あなたが旦那様に気に入られているのは構いません。ですが、仕事は仕事。他のメイドや馬番の彼は大丈夫というかもしれませんが、それでも仕事が遅くなってしまうことを肝に銘じておくように」

「は、はい、申し訳ございません」


 カレンのことが心配だったのは確かだけれど、メリッサが言っていることはもっともだったので慌てて頭を下げる。数秒あとに私が頭を上げても、彼女はまだ書き仕事を続けていた。

 忙しそうにしてしまっていて、カレンの事を聞く程度で声をかけるか迷ってしまっていると、メリッサの方から聞こえていた書き仕事の音が止まる。


「まだ何か?」


 私が黙っていることで何かを察してくれたのか、彼女は振り返りつつそう言ってくれた。

 メイドたちの中ではメリッサはとても厳しいし、新人に強く当たって憂さを晴らしているというが、やはり彼女も面倒見のいい人だと思う。

 ちゃんと私の言葉を聞いてくれるメリッサを尊敬しながら私は聞きたいことを聞くことにした。


「忙しいところを申し訳ございません。でも、聞きたい事が……」

「聞きたいこと? ふむ、あなたのその様子では仕事関係の事ではありませんね」

「はい。メリッサはカレンがどこに行ったのか知っていますか?」

「カレン? ……ああ、そういえば、一緒に来ませんでしたね」

「部屋を出ようと思ったら、もう居なくて。メリッサなら知っているかと」


 メリッサは何か考えるような姿を見せたが、彼女の机の横に吊るしてあるボードから“裏庭の掃除”と書かれた木札を外すと、私の方に突き出した。


「カレンはもう受け取りに来ました。だから、一人で先に仕事に出たのではないかと。今日はカレンとは別の仕事ですので、眠っていたあなたを置いて早めに向かったのでは?」


 メリッサから木札を受け取りながら、私は少しだけ考えてしまう。

 今までカレンがそんなことをしたのは、最初の頃に私がどんくさくて仕事に遅れたときだけだった。今日も遅れたとはいえ、カレンを待っていて遅れたのだから、寝坊したからカレンが先に行ってしまった、というわけではないはずだった。

 どうして彼女が先に行ってしまったかはわからなかったけれど、ただでさえ遅れてるとメリッサに言われているのだ。これ以上遅くなるわけにはいかない。


「先に……。分かりました。ありがとうございます」

「それと、先日決めた通り、今日の仕事はあなた一人です。いつもは別のメイドにも任せていましたが、庭用の道具の場所は分かりますね?」

「はい、把握しています」

「それなら早くいきなさい。外での仕事ですので、昼食には一度戻ってくるように」


 メリッサはそう言うと書き仕事の方に戻っていった。

 スカートの裾をつまんで礼をすると、私はメリッサの部屋を後にして、仕事に向かうことにした。




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