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13/21

4‐2

 

 ほんの少しの忙しさを感じながら、私はベッドに仰向けになって倒れ込んだ。

 メイドの仕事自体は、スズランの様子を度々見ることはあったのだが、ここまで大変な作業をするとは思っていなかったのだ。ここ一月ほどで、それが嫌というほど身に染みて理解させられた。


「スズランにもっとちゃんとお礼を言うべきだったわね」


 そんな独り言をつぶやきながらうとうととしていると、ドアが開かれる音が聞こえてきた。

 疲れがたまっていたので、寝てしまってもいいかと思っていると、ぺちぺちと頬を叩かれる感触がして、ベッドがきしむ音を立てた。

 数日前までの私なら心底焦っていたかもしれないが、ここに住むようになってからは、カレンによく起こしてもらっているので、むしろ安心感すらあった。

 薄目を開けて誰かを確認すると、ぼんやりと見えてきた影は、間違いなく相手はカレンの背丈で、安心してもう一度目を閉じる。


「ほら、ルナ。起きなさい」

「ん、かれん? まだねむい」


 私がそう言うと、カレンと思わしき相手の影が退いて、キャンドルの光が目の隙間に入って来た。それが眩しく感じて、私は目の上に腕を乗せる。


「はいはい、お嬢様。ほら、寝る前に顔ぐらい洗わなきゃ。メイドのあなたが頓着しないと、旦那様の身辺を汚すことになってしまうわ」

「ん。それはとってもまずいわ、かれん。かれんにもめりっさにも怒られる」

「そうよ。激怒するわ。だから起きなさい」

「んー」


 彼女に言われるままに体を起こすが、今度は部屋が暗くてほとんど何も見ることが出来ずにその場から動けなかった。


「暗いわ、かれん」

「灯りはつけてるでしょ? ……目を閉じてるじゃない。寝ぼけてるの?」


 なるほど、それならたしかに真っ暗のはずだ。

 手を瞼に当てて、少しずつ指の隙間から光に目を慣らしていくことにした。先ほどまでうとうととしていたおかげか、自分の指が温かくて逆に少し気持ちよくなってしまう。


「そうかもしれないわ」

「かも、じゃなくて寝ぼけてるの。ほら、水は汲んできてあげたから。せめて顔を洗いなさい」

「ありがとう、かれん」

「はい、タオル……って、なんであたしがあんたのタオルを持たなきゃいけないのよ! 自分でやりなさいよ!」


 そう怒鳴られて、思い切り顔にタオルをかぶせられてしまった。しかし、彼女のおかげで少しだけ目は覚める。


「ん、っぷ。情緒不安定なんじゃない、カレン」

「いったいだれのせいよ、もう……」


 彼女はそう言って自分のベッドに顔を伏せてしまった。

 もしかしたら、仕事のどこかで失敗していしまっていて、知らぬ間に彼女に迷惑をかけていたのかもしれない。

 そういう時は言葉にしてくれると思っていたが、抱え込んでしまっているのかもしれないと思うと、気が気でなくなってしまう。


「わ、私が失敗したかしら。もしそうだったとしたら謝らなくちゃ……」

「それは、違うから」

「そ、そう?」

「そうよ、だから心配しないでルナ。今日のあなたの仕事は入って来たばかりにしては上出来だったわ。旦那様の部屋の掃除も、料理の手伝いも。だから仕事に関しては気にしないで大丈夫よ、お嬢様」

「ち、違うわカレン。どこからどう見ても町娘でしょ?」

「……そうね」


 カレンは呆れたようにベッドに伏せた。

 明らかにごまかせたとは思えなかったけれど、カレンも追及しようと思ってはないのかそのまま黙り込んでしまった。

 ベッドに顔を伏せてしまったカレンをそのままに、そろそろ顔くらいは洗おうとそっとタオルを持ってベッドから降りて机に向かう。すると、机の上に仕事が終わったことを報告する木札が二枚、水桶の横に置かれているのが見えて、カレンも戻ってきてからメリッサのもとへ報告に行っていないようだった。

 とりあえず自分の顔を洗ってからカレンの方へ振り返る。


「カレン、そろそろ報告に――」


 カレンも連れて報告に行こうと声をかけると、カレンはベッドに伏せたまま、かすかに上下している背中が見えて、返事が返ってこなかった。

 大きな音が出てしまわないように近づいて顔を覗き込んでみると、すやすやと寝息をたてて眠ってしまっていた。

 疲れて寝てしまったのだとしたら、起こしてしまうのは少し申し訳ない。


「ん、そうね。ついでにコックの人にあれをお願いしてみようかな」


 前々からやりたいと思っていたことを実行するのにちょうどいいので、メリッサの所へ報告をするついでに済ませてしまおうと結論付けた。

 そのまま二人分の木札を手に取ろうとして、今度は水桶に目が留まった。

 そういえば、カレンが持ってきていた水はどうするべきだっただろうか。

 この館に来てから、まず一番に教えられたのは水と食料の大事さだったから、水が手元にあるのなら、先にどうするかを考えろと言われているのだ。なんでも、魔法の力を操れる亜人達にとっても、水というのは貴重な物らしく、特定の種族しか扱えないために、ここでは山から下りてくる水をポンプでくみ上げているのだそうだ。

 だから、水を使ったら次が何に使えるかを頭に入れておく必要があると、何度も教えられた。

 いつもはカレンが率先して持って行ってくれたのだけど、今回ばかりは自分が行くしかないため、思い出そうとしてみる。


 ――えっと……。次はたしか、明日の掃除に使うから、終わったら台所の端に持っていくはず。


 カレンに答えを聞こうとして彼女の方を振り返って、彼女が寝てしまっていることを思い出して、暫し眺めて見る。

 彼女はまだうたた寝してしまっているようで、かすかに上下する背中には相応に疲れがたまっているかのように見える。

 水桶を置きに行くのも、自分が行った方が良いだろう。

 幸い水桶は小さいので私が燭台を持っても、片手で持つことが出来る。私は木札をエプロンのポケットに入れ、水桶を片手で持ちながら厨房へと向かうことにした。


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