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殺人鬼は異世界で完全犯罪を楽しむ  作者: 奈辺 もちお
姿を変えた殺人鬼
4/8

3

前よりは長めです。どうぞ。

 

 リュンという名の少女は、ここマルサン王国では辺境近くに位置する街の一つ『セト』で生まれ育だち、今現在も一介の冒険者としてその街で暮らしている。幸い隣国とは和平を結んで十数年小競り合いすらも起こらない良好な関係を築けている。おかげでセトの街は平和そのものであった。



 平和と言ってもやはり魔物は一定数存在する。この辺りではウルフ系やゴブリン等の低級に位置する魔物が多いだろうか。その他にも幾分かは生息するものの、そのそれらが大多数を占める。従って、この街の冒険者は駆け出しや低級の冒険者が多い。




「ーーハァッ!」




 ガシュッ!と無骨な造りのショートソードがグレイウルフの首の半ばまでのみ込まれた。目から光が失われ力無く横たえるのを待ってから、グレイウルフの体を踏み付けて力任せに剣を引っこ抜いた。




「ふぅ。あーー疲れたっ! 二匹もいるなんて聴いてないよ!」




 手持ちの布で汗を拭う。少しガサついたその布で顔を拭くと何だか肌荒れを起こした気になる、とリュンは思わず顔をしかめた。しかし、貴族様が使う様なふわっとした布を買うほどお金に余裕がある訳でもないし、そもそもガサツな自分にはこれがお似合いだ。そうは思いつつも女性として少しは身なりに気を遣いたい。そんな葛藤でもやついて、その手にある布を乱雑に鞄に突っ込む。




「おーい! そっちは終わったかー!?」


「はっ! はいっ! 今終わりましたー!」




 木々の向こうから唐突に掛けられた声にビクッと体が反応した。声をかけた人物が、草木をかき分けてこちらまで辿り着く。声だけでも誰かは判別が付いたのだが、姿が見えた事でやっとリュンは剣を鞘へと納めた。




「お疲れ様ですっ! ロイス様!」


「お疲れ様、リュンちゃん。相変わらずその赤い髪は目に付きやすいね。探しやすくて助かるよ」


「い、いえそんな! あいや、は、はい! ありがとうございますっ!」


「ははっ! そんなに固くならなくてもいいよ!」


「は、はいっ! すみません!」




 やって来たのはさらりとした金髪をなびかせた背の高い男性だった。くしゃりと柔らかい笑顔と、笑った時に目尻が下がるのが印象的な彼は、その笑顔に似合わず無骨で鈍い色の鎧をその身に纏っている。その左肩には剣が斜めに交差する『自警団』の紋章が刻まれていた。



 自警団とは、セトの街を治める貴族が置いた謂わば治安維持部隊である。街の中で起こる乱闘騒ぎの鎮圧や殺人事件の調査、街周辺の魔物退治までその仕事は多岐に渡る。



 そして上記でも示した通り、自警団は貴族が置いた、貴族が所持している部隊なのである。よってそもそも一介の低級冒険者でしかも平民のリュンからすれば、自警団で、それもその中でも小隊長の座の身分を持つロイスは自分よりも身分が上なのだ。




「おおっ! グレイウルフを二頭も倒したのか! 新人の中じゃあやっぱり抜きん出て優秀だな!」




 偉い偉い! とロイスは自分よりも随分と年若く小柄な少女の背中をバシバシと叩く。余りの衝撃にリュンは「うっ!」と小さく漏らした。手加減を知らない大人というのはやはり一定数いる様だ。




「あんな小さかったのによくここまで成長したもんだな」


「あ、ありがとうございますっ! けどもう15歳ですから! 成人してますから! 子供扱いはやめて下さい!!」


「かしこまったり生意気になったり忙しいやつだなぁ。女の子はやっぱ難しいぜ」




 乱暴にリュンの頭を撫でていたロイスは、払いのけられた手を撫でてそう呟いた。対するリュンはと言うと両手で頭を覆い、少し赤く染まった顔で弱々しくロイスを睨みつけている。相手の身分がどうのと悩んでいたリュンという少女は既に何処かへ消えた様だった。




「それじゃあこの辺りは一人で任せる、がくれぐれも無茶だけはするなよ! 俺は少し他のパーティも見てくるからな」




 いつもの笑顔を潜め、真剣な表情に変えたロイスはリュンの肩を掴んでそう告げた。リュンは自分の身を案じるロイスの言葉に嬉しさがこみ上げると共に、それでも少し不満げに口を尖らせた。彼女も既に成人を果たした立派な大人なのだ。少なからず想う相手に心配される事は喜ばしい事ではあるが、それでもリュンは大人として扱ってもらいたかった。




「大丈夫です! この辺りは低級しか出ませんし! 私ももう大人ですからある程度は自分で判断出来ます!」


「はははっ! そっかそっか!なら安心だな!!」




 負けじと睨み返してくるリュンに、思わず破顔するロイス。それでも早めに戻ってこよう、とくりゃりとリュンの頭を撫で着けながらロイスは、先程通って来た獣道のその奥へと戻っていった。



 そのロイスの背を見送ったリュンは「よしっ!」と気合いを入れて気持ちを切り替える。くるりと辺りを見渡して魔物の気配がない事を確認すると、もう近くにロイスはいないのだろうか、と途端に不安が襲ってくるのを感じた。この広い森の中で、たったひとりになってしまったような、そんな錯覚に陥る。




「あーーもう! ダメダメ弱気になっちゃ! もう大人の女性なんだから! 負けるな私!!」




 襲いかかる不安を無理やり追い出す。目をつぶって自分の頬を叩く。僅かな痛みと熱が頬を攻めてくるが、それが不安を追い出してくれるのかと思うともう一度叩いておきたい気分になる。



 ばちん!ともう一つ入れて顔を上げたリュンはその視界の隅でカサリと草が不自然に揺れた事に気が付いた。




「だ、誰っ!?」




 少し足を引き、鞘から抜いたショートソードを正眼に構える。僅かながら気を抜いていたせいか、心臓の音が耳まで聞こえてくる。血が上って少し顔が熱くなっている事も分かった。



 足音を極力立てぬよう注意を払い、ゆっくりと揺れた草がよく見える位置まで移動する。柄を握る手に力が入る。緊張で口の唾液が減り、ゴクリと一つ生唾を飲み込んだ。




「…………人?」




 まず見えたのは黒い乱暴な髪だった。そして煤を被ったように汚れた肌。草が揺れたのはおそらくこの人物が倒れた時に当たったのだろう。リュンは手早く剣を納め、足早に駆け寄った。




「だっ! 大丈夫ですか!?」




 小柄ではあるが男性だろう。同い年か歳下か。少年という顔付きに近いかもしれない。するりと質のいい手触りの服を身につけてはいるが、魔物に襲われたのか所々引きちぎられ血が滲んでいる。そこから覗く体は、この質の服に対しては不釣り合いなほどに痩せ細っていた。一応呼吸はあるようだが、気を失っているのか返事がない。




「とにかく一度ここから離れないトヒュッ……コ……ポゴッ」




 唐突に、声が出なくなった。何か詰まったのだろうか。何故か喉が熱い。なんでこんなにあついの。



 ふと地面に横たわる少年を見やりーー赤く膨らんだ口元とニヤリと半月の様な目をしたそれがそこにいた。



 ーーああ、ロイスさ



 顔が地面に落ちる音がした。




お読みいただきありがとうございます。

行き当たりばったりなのでこの話上手くまとまるのかなぁとか不安になりながら描いてます。

あともう1話更新します。

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