プロローグ
興味を持っていただきありがとうございます。
趣味の範疇ではありますが精一杯書いていこうと思いますのでよろしくお願いします。
視界を遮るほどの雨粒が空から落ちてくる。体を打ち付ける滝のようなそれは目の前の景色全てを覆い隠すようでいて、しかし消し去るには至らない。髪を伝い、服に入り込む水滴の感触。雨独特の鼻をつく香り。そこに混じるぬっとりとした鉄臭い異臭。外出を躊躇う程の豪雨の中、男は眼前の光景に顔をしかめた。
元は年季の入った木製の建物であった事は記憶していた。記憶でしか確認できないほどに目に映る光景は、普段のそれとは違う様相をしていた。
この街のメインストリートに構える、酒場兼宿屋【妖精の宿り木】。何十年も前から構える老舗であり冒険者には御用達のこの宿屋は、冒険者ギルドから程近く安く飯が美味いの三拍子が揃っており、新人からベテランまでこぞって利用した。
そんな夜遅くまで笑顔の絶えないこの場所が僅か一晩にして忽ち姿を変えたのである。この豪雨の中でも洗い流せない程の赤。行き場を無くした腕。丁寧に整列された足。『顎』というお皿に乗せられた何十もの眼球。その様相は宛らパーティ会場の様だ。
「被害者の人数は……恐らく50人は下らないかと思われます」
「……そうか。ご苦労」
あまりの数に男は思わず目を伏せる。戦争が魔物がと忙しないこの国では死などさして珍しいわけではない。しかし、十数年ほど前から和平条約を結ぶ隣国の国境付近で近年争い事とは無縁であり、周辺の魔物に至っては中級レベル以下しか確認されていないこの街で一晩で50人の死者が出たのだ。はっきり言って異常である。
「殺人にしてもこれは……正気の沙汰とは思えません」
「それについては同感だ。周りの住民の聴き取りの方は終わったのか?」
異彩を放つ眼前の光景から視線をずらし、男は横の自警団を見やる。「はい。ですが……」と少しの間を挟み、その自警団は顔をしかめた。
「誰もその晩は物音も聞こえなかったと……」
「…………そうか」
一つため息をついて、男は再び視線を前方ーー件の宿屋へと向ける。未だ赤く染まったそれを見て、果たして物音一つ立てずに50人もの住民を殺害することが可能なのだろうか、と考えを巡らせる。
昨晩この【妖精の宿り木】に宿を取った者ないし酒場を訪れた者の中には腕の立つ上級の冒険者もいた。身元証明としても使われる冒険者プレート。それらが飾り付けの様に机に散りばめられていたそうだ。その中には上級を示す金のプレートもあったとの報告が上がっている。上級と言うからにはそれ相応に実力があり、一般市民どころかそこいらの冒険者ですら太刀打ちは出来まい。
「つまり上級の冒険者かそこそこの身分を持つ貴族や有力者……あとは他国からの間者か」
長考に入りポツポツと独り言を漏らし始める男。その彼をつつく様に辺りが慌しくなったのを感じ、彼は一度思考を止めた。状況を見る限り、どうやら聴き込みで何かしらの情報を掴んだ様だ。何かしら進展するかもしれないと男はその場から足早にそちらに向かった。
「ロイスが?間違い無いのか?」
「は、はい。昨日忘れ物を取りにたまたまここに来たんですけど、ロイスさんがお店の前にいたんです。『ああ丁度良かった!布と水桶が欲しかったんだ!水浴びに使おうと思ってね』って。なので閉店後だったんですけどお売りしました」
情報元は【妖精の宿り木】の向かいに居を構える、日用品を扱う店の看板娘だった。言葉こそ矢継ぎながらも紡げてはいるがいつもの天真爛漫さは見る影もない。元は血色の良い肌は青白く変わり、口元は少し紫がかっている。宿屋を隠す様にして聴取を行なってはいるが、恐らく出勤時にあの光景を目の当たりにしたのかもしれない。
「ロイス……?」
ロイスとは誰だったか、と唸る男の横で自警団員がポツリと呟いた。目には驚愕が映っている。「知り合いか?」と尋ねる男に揺れる目を向けて、彼は細々く言葉を漏らした。
「ロイスは……一昨日に遺体で発見されています」
その男も、周りの自警団員もその事実に絶句するのみであった。
お読みいただきありがとうございます。ここが悪いここを直せ等批判がございましたら是非感想欄までお越しください。
こんな内容ないかなと思って書いてはいますが、アレに似てんぞコラとかありましたらお早目に言っていただければと思います。