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英雄之仮面 守護の剣  作者: 中川 はじめ
7/10

再会

「さて、ここで彼は思いもしなかったことが起きたんだ。」

彼の表情が少しだけ明るくなった。

早々に本を取り出し、それを開いた。

「思いもしなかった人と再会するんだ。その人は彼の_っと...ごめんごめん、先まで言いすぎちゃった...!」

契約期間も残りもあとわずかだ。ラエルを投げ飛ばしたあの時からというもの、騒ぎは無くなっていた。依頼主と看守長が二人揃って雇いたいと言い出すところにまでなった。雇われたらラエルに用は無くなってしまう。ギルドにいるから彼のような人材が欲しいのだ。


「調子はどうだ、エリアス?」

マスターからの電話だった。電話というものを使ったのが初めてだった彼は、マスターにそこにいるのかと聞いた。返ってきた答えは“笑い”だった。

「延長料金は確かに頂いた。最後まで気を抜かないようにな。」

「...あぁ、わかってる...。」

「...どうした? 落ち込んでいるようだが、なにか悪いことでもあったか?」

あんたのせいだよ、なんて言えなかった。別になにもない。とだけ言って電話を終わらせた。

今日は鉱山で仕事をしている収容者たちを監視して終わりだ。他の看守たちが乗っている馬車に彼も乗り、現場へ向かった。

この国の頭領はサンルスで、依頼主の男は奴と面識があるのだとか。だから、奴のスポンサーとして活動しているらしい。そんなやつの手伝い...。腐ったものだ。

山は削られているために岩石が露出している。足場も砂利だ。馬車から降りて早速目に入ったのは、重そうに大きな箱を運ぶ収容者たちだった。あの中にはここで取れた鉱石が入った箱や道具が入った箱などだ。箱の中に箱...まるでマトリョーシカのようになっている。

力尽きて倒れる者は回収し、休ませる。そして回復したらまた働かす。働く気のない者は懲罰房に送る。そこでどんなことが行われているのかはわからないが、看守長が言っていたお注射とやらが気になった。

歩みの遅い労働者を急かす。銃とやらで威嚇射撃をしたり、鞭で地面をひっぱたいたりしている。エリアスはそのどれもせず、ただ見ていた。

監視するだけとはいえ、ずっと働いていた。そのお陰もあって“決戦の日”のことも考えないようになった。だがそうなると、忘れさせまいと変わり果てた“彼女”が夢に現れては呪いの言葉を吐く恐ろしい夢を見るのだ。

エリアスは刀を握りしめ、労働者たちをただ見守っていた。

そうしているととある男が目に入った。ラエルだ。他のみんなは最大三人で運んでいた大荷物を彼一人で運んでいた。当然皆よりも進みは遅かった。看守が気付いて彼を急かした。頭の悪いやつだと彼は思い、ラエルのもとへ駆けた。


「急げ囚人!!」

「....チッ...!」

罵声混じりに吐き出す急かし文句にただ耐えていた。到着したエリアスは急かしていた看守に後は任せろと言って離れさせた。ラエルは彼を見た。

「なんのつもりだあんた...。」

「...別に。お前にとってストレスだろう。」

「...貸しができたな...。すまん...。」

意外と良い奴だった。素直に助けられたことを認め、謝るような奴だとは思わなかった。そのやり取りをしたあと、鉱山内で爆発が起きた。聞くに耐えない大きな音...いや、これは...声? 巻き込まれた人たちの悲鳴にしてはおかしい。何者だ?

「...ここのバケモンだ...。元々ここはそいつの住み処だったんだよ...。だから死んでも誰も文句言わない俺たちに強制労働を仕入れてやがったんだ...。だから何も対策なんかしないし、する気すらもねぇってことだ...。くそ...ゴミどもがよ...!」

ラエルは荷物を置いて爆発が起こった方へと走っていった。エリアスも彼の後を追うように向かっていった。


洞窟のように掘られた穴から煙がたっていた。ラエルは武器もなしにそのまま突っ走っていった。エリアスは彼を死なせたくないため、後を追った。

「助けてくれ!!」

「あっちが出口だ! 頑張りやがれ!!」

逃げ惑う労働者を避難させていた。怪我して動けない者には肩を貸し、通り過ぎていく労働者に預けた。元々彼らは仲が良いため、見殺しにはしない。一人で運べなさそうなら二人で運んでいった。

キィイイイイ! と鳴き声をあげて暴れだす、角が一本生えた淡い紫色のバケモノが目の前に現れた。蛇のような体で手足がなく、目もなくて口だけが不気味につり上がっていた。

「レルガードン...!」

「おい、逃げるぞ!」

「ここで逃がして暴れられんのはもうごめんだね! 逃げたきゃあんた一人で逃げてくれ!」

「こいつを相手にするのは無理だろ!」

キィイイイイ!

口から火を吹いて威嚇してきた。ラエルはそれを避けて反撃に拳をぶつけてやった。だが効いておらず、尻尾で殴られて地面に転がった。

「こいつとやり合うならここでは無理だ! 外まで連れていくぞ!!」

「ぐっ...! わかった.......!」

ラエルは起き上がって出口を目指した。レルガードンとやらを引き付けながらようやく出口につくと、そのまま外まで連れて来た。

「ウスノロ! ボンクラ! ....蛇!!」

低レベルの悪口を叫びながらバケモノを挑発していた。最後に関してはなにも思い付かなかったのがバレる。

怒ったのか、レルガードンがラエル目掛けて火を吹いた。エリアスが彼の前まで走って刀を抜き、斬撃をクロス状に飛ばして火を退かした。

後ろにいた彼は、近くにあった大きな荷物からツルハシを取りだし、それで応戦した。体にツルハシがぶっ刺さったレルガードンは、血を流して痛がる。体を勢いよく360度に回して尻尾をぶつける。ラエルがそれをまともに食らってぶっ飛ばされていった。

「ラエル!!」

キィイイイイ! キィイイイイ!!

エリアスはレルガードンを近付けさせないために一人で戦うことにした。殺しはしたくないため、みね打ちで何とかしようとする。しかし当然そんなの意味がなく、同じように尻尾を回して攻撃してきた。当たる前になんとかそれを避ける。

「くそ...!」


意識が戻ると、目の前で雇われ看守とレルガードンが戦っていた。ハッとして辺りを見渡し、何かないか探った。すると、何本もの鉄骨を吊り上げているクレーンがあったことに気付いた。あれで仕留められると考え付いたラエルは、別の看守が捨てていったのであろう剣を見つけ、それを持ってクレーンへ走った。操縦席から鉄骨を落とすことも良いが、あの雇われ看守の戦いかたからするにとどめは刺さない。なんで刀の刀背で殴っているのか分からない。だから、自分がとどめを刺す必要がある。

「あんた!! ここまでそいつを連れてこい!!」

「...! わかった!」

上手く攻撃を避けながらレルガードンを引き付けている。

ラエルはひょいひょいクレーンのはしごを使って上る。が、途中でめんどくさくなってはしごのない所、クレーンの骨部分を飛び越えて上へのぼった。

クレーンの先の下までレルガードンを引き付けたエリアス。

「...あいつとんでもねぇやつだな...」

それを見た彼が驚きを隠せずにいた。

ラエルが上まで上ると、したにいることを確認し、合図を出した後、鉄骨をまとめていたロープを剣でスパッと斬った。

ギリギリまでレルガードンの相手をしていたエリアスがその場から退くと、その瞬間にそいつが鉄骨の下敷きとなった。首を出してもがいてはいるが、身動きをとれずにいる。弱ったそいつを見ていると、上から声がしてきたのが分かった。見上げると、ラエルが降りて来ていたのだ。

「あいつ...!?」

そのまま落ちていき、華麗にレルガードンの首を斬ってとどめを刺した。

斬った...というより刺した。丁度刺された場所が脊椎だったようで、ピクリとも動かなくなった。ブラーンと洗濯物のようにぶら下がっており、地面に足はついていない。剣の取ってを離して地面に崩れ落ちた。

「おい、大丈夫か?」

「...脱臼したかも。」

「まぁ無事ではいられないよな。」



「いやぁ助かったよ! 看守だけじゃなくてバケモノまで退治してくれるなんて!」

依頼主の男がエリアスを絶賛してくれた。

「...まぁ、うん。」

彼が退治したのではなく、あくまでもラエルがそうしたのだが、とある目的のためにそれは伏せた。

「君がいればもう騒ぎは起きないんだよ...このまま君を雇いたいんだがねぇ...どうかな...?」

きた。

「その件なんですが、俺はギルドに戻らなくちゃいけません。ので、せめて騒ぎを起こしていた首謀、ラエル・モンドをこちらで引き取らせてもらっても良いですか?」

「...なんと...! 是非!」

そう言って満足そうな男が手を差し伸べた。エリアスは彼の手を握り、硬く握手を交わした。



「ラエル、調子はどうだ。」

「...いろんなところが骨折。」

「無理もねぇ。」

ギルドの医務室に彼はいた。とんでもない奴だ。本当に、よく生きていられる。そんなことを思いながら、ベッドの隣にある椅子に腰かけた。

「そういえば...あんたの名前、聞いてなかった。」

「...そうだったか?」

「...あんたは俺を拾ってくれた。あんなクソッタレな奴のために働くくらいなら、あんたのために働きたい。」

「俺のために...? ふふ、違う。一緒に戦うんだよ。一緒に、な。」

久し振りに笑顔になった気がした。彼の穏やかな笑顔に、ラエルはあんたみたいな強者も笑うんだな、と思った。この人のためなら命をかけられる。この人のためなら戦える。

「俺の名前...エリアスだ。」

「そうか、エリアス...さんか。」

「よろしくな、ラエル。」

「あぁ、よろしく頼む...!」

二人は握手を...交わすことができないので、エリアスがラエルの胸部にそっと手を置いた。

「もう無理はしなくても良い。」

彼はラエルに優しく言った。

「...みたいだ。良かったよ...。」

ふっと笑って彼は応えた。

ドアをノックする音が聞こえた。返事をすると、開けてきたのはマスターだった。

「エリアス、お前に客人だ。」

「俺に...?」

心当たりがない。ラエルは行けよ、と言った。エリアスはそうすることにした。


待合室にいたのは、緑髪の女の子だった。ミディアムヘアーで、可愛らしい感じがした。

「待たせたね、レテアちゃん。」

マスターが女の子に言った。

「いえ...!」

透き通るような良い声だった。レテアとやらはエリアスの目を見つめる。

「...俺のかおに何かついてるか?」

「..........。」

何も答えなかった。少女はただただエリアスを見つめる。そしてボソッと「似てる...」と呟いた。

「...なに?」

「...ふふ、お兄ちゃんですね!」

エリアスは自分の耳を疑った。彼はずっと一人っ子だった、はずだ。見た感じだと自分と歳もそれほど離れていない。なら叔父さんと暮らしていた時には既に妹がいたことになる。

「すまないが言っていることが分からないし、俺と君は初対面なはずだろ?」

少女はその言葉を聞くと、ぎゅっと抱き締めてきた。その時、脳裏にとある光景が浮かんできた。



ドランの里。それは、人間が立ち入ることが不可能とされている山奥にある。しかし結界が張られているため、普通の人間は立ち入ることができない。周りは山だと言うこともあって木々が生い茂っており、山菜がたくさん採れる。建築物に使われるものは、石のレンガや土、泥、木材、バナナの木に生えているものと同じような葉などがある。


__ そうだ、これは俺が育った里だ。


「やめて...。 叔父さんを...いじめ...ないで...。」

叫びながら大きな拳を振るう。だが相手に敵わず、その腕を掴まれ、再び投げ飛ばされる。


__ あの時...


エリアスの目の前で彼は殺された。


__ ジャック叔父さんが殺されて...


心のなかでもう一人の彼がこう言った。

コロセ。


__ 腐った世の中を...


「全てを壊してやる...。全てを...殺してやる!!」

空を飛び、二つの腕から紫色の光線を放つ。当たった場所が大爆発を起こした。爆炎が燃え広がり、やがて里中を燃やした。道は逃げ惑う者たちで一杯だ。


__ .......! あの時...確かにいた...!


「お兄ちゃん!!」

泣き叫びながら誰かを探す緑色の髪の少女がいた。

「どこにいるの!!」

一人で火の海に飛び込み、泣きながら兄を探している。先程潰したやつに似たような奴がいた。


そうだ。あいつも殺してやろう。不気味な薄ら笑みを浮かべて少女に近付く。

「...お兄...ちゃん...?」

握り潰してやろう。そう思って腕を伸ばす。


__ そうだ、俺はこの子と会っていた...。でもその前に殺してしまった男の人に彼女と似ている男がいた。



「良かった! お兄ちゃんが無事で良かった!」

レテアがずっと抱き締めている。エリアスは彼女の頭を撫でてみた。彼女は嬉しそうに笑った。

「あ、えっと...!」

何かを思い出したように離れ、そして礼儀正しく挨拶をした。

「改めまして、私はレテアといいます! ドラン族です! えっと、エリアスお兄ちゃんを探しに人間の世界に来ました...!」

「俺の...妹...。」

「はい...!」

相当苦労したのだろう、彼女は会えたことによる嬉しさに涙していた。そういえば気付いたらマスターがいない。変な誤解をされているかもしれない。

「...なんで...俺を探しに来たんだ...?」

「えっと、本当は連れ戻しに来たんです...。でも、マスターさんのお話を聞いた限りでは、そんなことをするのは野暮だと思ったので...。」

彼女は、笑顔を作って言った。もしかしてこのまま帰るのか、気になって聞くと、彼女は応えた。

「いえ、その...もしよかったら...お兄ちゃんとお仕事したいなって...。」

良い子だった。本当に自分の妹かを疑いたくなるくらい。

レテアの話によると、親戚に預けられたのは、エリアス一人ではないようだ。自分を含めた4兄弟は皆預けられたのだそうだ。理由は、母親の入院。彼女は当時、治るかどうかすらも分からない難病にかかっていたのだと言う。しかし、とある男の働きにより、そんな病気を治す薬、治療法が見つかったのだと言う。その男こそが、エリアスやレテアの父親。名前は「リーフィス」。いや、性格には「ジャック・リーフィス」だ。

「ジャック・リーフィス!?」

ドア越しに話を盗み聞きしていたのだろうマスターが大声を出した。そりゃあそうだ。彼は世界でも有名な傭兵ギルドのマスターだ。もちろんドランではなく、ただの人間だ。そんな彼がどうやって母と出会ったのかは不明だ。叔父と名前が被って混乱しそうだ。ちなみに母親の名前は「リアナ」だ。あの時、親父に拾われた際に呟いた言葉、それがまさにそうだったのだ。


「つまり、お父さんのお陰でお母さんは治ったんです!」

嬉しそうにレテアは続けた。

リアナは今のドランの里の長をしている。自分の能力・記憶を消す力を使い、民からあの日の出来事を一欠片も残らず消した。そして、最大の罪を犯した者を人間の世界に追放する行為も問題視され、見直しが終わり、刑務所のような保留地を建設した。父親の提案があったのだ。法律がなかった里にはそれが生まれ、着々と生まれ変わりつつあった。リアナがそこまでやる理由は分からない。ただ自分の息子に帰ってきて欲しいだけなのか、それともドランの里の復興のために尽くしているのか。


「はぁ...話疲れちゃいました...。」

ソファーに座ってひたすら話したレテアと、それを聞いていたエリアス。

「お疲れ様...。...でも里が戻ろうとも、俺が殺した人たちは...。」

自分を責めるように手を見つめ、握る。

「えっと...本当は秘密なんですけど...。実は不思議な力を持った人が里に入り込んで来まして...その人が魔法っていう力で死んでしまった人たちを甦らせていったんです...!」

「..........は!?」

大きな声が出た。死人がよみがえるだと? エリアスは驚きを隠せないでいた。

「本人は、『未来から来たんだよ』って...不思議な方でした。『運命は決まっている。僕らはまた会えるよ』って言って里を出ていったんです...。」

エリアスは複雑な気持ちにもなった。レテアはそんな彼を不思議そうに見つめていた。



守護の剣 #7 再会

「妹のレテアさん...。彼女ともお会いしたことあるけど、すごく綺麗だったなぁ...。ふふ!」

彼は笑顔で言った。

気になることがあった。

未来から来たとあう者についてだ。これを彼に聞いてみることにした。

「ん? あー、未来から来た人ね..! うーん。僕も分からないんだ。なんせ、『英雄の書』に書いてある20人の英雄たちの中でも、そんなことができるのは2名くらい...いや3名かな...? だから、僕にも分からないんだ。」

そう言って彼は次の本を取り出した。

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