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英雄之仮面 守護の剣  作者: 中川 はじめ
6/10

幻肢痛

「大きすぎる敗北の挫折...そして、大切な人の死...崩れた日常...。」

本を開き、彼は語った。

「さて、ここから彼はどうしたんだろうね? 早くみようか。」


守護の剣

 第ニ章 錆び



雨が降っている。嵐でも来ているのか、雷も鳴っている。強風によって雨粒が強く肌に当たる。こんな天気で森の中にひとりの男が無気力に座り込んでいた。昔の日々を思い出しながら、気を失いそうになっていた。

「おい、起きろ。お前、風邪引くぞ?」

誰かが目の前にいる。顔をあげると、フードを深々と被り、片目に傷を負った男だった。

「お前、その格好からするに、闇軍の部隊じゃないか?」

「それがなんだよジジイ...。」

空から大きな音が聞こえた。まるで大きな生き物が大きく呻くような音だった。

「こんなところでなにしてんだ? 残党狩りから逃げたのか?」

なにも言えなかった。

「情けないな。特にお前は...きっと特殊部隊だろ? あとからきたやつでもなきゃ、包囲からは逃げられないだろうしな。それともあろう者が...仲間と共に死ねないのか?」

エリアスの脳裏にコノハの顔がよぎった。

「やめろ...。」

「自分の力を信じ過ぎだ。けどなにもできなかったな。なにもできなかったからお前は逃げた。」

言う通りだ。自分は鍛えた。鍛えたのに負けた。怖じ気づいて逃げた。

「それ以上喋んじゃねぇ...!」

図星なんだ。なにも言えないんだ。

「結局お前は弱い。誰も、何も、守れやせんよ。」

「黙れ!!!」

目を真っ赤に光らせて殴りかかろうとした。しかし、瞬く間にその腕を後ろに回され、直後に首を絞められて拘束された。

「ガッ...は....はなへ...!!」

「俺ん所に来い。お前をみっちり鍛えてやる。でなければお前をこのまま気絶させて光軍に差し出す。それとも、いつまでも決断せずにこのまま首の骨を折られて尽きるか?」

今この男に殺されてもいい。今すぐにでもコノハに会いたい。けど、本能は死にたくないと言った。

死にたいか、死にたくないか。

彼の答えは、生き物として正しい答えだ。

「わ、わかった...から...は、なへぇ...」

「......お。そうか、良かった...!」

男は腕を離した。力が抜けて倒れそうになったところを、その人に支えられた。

「...あんたのこと、なんて呼べばいい?」

「俺か、そうだな...マスターとでも呼んでくれ。」


男は自分が作ったギルドのマスターだった。エリアスと初めて会った地点から馬車で5時間の場所にそれはあった。仕事は主に害獣や化け物の駆除や商業関係等だ。場合によっては闇の仕事もする。もちろん、公には内密だ。ギルド内にあった大広間で新人歓迎会をやった。思いの外歓迎された。同じくギルドに所属していた男が、彼の髪が長いのを気にしたので切ってあげた。いつかぶりの短髪だ。女性の人たちが短髪になった彼を見て「似合っている」、「かっこいい」などと言っていた。心に深い傷が刻まれた彼は笑うことや反応して返事をすることなどできなかった。

「なんだ、どうした?」

「...いや...なんでもない......。」

そこは酒を飲んでどんちゃん騒ぎ状態だ。この騒ぎはエリアスただ一人のためだ。ありがたいことだが、今はただうるさいだけだ。

夜も更け、眠くなってきた。

「さて、お前の寝るところだが...知人の家でいいよな。」

「...寝床がないのか?」

「本当は寮があるんだがな...一杯なんだよ。」

「寮が一杯ならなんで俺を誘った。」

「なんとなくだ。ほら、地図を使ってこれを便りに行け。」

マスターが丸められた地図を手渡した。それを受け取って広げると、ギルド周辺の地形が記され、とある建物に赤い丸が付いていた。外に出て赤丸の場所へ向かっていった。空はもう紺色だったが、まだ少しだけ星が輝いていた。目の前にあるのは極一般的な木造建築の家だ。ドアをノックする。

「はーい!」

ドア越しに女の人の声が聞こえた。開くと、なんとも可愛らしい女の子だ。

「あっ、あなたがマスターさんが言っていた新人さんですね?」

「あ、あぁ。」

オレンジ色の髪の毛で、後ろの髪は背中まで伸びていた。青色の瞳、名前はメイ。“メイ・ナルナ”。

「えーと、あなたは?」

「...エリアスだ。」

「よろしくね、エリアスくん!」

手を差し出した。心の余裕が無かった彼だが、彼女の手を握った。可愛らしい笑顔だ。それが彼を苦しめる。

「...どうしたの?」

「...いや...疲れてるんだ...。」

「そ、そう...? あ、そっちにベッドがあるから、自由に使って...!」

「感謝する...。」



目を覚ますと、つい前まで見慣れていた天井が視界に入った。上体を起こすと、隣に女の人が寝ていたことに気付いた。そうか、全部夢だったのか。布団をめくり、彼女に朝の挨拶をしようとした。が、現れたのは彼の知っている彼女ではなかった。皮膚は黒く焦げており、髪もなかった。骨と黒こげの肉が露になった姿の...

「コ...ノハ...。」

「どウして...?」

低い声が聞こえた。

「どうしテおヌシはいキテおるノじゃ...??」

ほとんど骨となっているその指が彼の腕をがっしりと掴んだ。

「違う...俺は...」

「ナニがチガウのジャ...? ワラわはいタカった...。ヤカレた。エリアス...ワラワをタスケテ...」

「コノハ.......!?」

「まタアノときノヨウニ...フタリデ...。」

「やめろ...やめてくれ.......!!」



「ねぇ、君...?」

メイがエリアスの顔を覗き込んでいた。悪夢を見た彼は汗をびっしょりとかいていた。

「悪い夢でも見たの...?」

「..............。」

荒い呼吸をしている。シーツに染み込んだ汗がすぐに冷めて不快になる。辺りを見渡しても、そこにいるのはパジャマ姿のメイだけだ。ふと窓を見ると、空は既に青かった。

「今...何時...?」

「11時くらいかな?」

いつもならヨツヒデと練習していた時間だ。だがもうその人はもういない。時間は戻ることができない。彼女の死が吹っ切れない。どうすればいいんだ。彼はとにかく、朝食も食べずに家を出てギルドに出掛けた。

そこに着くと、偶然通り掛かった男がこちらに気付いた。

「おっ! おはようエリアス!」

ここでは誰もが挨拶をしてくれる。そこは闇軍の城にいたころとは違った。マスターはやって来た彼に挨拶を済ますと、食堂で朝食を済まさせた。箸じゃないことに大きな違和感があった...。



始めてここに来てから早くも4ヶ月が経った。ここは必ず班を作る必要がある。彼はどこにも所属しないでいる。どうせ班を作るなら自分で作りたいと思ったからだ。

ある日、マスターの部屋に来ると、彼はエリアスに1枚のプリントを差し出した。

「さて、エリアスよ。一人では辛いだろうが、お前にこなしてもらいたい仕事がある。」

依頼主は貴族で、内容は収容区の看守だった。詳細を読む限りだと、ならず者たちを収容している、刑務所のような所だ。面倒だが、仕方なく行くことにした。


依頼主に指定された場所へ送られた。

「いやぁ悪いね。」

身なりが整った膨よかな体型をした紳士的な男性が馬車に乗ってエリアスを迎えに来た。

「一人厄介なやつがいてな。夜中に暴れ出すんだよ。それでなんにんもの看守がやられてな。あわよくば始末を任せてもいいかね?」

「...俺は殺しはしない...。」

「...? 意外だな。顔つきからして数多(あまた)の戦場を生き残る猛者だと思ったのだがな。まぁいい。乗りたまえ。」


到着した場所はなんとも簡易的な収容区だった。まぁ、仕方無いことではある。テントが張られ、そこに収容されているならず者がいるようだ。

「いつもはここから近いところにある鉱山で仕事をさせているんだよ。だからそれなりにガタイはいいから気を付けておくれ。まぁ君には夜中の警備に当たってもらうよ。」

「それまで俺はなにすればいい?」

「任せるよ。自由にしてくれて構わないよ。ただ、ちゃんと仕事はしておくれ。」

仕事、と言われれば全うするしかない。適当に建物内を回り、時間を潰した。

夜になると収容区に収容者が戻ってきた。夕食を頂き終わった彼は、指定された場所についた。反対側にはもう一人の看守が番についた。使っていた刀を持ってそこの出入口で番をした。この刀も...元はコノハから貰ったものだ。ヨツヒデが彼女のために作らせたものなのだが、薙刀を選んだがために不要になったそれをエリアスに渡したのだ。そんなことを思い出しながら刀を抜いて手入れをした。ほぼみね打ちで敵を倒したために刃こぼれはほとんどしていない。思い出に浸っていると、一人の看守が飛んできた。地面に背中を強打し、動かなくなった。

「おい! 大丈夫か!?」

もう一人の看守が、ぶっ飛ばされたやつのもとへ駆けた。エリアスは何事かと思い、刀を鞘にしまって中にはいる。

「お、おいあんた!?」

後ろから止める声がしたが、気にしなかった。騒がしい。聞くに耐えない罵声や煽り文句が飛び交っていた。なにがあったんだ?

皆の視線の先には、両手両足に枷を付けられた男が看守の人間をぼこぼこにしていた。

「こーろーせ! こーろーせ!こーろーせ!こーろーせ!」

ここはもはや収容区ではなかった。彼らにとってここはコロッセオのような会場だったのだ。枷を付けた男がワインのボトルを地面に叩きつけて割り、ナイフ代わりの凶器を作った。まずいと思ったエリアスは、急いでその男から凶器を奪った。マスターから教わった体術だ。そして既になった彼の胸ぐらをグッと掴んでぐるんと回した。地面に伏した彼を拘束した。

「...おい、お前か。暴れてやがるクソってのは...。」

「...!? 誰だお前...!?」

「看守だ。」

「嘘つけ...! クソッ! 離せ!」

「いや、離すわけにはいかないな。」

殴られて動けなくなった看守を別の者が運んでいった。周りの騒がしさもおさまり、逆にざわつき始めた。

「物足りないなら相手するぞ。」

「上等だ.....ッ!」

拘束を時、暴れん坊の相手をする。当然エリアスなんぞに勝てるわけもなく、なんども地面に叩きつけられる。そろそろ降参を言うかと思いきやまた突っ走ってきた。たまにはぶん殴ってやろう。そう思ったエリアスは暴れん坊の頬に拳をめり込ませた。怯んでしまったそいつは、彼の蹴りをくらい、地面に伏した。

看守たちが歓喜した。

「なんだよお前...!?」

「看守だ。」

「嘘つけよ!!」

黄色い目をした男だ。年齢はほぼエリアスと変わらないように見えた。

「...お前、名前は?」

エリアスが彼にきいた。

「...ラエル。ラエル・モンド...。」

「そうか。ラエル...。」

「...?」

ギルドの仕事は時々怪物を相手にすることがある。その時に一人だとあっけなく終わってしまう。もちろんハントする人間の死亡でだ。

エリアスはラエルを気に入っていた。何者にも支配されまいと意思を固くする目、正しい教え方をすれば手すらも相手を仕留める武器になれる強さ。まさにハントする場合に役立つものが揃い踏みだ。

笛が鳴った。

「お前ら何してる!明日も早いんだぞ! それとも...懲罰房でお注射一本ヤるか!?」

看守長だ。ガタイがよく、歳もそれなりだ。何人ものしたっぱを連れて来た。

「チッ...。」

ラエルが舌打ちし、檻の中に戻った。

「お手を煩わし、申し訳ないね、派遣社員さん。」

看守長がニッと笑った。

「いえ...。仕事ですから...。」

無愛想に彼はそう答えた。それにも関わらず、相手はそうかと言って笑った。仕事と私生活での切り替えができる人は素晴らしいものなのだろうと思った。


朝。

依頼主の男が宿にやって来た。要件は。本来なら今日で切れるはずの契約を延長したいとのこと。延長代金はかかるし、何故そんな面倒なことをしたのかときくと、信頼できないやつに多額の報酬を払う気は無かったが、エリアスのような者が来たからと言った。要するにお試しで1日契約だったわけだ。延長は3~4週間。1ヶ月しないくらいある。彼は嫌がることなくマスターに延長を知らせた。彼にとっても好都合だからだ。何としてでもラエルを自分の仲間として迎え入れたいのだ。



守護の剣 #6 幻肢痛

「ラエルさんとの出会いが、彼を変えた。いや、彼の周り...現状か。」

彼は再び話ながら本を閉じた。

「ねぇ、きみはこのあとどうなると...。ごめん、そんなこと言われても分からないよね。」

「さ、いよいよ終盤に差し掛かる。」

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