47 光る応援棒
「サリーナ、ザギィル様、お待たせ!」
ユーリカが、右手をあげながら二人の元へ駆け寄る。
「今着いたところよぉ〜」
サリーナは元気そうだったが、イケメン魔王様の眼の下には濃いクマができていた。普段から寝不足っぽいもんなぁ、この人……。今夜はぐっすり眠れると良いですね!
エミルを寝かせてすぐに、俺たちはこの『アルル教会建設予定地』に移動してきた。
サリーナがこっそり俺とユーリカに耳打ちしてきた。
「エミル様の呪いすごいわねェ、教徒のみなさん以外は地獄絵図だったわぁ〜」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
魔王領の国境沿いにある結界に、パフォーマンス程度の攻撃(デモ行為)を仕掛けていたアルル教徒たち。それを支持するフリをして指示を飛ばしていたであろう集団は、サリーナ達がそこに到着した時にはそのほとんどが崩れ落ちていた。
「酸っぱい唾液が! なんかもう痛えよお!」
「あああああ、かゆい、かゆい、かゆい、……かゆ……」
「目が、目がぁーっ」
「耳の中に、奥歯に、ナニかある……ナニかがいる! うあああ、出て行け、クソォー」
「離せ、オレは今すぐ帰るんだ! パン屋のベンがカミさんを口説いてるんだよ絶対!」
「ヒック、ヒック、しゃっくりがっく、とまらなっく、ヒック、ハクション! 定期的にクシャミ出るのがうぜぇっく!」
「みなさんどうしたのですか!? ああ、神よ!」
こちらが手を出したなら無理矢理な大義名分を掲げて戦闘行為をするつもりだった集団は阿鼻叫喚であった。
大部分はすでに帰途につき、帰りたくなる不安に抗ったものは、次々と体の異常を訴え始めた。堪えようとすればするほど、複数の不快感が襲って来ているようだ。
直前までアルル教徒を励まして煽っていた集団の様子が急におかしくなったため、彼らが不安になっていたところに、魔王ザギィルと獣人の男が現れた。
「敬虔なアルル教徒以外は、魔王領の呪いに影響されたのであろう。この呪いは、偉大なるアルル神が関係しているので信徒には影響が出ないのである!」
急に現れた魔王の言葉に、アルル教徒はざわめいた。
「な、なぜアルル神が、そんな呪いに関係しているのですか」
代表らしき司祭の格好をした者が、震える声で問う。
「アルル神に直接尋ねるが良いだろう。魔王領アルル神が降臨できる条件に合う広場がある。教会建設予定地、そこで降臨の儀式を行えば良い。そなた達が真のアルル教徒であれば、応えてくれるはずだ」
「教会建設予定地?」
「アルル神に降臨頂ける場所があるなんて」
「我らの信仰心に偽りはありません、必ずお応え頂けます。今までは、その、場所がご用意できなかっただけで」
更にざわめくアルル教徒に向かい、サリーナが微笑みながら
「ワタシはサリーナ。皆さんをご案内するために参りました。ザギィル様は、アルル神ゆかりの地として、教会本部を建設しここを『降臨の地』として皆様のような信心深い方々をお迎えしたい、とかねがね思っていたのですよ」
と伝えた。
もちろんとってつけた設定である。しかし、今回の戦争回避の作戦実行にあたってはこれを事実で押し通すのだ。
「ああ、アルル神さまイチオシの獣人さまが」
「モフモフは至高」
「我らケモミミ信者に教会本部を? 」
「ケモミミスキーを隠しながら細々と集まっていた我々に居場所が……」
アルル教徒の心は、揺れている!
「もとより、話し合いに来られたのですよね? 我々には応じるつもりがありますよ。ただ、魔王領に対する誤解があるようなので、ぜひ一度アルル神とお話しされてみてはいかがでしょうか」
サリーナのフサフサの耳を熱い眼差しで見つめていた集団は、従った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
そうして、アルル教徒一団とザギィル、サリーナはここに移動してきた訳だった。
ザギィルの部下数名は威圧感を与えないため少し離れて見守っているようだ。
『アルル教会建設予定地』
明らかに突貫工事であると見受けられるような看板だが、少しでも説得力を出すための舞台装置として掲げられている。魔王親衛隊の数名が設置してくれた。
「本当に、看板まで……」
「こんなに広い場所が用意されているなんて」
「何より、ここは魔王領内。ケモミミを愛でても謗りを受けることはないのですね……!」
サリーナが微妙な表情をしている。
アルル・カゲット教団とは、別名ケモミミ信者。獣人好きのアルル神を信仰する集団。
獣人差別が根強い場所では声高に獣人を愛せよとは言えず、居場所がないため細々と集っていたのだった。
「それではアルル神降臨の儀式をはじめます。皆、マジックアイテム・光る応援棒の準備はよろしいでしょうか」
司祭が厳かに告げる。
「ここに」
「いつでも!」
数十人の信者が、一斉にタクトのようなアイテムを構えた。
「偉大なるアルル神よ、あなたの愛する獣人様が近くにおられます。歌って踊れる広い場所もございます、あなたの神力が根付く事を望む教会建設予定地でございます! あなたを愛し、その教えを守りし我々に、どうかお姿を」
司祭が祈りを捧げた。後ろには光るタクトをリズミカルに振る集団……ていうかペンライトじゃね?
俺には意味のわからない言語で、歌のような呪文を唱える司祭の前に、落雷のようにそれは現れた。
「呼っばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん! 僕の好きなものが揃ってるみたいじゃん? 久しぶりすぎだけど嬉しいなっ!」
アルル神は僕っ娘のようだった。




