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46 顔がキモチワルイ

「それじゃあ、……ふわぁぁ〜……ねむぅ……いきまっす」

 大口を開けてあくびをするエミル。まぶたが、重力に逆らえないとばかりに閉じかかっている。


「ふあああ〜、お母さんがんば……」

 片手で口元を押さえながら、ふらつく体勢を整えてユーリカが応援した。


「加減間違うなよ、エミル……くぁぁ……」

 こらえきれず俺もあくびが出た。前世の中年の体では徹夜を試みるなんてとんでもない! というくらい夜更かし自体キツかったものだが。さすがにまだ若いこの体は、完徹しても眠さだけでなんとかなっている。


 俺たちは、早朝の魔王城のテラスに居た。飛竜が着地できるように広く作られているそこから、作戦その1を実行するためである。


「……すぅ……」


「いきまっすと宣言したそばから寝てるんじゃねえ!」


 立ったまま眠りの世界へ旅立ちかけたエミルの頭を小突いた。お年寄りの体には厳しいのかもしれないが、エミルが頑張らないと作戦が頓挫するからな?


「ふがっ……寝てない、寝てないよ。精神統一してたんだもん。眠ってるように見えたのはキノセイだよ、むしろハルの心が汚れているからそんな風に見えちゃうんだよ」

 頭を振りながらエミルが言い訳している。


「次寝落ちしたらくすぐりの刑だぞ」


「ハルのえっちー」


「エロい気持ちで言ってねえよ!」


「ちょっとふたりとも、朝からイチャイチャしないでよね」


「イチャイチャじゃないから!」


 ユーリカが半眼でこちらを睨んでいる。いや、眠くて半眼なのかもしれないが。

 イチャイチャとか突っ込まれて恥ずかしいのか、エミルが赤く染まった頬を膨らませながら眉根を寄せて変な表情をしている。


 俺の中で、膨らんだ頬を両手で挟みこんで潰すか、つまんで引っ張りたいという誘惑がすごい。そんなことしたら、ユーリカからのイチャついている認定待った無しだから堪えるが……。

 眠くて判断力が低下してると危ないなあ。本能で、エミルに求愛しそうになる。これが若さなのか!?


「ハルが変なこと考えてる気がする!」


「なんかお父さん顔がキモチワルイ」


 女性陣に大変不評なのだが、一体俺はどんな表情をしてるんだ……。あとユーリカは、顔じゃなくて表情がって言ってくれるとお父さん傷つかないからね。


「ふうっ。……広範囲型の呪い発動〜、対象者の方はご注意ください」


 気合いを入れたエミルの体から、霧のような黒いモヤモヤしたものが広がり出た。それはあっという間に空高くに広がり目視できないくらいに薄まった。魔王領全体を覆っていくはずだ。


「グハハハ、これが魔王たる余の真の呪い! 魔王領に悪意を持つ者は、おぞましい感覚に打ち震えるが良い! ※ただしアルルを心から信仰している者を除く」

 エミルがノリノリで宣言しているが、眠そうな顔で尻餅をついて片手を振り回している様は、転んじゃったよお母さん抱っこしてーと言っている子供にしか見えない。


「立てないのか?」


「ウン、つかれたー。おんぶー」


「ほいほい」


 俺はエミルをおんぶして、寝室へ向かう。エミルの出番はとりあえずここまでだ。


「これで、敬虔な信者以外は帰っちゃうってことよね?」

 ユーリカが念を押した。


「そそ、帰りたくて仕方なくなるよ〜。精神力が強めのヤツが頑張ると、更に呪いが進行して行動できなくなるカンジ」

 エミルはたぶん俺の背中でドヤ顔してるんだろう。


「どういう感じになるの……?」


「んー、まずは、おうちの鍵を閉めたか未だかつてないほど不安になるでしょ。火の元は始末したかな? もね。見られたくないヒミツの物がある人は、それが見つかりそうな予感がしてたまらなくなるでしょ。大切な人が家にいる人は、浮気されてそう・家出されてそうな原因になる出来事のフラッシュバックがものすごくなる。ちょっとしたケンカも記憶の中で盛られちゃうかんじー」


「うへぇ……」

 そりゃ帰りたくなるわ。


「地味に嫌な精神攻撃だよね……。それを堪えたらどうなるの?」

 ユーリカもイヤそうな顔をしている。暗黒詩集が見られたら嫌な身としては、良くわかるのだろう。


「まずは、目にまつ毛が刺さっている感じがするよ。耳の中で小虫が飛び回っている感じもするよ。靴の中が異常に痒くてたまらなくなるよ。ささくれが異様に痛くて気になるよ。奥歯にとれそうで取れないナニカが挟まっている感じがするよ。しゃっくりが止まらなくなって苦しくなるよ。あと」


「お母さん、ストップー! 聞いててわたしが辛くなってきたよぉ。それは確かに行動不能になりそうだね」


「おぞましい呪い、か……」

 思ってたのとはなんか違うけどな。


「えへへ。ザギィルが穏便にって言ってたから、体がはじけ飛ぶ呪いとかはやめといたんだよ!」


「お、おう。それは偉かったな」


 これで、アルル神を心から信仰する者だけが魔王領に入れる。もしくは、まともに活動できるのがアルル信者だけとなっているはずだ。

 ザギィルとサリーナ達が、アルル信者をとある場所に誘導しているので、エミルを寝かせたら俺たちもそこへ向かうのだ。

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