41 惚れてまうやろ
「どうもすみません」
俺は頭を下げた。この国にもお辞儀など頭を下げる文化はある。というか日本的な文化に違和感を持たれていない気がする。
サリーナがこっちに転生していたくらいだし、日本の生活を経験した事がある魂のカケラが意外と多いとか?日本人の元型が作用してるとしたら、それは集合的無意識のひとつなのかね?
「大丈夫ですから、またご用がありましたらお気軽にお申し付け下さいね」
笑顔で部屋を出て行くメイドさんズ。
有能な彼女達はすぐシーツ交換や、俺の着替えの用意などをしてくれた。
首がつりそうな勢いで避けて顔面直撃は免れたけど、服は汚れちゃったんだよね……。明日までに洗っておいてくれるそうだが申し訳ない。
「ごめんなちゃい」
エミルはソファの上で膝を抱えてシュンとしている。吐いて酔いが覚めたのか、顔色は悪くない。
上目づかいでこちらを伺ってくるのが可愛くて腹たつ。
「お前もうあんなに飲むなよ?」
怒ってないよ、とエミルの頭を撫でて隣に座った。
「嫌いになっちゃった?」
エミルは俺の方に寄りかかってきた。おいおい、まだデレっ子モード継続中だったのか?
「なんでだよ。そんなに、なんだ、その……可愛いのに不安なんだな?」
なぜかばーちゃん扱いはされてるものの、見た目は若いし可愛いし、なかなかグラマラスなようだし、長く円満な夫婦をやっていたんだから性格面でも相性はいいだろう。
「だって、ハルが隠してたグラビアアイドルのDVDとか、消せてなかったデスクトップパソコンのエロ動画ファイルの女の子と違いすぎるもん……」
「うああああああ」
俺は頭を抱えた。
隠せてないし消せてなかった!
「胸はね?これは前世も今もそれなりにあるけど、最終的にシワシワに垂れ下がった時にマフラーにできるほどのサイズは無理だったし」
エミルが胸の下に手を当てて、その大きさを服の上からわかるようにした。
「コント用じゃないから、マフラーとか目指さなくていい。とても好みです」
「ロリコンじゃないって言ってたけど、ロリ系の女の人が好きだよね」
「俺はロリコンじゃないけどエミルは可愛いです」
俺は片手で顔を覆った。性癖が全て見通されているようで恥ずかしい。
「じゃあ、住んでた村とかに好きな子がいたりは?」
エミルが俺の腕を取り、ぎゅうっと抱きついてきた。
「いないよ」
そうか、本当に不安なんだな……。
女性っていうのは、何度も気持ちを確かめたり試そうとする事があるよな。たまに面倒だと思うけど、でもそこでしっかり言葉にしないと誤解を生むからな。
「他の女なんて恋愛対象じゃなかったよ。俺は、お前に会うために生きてきた。お前が男だったとしても好きになっちゃうだろうと覚悟してた。それが俺好みの可愛い女の子で、好きにならないわけがないだろ?」
モテなかったとか、本当は逃げ出す事も考えていたとは言わない。不安になってる女相手に正直でいたってうまくいかないもんだ。
「本当?ハル好みだった?」
にぱっと笑うエミル。そうそう、いつも明るく笑っててくれれば俺は嬉しいんだ。
「おう。逆に俺の方がエミル好みじゃないだろ?お前アイドルグループの誰かが大好きだって──」
「ちっがーう!こんな息子欲しいなとかそういう感じだもん。性的な対象じゃないから!」
「いや俺だってやましい気持ちでエロ動画を見てたわけじゃない」
どちらかというとやらしい気持ちでした。
「ダウト」
エミルが頰をつねってきた。
「ホヘンなひゃい」
「私は、割と顔はどうでもいいんだよね……」
エミルが呟いた。え、どういう意味?俺そこまでブサイクではないはずなんだが。
「ぶっちゃけ眼鏡が顔におけるメインパーツだと思ってるから」
眼鏡!確かに前世では眼鏡萌えって豪語してたもんな。
そういやユーリカの手紙に眼鏡必須って書いてたわ。
「眼鏡は手に入れます。エミルは、俺のことが好きなんだよな。俺の奥さんになってくれるか?」
頰をつねり続けるエミルの指を離し、そのまま握り込む。
これを聞いておかないと、中途半端だよな。今さらプロポーズとか照れ臭いけどな!
「ぇー、大魔王を嫁にするって大変だけどいい?」
エミルが真顔で聞き返してきた。
「大変?」
「アレだよ、資産持ちの老人の元にきた若い後妻が、世間様から財産狙いだってバッシングされるような」
「……お前そんな老人なの?」
エミルはさっと視線を逸らした。
「俺より先に転生してきてたってことなのか?俺が赤ん坊の頃にはユーリカもお前も成長してサリーナに会ってたよな?」
「うぐぐ……老人といえば老人と言えなくもない……」
エミルが何かと葛藤している。
俺はため息をついた。
「言いたくない事はいいからさ。俺は大変でもいいよ、結婚してくれるの?」
片手は握ったまま、エミルを抱き寄せよせる。抵抗はされない。
「ハルがいいなら、私はいいけどぉ〜」
急に照れてふざけはじめたエミルの口を塞いでやろうと、俺は顔を近づけた。
ガチャ!
ブワッ!
「お母さんお薬貰ってきたよ!」
「ユーリカちゃんノックしなきゃだめよぉ〜」
ユーリカとサリーナの声が聞こえると同時に部屋のドアは開けられていて、その瞬間俺は突風に吹き飛ばされていた。
「うおぉ!?」
「あらぁ、大丈夫?」
エミルの魔法で宙を舞った俺を、サリーナが優しく受け止めてくれた。サリーナまじカッコイイ。
これ、俺がヒロインだったら惚れてまうやろ!
ちなみにエミルとのキスは未遂でした。




