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39 おんぶー、おんぶー

 思う存分サリーナを労って、かつ労わる方は癒されるという有意義な時間を過ごしたあと。


「腹減ったな、エミルも起きたし飯どうしようか?」


「臭いのせいで食欲無くなってたけど、癒されたらまたお腹空いてきたね!携帯食はそんな好きじゃないもん、外に行こうよ。お母さん、いいでしょ?」


 人型に戻ったサリーナの尻尾を名残惜しそうに触りながら、ユーリカが言った。サリーナは先ほどのモフ祭りの名残が、感無量という感じで恍惚としている。


「じゃあわたしが奢るよ!大魔王様ですから」


 またエッヘン!というポーズで宣言したエミルだが、


「お小遣いもうないんだった」


 すぐショボーンとした。


「ザギィルに換金してもらおっと」


 いいこと思いついた!という顔でしゃがみ込み、エミルは部屋中に散らばっている素材類の中からいくつかの綺麗な石を集めている。表面が七色に煌めく石、吸い込まれそうなくらい透明な石、燃えているような揺らめきを内包している石……。


「高そうに見えるんだが、床に落としてていいのか?それらは」


「落としてないよ!置いてるんだもん」

 俺のツッコミに、エミルがぷうっと頰を膨らませた。









 広い迎賓室の、立派なテーブルの一席に俺は座っていた。向かいにはサリーナ、その隣にユーリカ。左手側のお誕生日席には魔王ザギィル、俺の右隣にはエミルが着席している。座席順に意味はないらしい。


「ご馳走様でした、美味しかったです」


 腹ペコパーティーのお腹が満たされた。


「それは良かったです。宜しければ外食せずに、いつでも魔王城で食事をどうぞ。他でもないババ様のご家族ですからね」


 ザギィルの機嫌は良さそうだった。


 エミルはあの時、魔法石を換金してくれとザギィルを呼び出したのだが、


「換金はしますが、その前に迷宮で何があったかお知らせ頂けると助かりますね。一緒にお食事でもしながらというのが良さそうですね」


 とにこやかだが有無を言わせない雰囲気のザギィルに決定されてしまったのだった。



「じゃあわたし達が脱出した直後に消えたんですね、あれ」


 ユーリカはデザートを食べている。美味しそうだが、俺は先日の体重増加事件があったので、デザートは我慢だ。


「ええ。気がついた時には高ランクの魔物が大量に出現した通路が消えていた、そう報告を受けています。これで帰還した調査団の報告と、あなた達の話をまとめることができます」


 食事しながら、迷宮内部であったことをざっと話したのだ。主にユーリカとサリーナが。

 俺は素人丸出しだから、冒険者の目線の報告の方が良いだろうと思い口を噤んでいたし、エミルはババ様の記憶は当てにならないとザギィルに言われたのでおとなしく食事に専念していた。


「それ以降、既存の迷宮から出る魔物には異常はないとのことです。アーティファクトと共に、魔力溜まりも消失したとみるべきでしょうね」


 ザギィルが、赤い酒の入ったグラスを傾けながら微笑んだ。


「これで今日は早寝できそうです!」


 忙しいんだな、魔王様……。

 それに比べて大魔王様は、のんきに黙々とお酒を飲んでらっしゃる。


「エミル、酒飲めるようになったんだな?」


 俺は何気なく聞いた。

 前世では、アルコールの匂いが嫌だと言ってほとんど飲むことはなかったのだが、体が違うし大丈夫になったんだなと気楽に考えていたのだが。


「おいしー、おいしーね!このジュース!」


 赤い顔でえへえへと笑う、明らかに酔っ払ったエミルがそこにいた。


「お前、それ飲みすぎなんじゃないのか?大丈夫か?」


「えー、らいじょうぶだもん。一杯しか飲んでないもん」


 エミルの頭が左右に揺れるたびに、髪の毛もサラサラ左右に流れている。


「おかーさんもう三杯目だと思うわよぉ〜。ね?」


 サリーナが、給仕の娘に問いかけると、


「はい、お代わりをされて今は三杯目です。申し訳ありません」


 泣きそうな顔で答えられた。いや、君は悪くないから。大魔王様にお代わりよこせって言われて断れないよね。


「眠いかも……」


 目をこすり始めたエミル。こりゃダメだ、俺たちは顔を見合わせた。


「お前もう寝ろよ。塔じゃなくこっちに客室用意してくれてるってさ」


「歩けないよぅ、おんぶー、おんぶー」


「サリーナもわたしもまだザギィル様とお話し中だから、お父さん運んであげたら?」

 ユーリカがちょっとニヤニヤして言った。なんだよ、お父さんとお母さんで温泉でも行ってきたら?っていう時の顔やめろよ。


「ふむ、頼めるだろうか?」


「ハイ」

 やましい気持ちはないのに、なぜか返事が固くなってしまった。



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