38 ペットサロン帰りみたい
「も、う片方も、脱いで!早く!」
エミルがロフトから身を乗り出し、息も絶え絶えに言った。
俺は目眩を覚えながら、気力を振り絞って残っていたブーツを脱いだ。その途端、今までの刺激臭は幻だったのかと思うほど劇的に臭いが消えた。劇的なビフォーアフター。
「それは装備中しか発動しない呪いだから、もう大丈夫」
エミルがハシゴを降りてきた。
「寝かしとくつもりだったのに、ごめんな」
俺のせいじゃない気もするが、謝っておく。
「刺激臭目覚ましって斬新だったけど、だいじょぶっす」
言いながらエミルはうーんと伸びをした。
「装備がはずせないとか、ブーツ脱いでもずっと臭いわけじゃなくて良かったよ……」
自分の足から、目が痛くなるほどの刺激臭がするという恐ろしい体験をした男の心からの言葉である。こんな臭いを出してたら、現代日本だったら近所から通報されるレベル。
「限定的な呪いにしないと、込める魔力に耐えられなくて消滅しちゃうんだよね、装備が」
「ほほう。じゃあもう呪いはお終いか?このブーツ俺の父親に貰った良い装備なんだが」
「いや、装備するたび発動するカンジー。ふふーぅ」
明後日の方を見ながら、ちゃんと音の出ていない口笛を吹くエミル。マジか、俺このブーツ履くたび異臭発生装置なの?
「解呪したいなら、浄化魔法をかけて貰えばいいよ。司祭レベルじゃないと使えないから、大きい教会でお金積まないとだけどね」
ユーリカがやっと止まった涙を拭きながら教えてくれた。
「いずれ解呪できるなら、強くなるまではこのままというのもアリなのか?いやしかし、くさいくさい言われて俺のガラスのハートが傷ついちまう」
「口くさいのは距離置けば良いし、足くさいのは、ウップ、脱いでる途中だけ気をつければ良いし、くさいの割り切ればいいんじゃないかな?」
思い出して鼻と口を覆いながら、ユーリカが言うが、早速くさい連呼である。傷ついちまうってばよ。
「おかーさん、アタシの真・焼肉屋さんはどうなってるのかしらぁ?手に嵌めて装備してなくても自慢のフサフサ尻尾がゴワゴワのままよぉ〜」
サリーナがゴワゴワ尻尾に5本の指を突き刺したまま、不安そうに聞いた。
「それはまだ、ダメージ分を消化してないから。消化し終わったら、サラサラふわふわフサフサになるよ。あ、ほら」
「あらぁ!なんかツヤツヤになってるわぁ〜」
ちょうど、エミルが言った消化が終わったのだろうか?サリーナの毛がサラサラ艶々フワフワになった。あれだな、ペットサロン帰りのちび太みたいだな。
サリーナは喜んで、またテンションが上がっている。クネクネっとし始めた時だった。
「あっ、イケそう!」
サリーナが叫んだ。
「えっ?」
「あっ、カワイイかも……」
「もふもふー!」
次の瞬間サリーナは完全な犬型に変化していた。いや、オオカミ?しかしデカイな。数人乗れそうな大きさだ。
「あらぁ、アタシ犬じゃなかったのかしらぁ?」
聞こえてくるのは、いつもののんびりしたサリーナの声だった。
「オオカミってイヌ科だし、似たようなものじゃない?サリーナも、自分がイヌ系の獣人っていうだけしか知らないんだよね?」
その美しい毛並みをモフるつもりなのだろう。フラフラと吸い寄せられるようにユーリカが近づいていった。頷くサリーナ。
「首輪を装備して、獣化のスキル習得したのかな?」
エミルはすでにその背にダイブしてモフモフの海に溺れている。
「そうなのよぉ〜、なんかムズムズしてたのよねぇ。イケる!って思ったらできちゃった!これで、念願の……」
俺はサリーナに微笑んだ。
撫でて撫でて撫でまくってやろうとも!耳の後ろも首の辺りもな!
少しくらいペロッとされたって許す!
そのあと三人がかりでめちゃくちゃモフった。
サリーナにとってこの上ないご褒美タイムだったようだ。




