37 休憩しようぜ
「サリーナが大怪我しちゃうのは、わたしもイヤだよ」
ユーリカが、ボロボロになっていたサリーナを思い出したのか、涙ぐみながら呟いた。
おいおい、妹を泣かすなんて悪いお姉ちゃんだな!なんて思ってたら、
「ごめん」
サリーナが真面目な顔で、いつもよりだいぶ低いトーンで謝った。
「あれっ、お兄ちゃんっぽくなってますけど」
思わず突っ込んでしまった。
そんなふうに話されたら、ただの強くて優しいイケメン獣人じゃないか。そんな主人公みたいなスペックの子はうちのパーティー・ふつうの冒険者に相応しくありませんよ!
「あらっ、やだわぁ〜!ごめんなさいねえ」
ユーリカをチラチラ見ながら、焦ったように自分の尻尾をつかみ人差し指でくるくるっといじり始めたが、毛がゴワゴワしているので指が通っていかない。
「ふふっ、もうサリーナを怖いなんて思わないから、昔の話し方でも大丈夫なのに」
ユーリカが、はにかむような天使の微笑を浮かべた。親愛の情に満ち溢れている、それが俺に向けられたのはいつが最後だっただろうか。
「あらそぉ?でももうこっちで慣れちゃったから、いいのよぉ〜。むしろしっくりくるんだけど、たまにうっかり出ちゃうのよね!」
サリーナの指は全部尻尾に絡まっている。むしろ突き刺さっている?
サリーナは、ユーリカのためにオネェキャラにしてたけど、問題なくしっくりきてるって話ね、OK。俺、置いてけぼりじゃないよね、大丈夫ダヨネ。
俺の知らない間に色々あったんだろうけど、根掘り葉掘り聞いてくる親って更に嫌われると思うんだ、主に娘に。なので自然と話してくれるまで待とう。
聞けぬなら、言うまで待とうホトトギス(デタラメ)だ。
正直、他にも聞きたいことは色々あるけど、改まった話をするのってどうしてこう面映ゆいんだろうか。ゆっくり今度話せばいいなんて、先送りにしてしまう俺は意気地なしだと思う。
「それにしても疲れたよな」
ここに戻った時は明かり取りの小窓から夕陽が入っていたのだが、あっという間に陽は落ちた。気がつくと自動で小さな蛍のような光が灯り、星空のように天井に広がっていた。おかげで室内は明るい。
気を抜くと雪崩が起きそうな部屋だったが、俺たちは少しづつ物を押しのけ、場所を確保して座っていた。ユーリカは俺とは少し距離を置いている。
「お父さん何もしてないじゃん〜」
ユーリカが悪戯っぽく言うが、そんな事ないぞ。
「何を言う、俺だってエミルをおんぶしたり、えーっとそうだな…………あー、腹減ったな」
俺は話題を変える事にした。
「そうねぇ、お腹空いたわねェ。エミル様が起きたら城下町に何か食べに行きましょうか?それとも今のうちに買い出しに行ってこようかしら」
のってきてくれるサリーナはマジいいヤツ。
「あー、お母さんじゃないと下の扉は開けられないよ。わたしは転移魔法使えないし。起こしちゃおっか?」
ユーリカがロフトを見上げながら言った。エミルが起きる気配はない。
「あとここに出入りできるのはザギィル様だけ…………」
壁際の棚にある黒いハンドベルのような物を見ながらユーリカが呟いたが、お腹空いたって理由なんかで忙しい魔王様を呼びつけるんじゃない。俺は首を横に振った。
「やめてくれ。エミルは無理に起こすと機嫌悪くなるだろうし、調子悪いのに可哀想だろ。ユーリカ、食べ物持ってないか?」
「今は携帯食とか保存食系ばっかりだけどいい?」
「十分だよ、貰えると助かる。俺たちもエミルが起きるまでゆっくり休憩しようぜ!」
日本人の性なのか、靴を脱がないと寛げた気がしないんだよな。
俺はブーツを脱いだ。
ユーリカが涙を流しながらえずいた。
ややあって、エミルが奇声をあげながら飛び起きた。
サリーナは平気なようだったが、俺は信じられない刺激臭に気を失いそうだった。
足も臭くなってるの忘れてたよ、なんつー恐ろしい呪いだ!




