28 色々我慢してる
ずんずん森を進む、腹ペコ団。一度魔物に出会ったものの、サリーナのひと殴りで相手は木っ端微塵になった。
「加減が難しいのよぉ……」
とサリーナが何かに言い訳していたが、大丈夫、ヒいてないよ。
順調に森を抜け、迷宮近くで昼飯の準備をしていた魔王軍の兵士達の野営地を見つけお邪魔した。
迷宮から出てくる魔物の数が、今朝からずいぶん減っているそうで、緊迫した空気ではなかった。
はじめは何か緊急事態なのかと驚かれたが、エミルと俺たちだけなのを見て大魔王様の気まぐれ漫遊記という事で落ち着いたらしい。
3人で腹をぐうぐう鳴らしながら物欲しそうに食事を眺めていたら、
「こんな食事でよろしければいかがですか?」と言ってもらえたので、兵士に混じって並びご飯を恵んでもらう。
「大魔王様、席について頂けましたら私がお持ちしますので」
隊長が気を遣って声をかけてきた。出世できそうなタイプだな!
「良い、余は並びたい気分なのだ」
エミルはエッヘン!と威張りながら言った。
大魔王が並んでると落ち着かないのか、兵士達もざわざわ、そわそわしている。
「大魔王様初めて見たぜ……」
「じいちゃんがファンなんだよ、サインもらえるかなあ?」
「俺、故郷のばあちゃん思い出した。今度帰郷したら肩たたきしてやろうっと」
兵士達のコソコソ話しが聞こえてくる。丸聞こえだよ!?
ババ様って呼ばれてたしな。どうやらエミルは婆さん扱いなんだな。となると、さっきの隊長の申し出も、年寄りをいたわる方の気遣いだったか。野心持ちの太鼓持ちじゃなく単に優しい人だったようだ。
エミルはおとなしく並んでいたが、聞こえてきた内容にまた頰を膨らませてご立腹のようだった。
腹が満たされたところで、俺たちは礼を言って野営地を後にした。
携帯食料を分けてくれと言おうとしたのだが、エミルがプルプルしてたので、やめておいた。腹を減らして乱入した上に食料の準備もなく迷宮に入ろうとしているとバレたら、大魔王様の威厳がないもんな。すでに無い気もするが、黙っておこう……。
迷宮内でユーリカに会うのが先か、往復転移分の魔力が溜まって食料を取りに行くのが先か、勝負だ!(自分たちの空腹と)
いざ迷宮に突入したのだが。
俺たちは迷宮の中を無言で早歩きしていた。
人間には排泄という生理現象があるわけで。男性陣は、小ならそこら辺でどうにか済ませるのだが、大はどこでもというのはキツい。そしてエミルは女性であるから、場所にはちょっとこだわりたいのだった!
「長いー通路が無駄に長いよー、ぶっ壊していい?」
明るく、見通しの良い通路が続いている。人工物らしく、天井も床も壁も淡く光る白い石で作られている一本道。熱くも寒くもない、湿度も一定に保たれているかのような空間。
歩きやすくていいのだが、窪みも天然の岩陰も木陰もないのである。こんなひらけた場所で用をたすなんてとんでもない!というエミルの気持ちはわかる。が、
「崩れたら困るから我慢」
「もう色々我慢してるってば!」
「お、俺だって我慢してるんだぞ!」
俺とエミルには余裕がない。
「変ねぇ、他の道はこんなに小綺麗じゃないんだけどぉ……」
サリーナだけが平常運転である。クソ、羨ましい!
ドン・シンテンは地下迷宮であった。入り口から下り、奥に進むと広い鍾乳洞のような空間があり、そこから無数の道に枝分かれしていた。そこに兵士や冒険者が数人いて、一応閉鎖されていた。話を聞くと、
「今朝調査団一行がその道を行きました!」
「その後かな?エルフっぽい冒険者が制止を聞かず同じ道に入ったです」
「その新しい道だ。高ランク魔物の大量発生が発覚した時に、気がついたら増えていた」
エルフっぽい冒険者は、ユーリカだろう。
大魔王の権力で通してもらい俺たちもその新しい道を進んできたのだが……。
「整備されてるもんな。罠とか?」
「大がかりすぎるわよぉ〜。それに、怪しさ爆発で警戒されちゃうわよねぇ?」
「だよな。こうやって困るのを楽しんでる奴がいたら変態だしな」
「なんでもいいから、もう限界だよー!ぶっ壊す!」
「マテマテ、どうどう!」
ゴガン!
風が起きて壁に収束し、穴があいた。
遅かった。切羽詰まったエミルが、魔法で通路の壁を破壊してしまった。
「あれっ、お母さん?……とお父さん、サリーナ!?」
大穴があいた壁の先には、驚いた表情のユーリカがいた。




