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26 俺の靴下の匂い

 対策本部がある会議室を後にして、再び衛兵に案内されながら塔の入口まで戻ってきた。はじめは見張られているのかと思ったが、どうやらエミルがすぐ迷子になるから案内をつけられているようだ。

 前世でショッピングモールに行った際は、すぐはぐれてしまうのでいい年をして手を繋いでいたものだ。


 螺旋階段を登り、また散らかり放題の部屋に戻る。

 一般人レベルの体力があるはずの俺だが、少し息切れをしている。


「さて、装備を整えて出発しようかー」


 エミルは色々と乱雑に積み重ねられている中からごそごそと何かを探している。


「装備品買いに行くんじゃないのかよ?」


「んー、私お小遣い持ってないし。使えそうなもので適当に加工すりゃ大丈夫だって」


「はぁ? 危険なダンジョンに行くんだろ?」


「んしょ」

 エミルが無理やり何かを引っ張り出したせいで、がらがらとカオスなタワーが崩れた。


「革?」


「金属も魔法石もあったよー、サリーナ武器持ってるよね?」


「えぇ、アタシの武器はこれよぉ」


 サリーナの武器はナックルだった。サリーナが哄笑しながら力任せに殴っている姿を想像してしまった……。


「ちょっとかしてね。んーっと、きみの名前はー、焼肉屋さん!」

 エミルの持っている金属片と、魔法石がサリーナの武器に吸い込まれるように消えた。次の瞬間、見た目が禍々しいナックルが誕生していた。


「さすがにお話はできない武器なので、私がかわりに。くはは! 我が名は焼肉屋さん! ここに爆誕である! はい、サリーナどうぞ」


「ネーミングぅぅ!」


「えっ? これって魔法武器になるんじゃ……!? おかーさん、ありがとぉ!」


「そんなに時間かけられないので、とりあえず武器だけね」


「十分よぉぉ! 今までの数十倍戦力になれると思うわぁ」


「そんなに凄いのか? それ……」

 なんか凄い加工をされたようである、サリーナはうるうるしながら禍々しいナックルに頬ずりしている。名前に関する俺のツッコミは無視された。


「ハルは今はまだ戦力にできなさそうだから、防具加工して生存率をあげようかな」


「お、おう。お願いします」


「一番良さそうな装備は、そのブーツだね。んじゃ、エミル、いっきまーす」

 今回は素材なしで、エミルの体から黒いモヤのようなものが広がり、俺のブーツに収束していった。


「これでいいよ、生存率アップだよ!」


「おお、ありがとうな。これも魔法防具とかそういう系なのか?」


「いや、呪い装備」


「なんでだよぉぉぉぉ!?」


 ぐりぐり、とエミルの頭をゲンコツで挟んでやった。


「違う違う、呪い装備にしないとうまく強化できないんだもん、意地悪じゃないからー!」


「どういう事だよ?」


「サリーナみたく本人がもともと強くて、武器だけを強化とかならはじめの方法でいいんだけど。今のハルは、ブーツだけ丈夫になっても仕方ないじゃん?」


「ま、まあ確かに」


「だから、装備者そのものに効果が出るように呪いをかけたの! 私、祝福付与とかできないからね」


「じゃあ、呪いとは言っても害はなくて、内容は祝福と同じなのか?」


「ううん、装備者の回避・防御力・生命力を大幅アップするが足のニオイと口臭がキツくなるっていう呪いが……」

 エミルが鼻をつまみながら後ずさった。


「ぬああああ!」


 ありがたいけど凄く嫌な呪い!


「アタシは別に気にならないから大丈夫よぉ!」

 サリーナが励ましてくれるが、前世の犬の時は、会社帰りの俺の靴下の匂いを喜んで嗅いでいたのを覚えているので、慰めにはならなかった。

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