22 俺はロリコンじゃない
魔王城は、魔王領の中心にある都市コフェチョパにある。ここから馬車で3日はかかるが、飛竜便に乗れたら1日でいけるとのこと。飛竜に乗るなんて、ファンタジー感あるぅ! と少しテンションが上がった。
今日はキクリータイヤムに泊まることにした。
一番安い宿を選んだら、一部屋がすごく狭くてただ寝るだけのスペースしかなかった。全部がそういう部屋なので、今回はサリーナと相部屋ではない。
「んじゃ明日は朝飯食いながら、飛竜便の予約に行くって事で、今日はかいさーん。おやすみ!」
「おやすみなさい、寂しくなったらいつでも呼んでねぇ!」
サリーナと一緒なんて、部屋もベッドも狭くて密着しないと無理なんですけど。御免被る。
旅慣れていない俺は、ここ数日の疲れがでたのか、ベッドに横になるなり死んだように眠りについた。
◇◇◇◇◇◇◇
広い場所に、長い長い、先が見えない長机があった。俺は机の前に立ち尽くしている。なんだここ?
「あー、やっと連絡つきました。小池……今はハルトルットさんでしたね」
いつのまにか机を挟んだ向こう側に、前世の死後の世界で会った光る上司がいた。
「あっ! 今頃!?」
本気で今更何の用だと思った。
「いやあ、転生後の連絡来ないなーおかしいなーと思ったら、連絡方法伝えてませんでしたね! そういうのは早めに言ってくれないとダメじゃないですか」
しれっと俺のせいみたいに言ってきた。
色々つっこみたいがとりあえず、
「聞きたいことがあるんですけど」
俺はなるべくイラつきを表に出さないように言った。
「じゃあ後で質問コーナーにしますね。まずは業務連絡です、定期連絡をして下さい。それと、備品類はこのタブレットで注文して下さい。必要経費と認められなかった分は給与から天引きしますので、欲しいものはどんどん注文してくれても構いません。天引きできなくなったら前借りになります。前借りが100年分を越えたら、利息が発生します。数万年働く気があるなら小惑星とか発注してくれてもいいですよ(笑)」
(笑)って言葉で言うなよ……光ってて顔が見えないけど、ニュアンスは伝わるから。
「定期連絡はタブレットからで、今後業務連絡もそこに表示されます。できれば1年に一度は見てくれるといいですね。それは精神世界でしか使えないので、仮死状態になるか幽体離脱して使うといいでしょう」
「仮死状態か幽体離脱? え、じゃあ今俺」
「仮死状態です。そろそろ戻ったほうがいいですね。次からは幽体離脱をお勧めしますよ」
ヒラヒラと、光る手を振っている。
死んだように眠ったんじゃなくて、マジで死んでた!?
「待ってくれ、娘と妻は」
「お気づきだと思いますが、ユーリカさんと魔王さんです。では、良い人生を!」
グニャリと視界が歪む。
「誰なのかを聞きたいんじゃねえ! 質問コーナーどこ行ったぁぁぁ!?」
俺の叫びはたぶん届かなかっただろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ぷはぁっ!?」
息が止まっていたのだろう、一瞬の苦しさがあり、急激に体の『重さ』を感じる。
これは現実の世界だ、感覚がある、窓から入る月明かりがわかる、見知らぬ天井ではない宿の天井が見える。
混乱する頭の中で状況を整理しようとしたのだが、違和感があった。
体が……腰のあたりが重い。
なにかが乗っている感じがする……げ、まさかサリーナが?
慌てて上半身を起こして視線を向けると、そこには女の子がいた。
「は?」
黒髪セミロングをハーフアップにしている。月明かりの下でも色白なのがわかった。赤い瞳は眠そうに半分閉じていたが、長い睫毛が大きな瞳を魅力的に飾り立てていた。
ブカブカしたフード付きのローブは、俺にまたがっているせいでまくり上がって足が見えている。
「え、なんかそういうルート?」
勇者様を色仕掛けで陥落とかそういうやつ? いや俺勇者じゃねえわ、さえない一般人だわ。
「どんなルートさ。フラグ折ってやるわ」
アニメ声だった。めちゃくちゃ可愛いしアニメ声。ヒロイン枠か、もしくはすごい悪役で出てきそうな。
「死んでると思ってあせったんだけど。生きてるね?」
少女が俺の頬を両手で挟みながら言った。顔近い。
「えっと、生きてます」
悪人じゃなさそうだが、妙に緊張してしまう。まるで童貞だよ俺……あ、いや今生ではそうだけど。
俺はロリコンじゃないので、こんな小娘にはときめかない、単純に緊張しているのだ。ドキドキなんてしてないんだからねっ!
「あん? 私が誰かわかってないの?」
眉根を寄せて凄んできた。全然怖くないけどな。意外にガラが悪いな。
「どちら様でしょうか」
「俺だよ俺! 俺だ! 俺だ! 俺だ!」
「オレオレ詐欺からのお笑い芸人……あれ、まさかお前」
このノリには既視感がある。
「うむ、私である」
「老後の夢は?」
「老人ホームでVRMMOにダイブしたまま死にたかったけど、ここじゃ無理そうだよね?」
こてん、と首を傾げた。
このノリと動きは、元妻で間違いなさそうだ。
「えっ、お前だよな、魔王様やってんじゃないの?」
「うむり、魔王様の御前であるぞ、苦しゅうない近うよれー」
すでに近いから! 感動の再会どこ行った!?




