21 既読通知が
「サリーナ宛に伝言はなかったかしらぁ?」
冒険者証を出しながら、サリーナがエルフ受付嬢・シエンヌに尋ねた。
「ああっ! あなたがサリーナさんなんですね!? ありますとも、お待ちください!」
シエンヌがパアッと顔を輝かせた。ずいぶんと熱烈歓迎だな?
一旦奥へ消えたシエンヌは、両手に紙の束を抱えて戻ってきた。
「もうひと抱えございます!」
どさどさっ。
これで邪魔な物がなくなるぜ! という本心を隠そうともせず、シエンヌは喜色満面だ。受取のサインをして、サリーナと2人紙束を抱えてロビーに戻る。空いているテーブルに並べてみると、巻いて封をしてある辺りに数字が入っていた。全部で75巻あった。
「十年以上受け取りしてないから、大量になっちゃってたわネェ……」
「だな……」
サリーナが手紙を開いていく。
「えっと、ユーリカちゃんに連絡を取りたい時にはアタシがここで手紙を開封するっていうのが前提なのよねん」
「ふむふむ?」
「開封するとユーリカちゃんに知らせが行く魔法をかけてあるらしいんだけど、何年も効果が持つ魔法じゃないから数ヶ月に一回は新しいのを置くって事だったんだけどぉ……」
既読通知が行く魔法かぁ。
「入れ替えじゃなくて、追加してるからこんな量になってるんだな?」
「そういう事ねぇ。手紙としての中身付きだったのね、いくつかハルっち関連の事が書いてるわぁ、見てみてぇ〜」
「どれどれ……」
──── 私もお母さんに会ったけどマジありえないんですけど。お父さんも赤ちゃんからやり直してるとかなんなの?
愚痴だな。元妻もユーリカ的にありえない見た目だったってことか? やっぱオッサン魔王だった?
──── 待つのダルいんだけど、サリーナがお父さんさらってくればいくない? お母さんも何言ってるんだかよくわかんないし。
誘拐、ダメ、絶対。
──── こないだのクエスト超面倒だった! もうSランク冒険者になっちゃった。もっと面倒なクエストしか受けられないんじゃないのかな、面倒だよお。
Sランクおめでとう……? 『面倒』しか感想がないのかよ!
──── こっそりサリーナとお父さんを見てきた。もうあんなに大きくなってたんだね。ついでに裏山に降り立とうとしてた悪いドラゴンを消し炭にしといたよ☆
ついで。
──── 魔王領と戦争しようとしてる国に人質を取られて呼ばれて、利用されそうになった。ムカついたから王城ぶっ壊して城内の武器防具全部溶かしておいた。心が折れてなかったらまた攻めようとするかもね。お母さんにも言ったけど、気にしてないみたいだった。そんなことよりお母さんの眼鏡スキーは健在みたいなので、お父さん眼鏡装備して会いに行くべし。《眼鏡必須!》ここ一番大事!
眼鏡情報がメイン!?
──── 私って今は血が繋がってないけど、お父さんって呼んでもいいのかな? お母さんはお母さんだ! って感じするけど、お父さんすごい年下だし、一回もお話しできてないから、不安になってきたよ。お母さんがもう自分からは会いに行くなっていうし……。誰にも相談できないよ。
呼んでいいに決まってる。お前が嫌じゃないのなら、俺はずっとお前のお父さんでいたいよ。
──── 超ヤバイ事が判明した。私の中で最悪の最重要クエスト! アーティファクトを探しにドン・シンテンの大迷宮に潜ります。手に入れるまで帰りません、サリーナは何かあった場合先にお母さんに会っといてね!
手紙はこれが最後だった。
「ドン・シンテン大迷宮?」
「魔王領のはずれにある大きなダンジョンだわねぇ。ユーリカちゃんいつ向かったのかしら?ちょっと聞いてくるわねっ」
サリーナは受付に向かい、俺は手紙を重ねて纏めて置く。
手紙というか日記のような内容だったが、最後がいつだったのか? 既読通知の魔法は有効だったのか。
有効だったとしても、目的を達成するまで戻らないって事だよな、これは。
「ハルっち、最後が2週間前らしいわ! ユーリカちゃんはまだ向こうについたくらいじゃないかしら? ユーリカちゃんの事だから大丈夫とは思うんだけど、なんだか深刻そうだし心配よねぇ」
「通知の魔法が発動しても戻らない宣言だよな?すぐ目的達成でも2週間、場合によっては1ヶ月とか、なのか?」
「あら」
サリーナが、纏めた手紙の中から最新のを引っ張り出して、
「ハルっち、ここ読んでないわねぇ〜?」
指差ししながら見せてきた。
───── 追伸 この手紙の通知はお母さんに行くようにしといたから☆
「通知も行ってるし、まずおかーさんの所にいきましょうねっ!」
天津丼




