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20 はぐれて海外一人旅

「おお、人通りが多い! 都会に来た気分だなー、魔王領景気いいの?」

 小一時間歩いて、街に入る。思ったより遠かったが整備された一本道だったので歩きやすかった。


「う〜ん、アタシも久しぶりなんだけど、記憶とは街の雰囲気が違うかもぉ? 以前よりだいぶ景気良さそうだわねぇ。ここら辺の領主様が変わったのかしらねぇ」

 サリーナは先程明らかに様子がおかしかった俺を気遣わしげに見ながらも、深く突っ込まずにいてくれる。


「へぇ、栄えてるならやり手なのかな。スリッパ売ってないかな、スリッパ。高級スリッパはメイドイン魔王領だって聞いたんだよね」

 革とか木でできた、素朴なサンダルやスリッパはムルシウの雑貨店なんかにたまに入荷してたらしい。しかし、俺がほしいのはペラッペラとか硬いのじゃなくて、内側がフワフワとかモコモコしてる感じのやつである。そいつらは高級スリッパなのだという。


「でも高級品じゃお金が足りないか。ユーリカに連絡取るんだろ? 返事まちの間仕事してお金稼げないかな」


「あらん、お金なんてアタシが……と言いたいとこだけど、実はアタシもそろそろ心許ないのよネェ」


「ずっとクエスト受けずに俺を守ってたら収入あるわけないよな。……ありがとうございました」

 ぺこり。

 俺は頭を下げた。


「! っ、いいのいいの! そういうの要らないわよぉ〜、どうせならナデナデとかぁ、く……首輪を買ってほしいわぁん」

 サリーナが人差し指と人差し指をひとりE.Tしながら頬を染めて言った。


「!?」

 すぐ前を歩いてた通行人がギョッとして振り向いた。


「首輪?」


「そうよぉ〜、アタシはハルっちのモノ! っていう証が欲しいのよぉ〜!」


 そりゃ飼い犬だったときは首輪をつけていたけども。そういやちび太が死んだ時に、思い出として首輪は取っておいたんだよなあ……細めの、赤い革の首輪。CHIBITAって名前と電話番号の刻印が入っているそれは、元妻の手作りだった。心配性の妻が、

「N○Kの英語犬ばりに、はぐれて海外一人旅とかするかもしれないじゃないの!」

 と、万一のために英語表記の住所も刻印していた。さらに何か手を加えようとしていたが、情報過多でなにが書いているかわからなくなって来てたので俺がそっと止めたのだった。


「せめてチョーカーとか、違うもので検討させてください」

 家族の証みたいなのが欲しいのかね?


 要検討、という事になった。





 賑やかだった通りから少し外れた場所に、キクリータイヤムの冒険者ギルドがあった。


「ここもこじんまりとしてるな。ムルシウのギルドもこんな感じだったけど、中央支部と格差がすごかったよなぁ」

 ギルドの入り口前で建物を見上げてみると、年季の入った壁には素人っぽい修繕の跡がある。


「新しくムルシウ中央支部を作ったのは派閥が違うギルド長らしいわぁ。冒険者ギルドは、世界各国種族の差別なくネットワークを持ち、存在しているべきっていうのが昔からのギルドの考えなんだけど、最近のギルドのお偉いさんには少し違う考えの人が増えているみたいよぅ」


「ここも不遇されてきてる。魔王領にケンカ売りたいのかね?奴らは」


 いきなり、シブい声が割って入ってきた。振り向くと、青髪眼鏡のオッサンが立っていた。


「私はここの職員だ。中に入るか、入り口前から避けていただけるかね?」


「すいません、入ります」

 邪魔になっていたようだ、ごめんなさい。


 一緒に中に入ると、ロビーには数人しかいなかった。受付は熟女ではなく、若い女性が二名座っている。一名は頭に角がある赤髪、一名はセミロングのエルフ女性だった。


 ユーリカの方が美人だな!

 と失礼なことを考えているのがバレたのか、エルフ女性がこちらを睨んでいる。


「ドゼアルさん、出かける時は置き手紙じゃなくて口頭で伝えて下さいって何回も言ってますよねえ!? 王立図書館の方がどこ行ったのかいつ戻るのかわからないあなたをお待ちなんですけど!」

 俺じゃなくて青髪眼鏡さんを睨んでいたようだ。ほっ。


「約束は今日だったかねえ。君たち、私はこれで失礼するよ。ようこそ、冒険者ギルドキクリータイヤム支部へ!」

 悠然として二階へ上がっていくドゼアル。


 エルフ受付嬢もハッとした様子で

「ようこそいらっしゃいました!」

 と取り繕うような笑顔を浮かべた。


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