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2 スライムではなかったよ

 たどり着いた先は工場のような場所だった。

 そして、俺はまだ成仏できなかった。



「じゃあこれからリサイクルされて、『何か』に生まれ変わるという事なんですね」


 俺は周りを見渡しながら聞いた。キョロキョロしても形が魂型なので、どこを見ているのか傍目には判別できなさそうだ。


「そうですね〜、ランダムで。じゃないと、魂に偏りが出ちゃうんですよね」


 俺の上司に当たる、(いわゆる天使のような)光る人型がそう教えてくれた。


 驚くべき事に、魂は資源だった。


 生き物の身体に一つは入れるようになっているそうなのだが、


「数が足りなくなってくるんですよね。摩耗したり、ここの世界でいうと人口が増えてますし、他にも色々です」


「そうなんですか。昔はリサイクルしてなかったんですか?」


「景気のいい時はそうでしたねー、リサイクルは最小限で、あとはエネルギーに変換しちゃってました。でも最近だと、一から作り出すとコスト的な部分で良くないんですよね」


 というわけで出来る限り再利用するらしいが、ペットボトルみたいに

(記憶を)洗浄して、

 粉砕して、

 カケラを集めてまたペットボトル……じゃなく魂を形成するそうだ。


 俺はそのリサイクル工場の作業を見守る仕事に配置された。

 本来ここにたどり着いた魂はすぐ洗浄にかけられるのだが、俺はなぜか異物検知の検査で引っかかったのだ。


「魂に金属片が混じってるわけでもあるまいし」

 と思ったが、原因がはっきりするまで、ここで仕事をするようにと言われ従う事にした。

 他にどうしていいか分からないしな。






 ぼーっと流れていく魂を眺めるだけの簡単なお仕事。

 黒っぽいのやキラキラしたもの、大きいもの小さいもの……いろんな魂があるのは、思ったより飽きない。


 洗浄・粉砕の工程は箱の中なので見えないが、そこを抜けてまた流しそうめんのように流れてくる魂は、

「磁石の対極のように離れていくもの」

 や逆に

「ある程度勝手に集まっていくもの」

 があったりと面白い動きをする。なんかスライムみたいだな。



「……俺もいずれあの中に行くのか」

 そう思っても、特別感慨はなかった。




 洗浄されていない俺の魂には、まだ記憶が残っている。


 生前の様々な出来事をなんとはなしに拾い出し、そんなに興味のない小説を暇つぶしに立ち読みする感覚で思い返していた。


 生前、ブラックとは言い切れないグレーな会社の中間管理職として頑張ってきた。異動した部署で部下に年上の女性が多かったせいでモラハラに悩まされ、男の上司はパワハラで責め立ててくる。


 朝会社に言って挨拶しても半数以上に無視される。

 業務連絡をすると舌打ちされる。指示は反抗されるか、聞いていなかった事にされて結局上司には俺のやり方が悪いと言われる。お前は人間じゃないとか、常識がないんだから偉そうな口をきくなと責められた事もある。


 上司に相談するも、

「テメェで考えろ」

 と突き放される。


 考えてやってみたことはほとんど

「なに余計なことしてやがる」

 と一蹴され皆の前で大声で叱責してくる。


 そうしてさらに上の上司には

「もう少し周りに相談してみろ」

 と、遠回しに俺が悪いと言われてしまった。


 結局誰にも相談できずに、どんどん自分を追い詰めることになったのだ。



 ふと、

『どうやったら会社に迷惑をかけずに自殺できるか』

『このまま車で崖下に落ちれば会社に行かずに済むのか』

 そんな事ばかりを考えるようになっていた自分に気がついて、残業続きで遅かった俺を待っていた妻に打ち明けた。



「会社を辞めてみようよ? 私は会社のせいであなたを失うのは許せない。同じ状況で私が死んだらあなたなら会社に殴り込みに行くでしょ?」

 と妻は言った。表情は覚えていない。ただその言葉は俺に真っ直ぐに届いたし、有り難かった。




 その翌朝、

「私が会社に電話する!」

 と憤慨して言っている妻をなだめて、


「話して少し気が楽になったから、今日はまとめて休みを貰うために出社するよ」

 と説得して家を出た。

  いい歳になっても、毎朝行ってきますのキスを欠かさなかったのに、その日に限ってはしなかった。



 ここ最近よく眠れなくなっていたし、時折胸の苦しさや酷い動悸がするようになっていた。


 とりあえず少しの間休暇を貰おう。昨日までは死ぬ事を考えてしまっていたのだが、今日は、

「これは異常だから回復するために頑張ろう」という気持ちになっていた。


 そう思っていた出勤途中に、急死したようだ。


 断じて自殺ではない。

 急に目の前が真っ暗になり、そのままフェードアウトしたのだ。


 そして、次に気がついた時には

「あ、俺死んでる」

 と理解していたのだった。





 魂だけになり時間の感覚が曖昧になっている。

 それでもしばらくの時間が経ったのではないかな?と感じ始めた頃。


「小池雅治さん、至急管理室まで来てください!」


 俺は呼びされた。


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