19 他人のフリしないで
関所を越えてからは、徒歩で街まで移動する。サリーナはもう耳も尻尾も隠していない。
「久しぶりだわぁ!」
どことなくのびのびしているようで、俺も嬉しい。やっぱ偏見とか差別の多いところにいるのはキツイよな。自分がしでかしたなにかの罰なら受け入れるかもしれないが、サリーナにはなんの罪も正当な理由もないんだから。
「えー、ゴホン。ぇー、その、俺の奥さんだった人はどこにいるのかね?」
ヤバい、緊張している。無駄に緊張している。
「あ、おかーさんは魔王城にいるはずよん! 魔王様をやってらっしゃるわぁ」
「うがーーやっっぱりそうだったのか! 俺の勘違いじゃなかったんだ!」
俺は頭をかきむしった。
「ちょっとハルっち、しっかりしてぇ!?」
「15年間アレに関しては何も音沙汰なかったし、俺の勘違いとか夢だったんじゃないかって最近は思ってたんだよ! ああああーーー! ああー! あー……はぁっ」
サリーナがあたふたしているが、俺はひとりでスッキリした。
ユーリカに会った時、普通に美人なエルフのお嬢さんだったから、少し自分の記憶を疑っていたんだ。
魔王うんぬんは勘違いで、家族みんなが転生した理由は実は別にあるんじゃないか、逆に何も理由なんかなくて、偶然とかそんなので片付けられたらいいなとか。
俺が転生する時に見た悪夢が、実際にあったことそのままだとは思わないけど。
魔王ってなんだよ?── それは、あまり考えないようにしてきたこと。
なにせ前世の知識では、魔王っていうのは討伐される悪の権化とか、そういう悪いイメージの存在だ。この世界でも昔は勇者が魔王を討伐したと言い伝えられている。
いくら今は討伐の必要なんかのない、魔王領の王様の身分を表す言葉だといったって、魔王って言葉の響きが……。
魔王様って、サリーナみたいにゴツくてデカくて更におっさんなんだろうか……それが元妻?
それが俺の家族。管理する対象。
不安がないわけがなかったし、現実逃避で「きっと俺の勘違いだよね!」となってたのを笑わないでほしい。
光る上司から何も言ってこないのを言い訳にして、全てを変な夢を見てたことにして、前世なんか知らないって言い張って新しい人生を過ごしても良かったのかもしれない。実際それを考えていた時期もあったのだ。
あの時ユーリカに会わなかったら、そうしてたのかな。
15年間何もなかったんだから一人で異世界転生楽しんでも良いよね! ってな。
そもそも、向こうはどう思っているんだ?
俺はどういう感情で向き合えば良いんだろう──
そんな、ごちゃごちゃしてた心の中が叫ぶことで少し落ち着いた。
「ごめん、ちょっと叫びたい気分だった! スッキリしたわ、驚かせて悪かったな」
俺はサリーナに謝った。他人のフリしないでくれてありがとう。
「考えても仕方ないから、とりあえず行動してみるか!」
前世では考え過ぎたり真面目に取り組みすぎて、ストレス死に至ったのだと思う。今世ではそんな事がないように、「いい加減」に「適当」な感じで生きていきたいものである。




